プロローグ
花が咲いていた。
とても綺麗だった。
大切にとっておきたくなった。
だけど、花の摘み方が分からなかった。
茎を折った。
花が摘めた。
とても綺麗だった。
大切にとっておきたくなった。
時が流れた。
花を見た。
茎を折られた花は、枯れていた。
*
やり直したい過去ってある?
今日の朝食は食パンにすべきだったとか、
もっと早く試験勉強を始めるべきだったとか。
過去なんてやり直せない。
後悔するだけ時間の無駄だよ。
そう思ってた。
僕は、お節介な女神に捕まった。
気が付くと真っ白な異空間にいた。
いるのは、僕と、僕とよく似たクリーム色の髪の女性だけ。
彼女は僕を見て微笑み、背中に生えた白い羽根を広げた。
彼女の名はスピカ。
女神らしい。
彼女の仕事は「誰もが幸せな世界」をつくること。
そんでもって僕は、それに背く「取り返しのつかないこと」をしたようだ。
といっても、僕には全く心当たりがない。
それもそのはず、スピカが「取り返しのつかないこと」に関する僕の記憶を消したみたいなのだ。
何がいけなかったのか、自分で考えなさいってこと。
小学生みたいな反省のさせ方だ なんて思ったけど、口には出さなかった。
口に出すのも面倒だった。
スピカはこれから「取り返しのつかないこと」に関するいろんな人の記憶を僕に少しずつ見せてくれるらしい。
そして、僕がどうすべきだったか自分で答えを見つけたとき、「取り返しのつかないこと」が起きる直前の世界へ僕を帰してくれるそうだ。
いろんな人って誰?
そんな大勢が関与してるの?
なぜやり直しをさせてくれるの?
なぜ僕が選ばれた?
そもそも僕は誰?
溢れ出る疑問の数々に、スピカは1つだけ答えてくれた。
「あなたがとても悲しそうな顔をしていたから」
そう言って微笑んだ彼女の顔も、どこか悲しげに見えた気がした。
スピカが左手を僕の前にかざすと、フッと意識が遠退き、頭の中にある情景が流れ始めた。
ああ、僕め。
一体何をしたというのだ。