飲む
「ねぇ、加賀って夏休み何してるの?」
乾杯したジョッキを飲み干してから、矢島さんが聞く。
「あんっ? 俺か? そうさなあ、毎日ガチャガチャしている」
加賀も負けじとジョッキを空にする。
「だから、そのガチャガチャが何か聞いてるの」
「まぁ、ガチャガチャはガチャガチャだ」
「わかった、麻雀でしょ」
加賀はわざとらしく渋い顔を作り、時代劇の役者でもあるかのような声で「むう」と低く唸った。
「なぜわかった」
「梶くんから聞いたよ。最近流行ってるんでしょ」
「最近じゃあない。昔からだ。大学に入るということはすなわち、麻雀を始めるということでもある」
「駄目になるよ」
「承知の上」
加賀はニッと笑って答えると、一番目に手に取ったスパゲッティの乗った皿を空にする。
あとから入ってきた20人ほどの大所帯が、じぶんたちの隣の席で乾杯を始めた。おかげで一段と周りがガヤガヤとうるさくなる。
加賀はテーブルの上に並べた大量の皿を次々と空にしていき、矢島さんは矢島さんでジョッキを空にしてはビールを入れという行為を繰り返していた。
加賀と矢島さんが話しているしばらくの間、じぶんと水沢さんは、二人の会話を聞いて笑ったり、あいづちを打ったりするだけだった。よって、加賀が「ちょっとトイレ」と言って立ち、矢島さんがビールのおかわりへと席を離れると、じぶんと水沢さんの間には、妙な沈黙ができた。
隣の席のガヤガヤが一層強まった気がした。
手元のジョッキをちびちび飲みながら、視線はじっと水沢さんを見つめていた。「今度こそ何か話さなくては」と気持ちが駆られていた。
「どうしたの?」
両手でジョッキを持った水沢さんが、小首を傾げて聞いてくる。じぶんは一寸戸惑い、頼まれもしないのにジョッキに残ったビールを飲み干した。
「みっ、水沢さんは普段どんな写真撮ってるんですか」
つかの間キョトンとしてから、水沢さんは笑った。
「あのね、……空を撮ってる」
水沢さんは、景色の方を向いて目を細めた。短い黒髪がそよ風に揺られた。
「そ、そうなんですか。綺麗ですよね。空」
「うん」
こちらの方を見もせずに水沢さんは答える。
とても短いやりとりを交わしただけでコトバは続かなくなった。何を話すべきか、何も浮かばなかった。
でも、今度の沈黙は居心地が悪くなかった。




