表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が正義でお前が悪で  作者: あらた
21/22

第21頁 突然の来訪者

真央はとうとう虎太郎の居場所を見つけてしまい、自分達の正義のために、それぞれの選んだ答えとは?

物語はクライマックスに突入いたします。

 下校後スーパーでの買い物を済ませた真央の耳に、どこからか少年たちの叫び声のようなものが聞こえてきた。その声の方へ目をやると3人の小学生がとある洋館の庭から慌てて駆け出して来る姿が見える。まるでなにかから逃げるような必死の形相のまま、少年たちは真央の横を走り去っていった。

 何かあったのかと思い、胸騒ぎがした真央はその洋館の前まで足を運んだ。

「虎太郎……」

 確かに古びた洋館のわずかな明かりに照らされ窓際にいたのは、魔界から魔王である自分を追いかけて来た実の弟の虎太郎だった。

 この世界のどこかに滞在先があるのではないかと考えてはいたものの、こんなに近くにいたとは知らず自身の能力を恥ると同時にある一つの考えが、今の真央には浮かばずにはいられなかった。

 拳を握り一歩を踏み出そうとしたとき、ガザッと手に提げた買い物袋が音を立てる。その音で我に返ったのか、はっとした表情を見せた真央は、洋館に背を向けいつもの道を歩いて帰って行った。



「はぁ~へいわだわ~」

「そうだな」

「このまま万里が問題を起こさなきゃ、平穏な日々は続いていく気がするんだけどな」

「あぁそうだな」

 真央が虎太郎の潜伏している洋館を見つけたその次の日。

 いつものように学校へ行き難しい問題が当たってあたふたする奏人を真央が救い、昼休みには重箱を抱えた真央の周りにはたくさんのクラスメイトが集まり楽しい昼食の時間を過ごし、放課後になって運動部や文化部の勧誘をするりとかわし走って逃げ、切れた息がやっと元通りになった頃の事。


「真央?何か、言いたいことがあるんだろ?」

「奏人……」

 

 奏人には心の準備があった。


 命が危険にさらされるかもしれないのだ、早く決着をつけなければいけない。早く解放されたい。

 けれど、半面、真央たちとの非日常な平凡がなくなってしまう事に耐えられるのだろうか。このままみんなで過ごしていたい。

 どちらに転んだとしても、平穏無事ではない。それが自分の望む生き方なのだろうか?そんな不安定な感情を抱きながら奏人はすごしてきた。


 そして、とうとう決着の時が来たのだとどこかでわかったのだ。


「虎太郎の居場所がわかった……」

 そんな奏人の思い全てを分かっている真央は、迷うことなく話を始める。

「説得に行く」

「説得?」

 もちろんお互いが、虎太郎という相手に対して説得などという事ができるわけがないと確信に近い感情を抱いたままそれ以上は口には出さなかった。

 真央の言いたかったことはそこではなく、説得のその先の自身の行動の事だ。奏人ももちろんそのことは分かっていて真央がいう事をためらっているという事も感じ取っていた。


「引き留めても、いいのか?」

「……」

その時、後ろからタッタッタと駆けてくる靴音が二人分聞こえてきた。


「魔王様ぁ~」

「真央君!万里ちゃんを置いていってしまうなんて、どうしたの?」 

 魔王の従者のマリー(万里)と奏人の幼馴染の結衣が、二人を追いかけてきたようだ。

 この二人もまた、真央から何かを感じ取っていた。


「万里、結衣」

 真央は、魔王とは思えないような優しい微笑みを浮かべる。

「俺に時間をくれ」


 真央の微笑に隠された思いを知った万里は瞳を大きく開いたままその場に立ち止まってしまい、奏人は何も言わない。結衣だけが、まだ、抗おうと声をかけた。


「今、いかなくてもいいじゃない!もしかしてもう、何もしてこないかもしれない!そんな急に行かなくても!!」

「そ、そうだ!」

 結衣の言葉に、奏人もまっすぐ真央の背中を見つめ声を出す。

「早く決着をつけたいのは分かる!でも、もっと作戦を立ててからとか、仲間を呼んでからとか!!」


「奏人すまない」

 真央の背中にはもう、何を言っても無駄だという空気が漂っている。


「奏人、結衣。我々はもともと交わることのない存在だったのだ。こんな変なやつらに、優しくしてくれて心から感謝している」

「真央……」

「真央君」

「この世界ではあり得ない我々を信じ、居場所まで与えてくれた。お前たちは俺にとってかけがえのない大切な……」

真央の言葉が一瞬詰まった。

「『親友』を見捨てることなんてできるわけがないだろ!」

真央の口から出ることのできなかった言葉を奏人が代弁する。

「見捨てたことなんてないだろ、ずっと」

いつの間にか涙をこぼしながら真央に語りかける奏人に、真央は少しだけ顔を向けながら静かに言った。


「お前たちを守る。それが、俺の正義だからな」


「魔王のくせに……」

 引き留めることはできない。

 奏人の瞳からは味わったことのない感情を貯め込んだ涙が次々と流れ落ち、地面に冷たく浸み込んでいった。

 真央はもう何も言わず歩き出し、奏人たちの前から見えなくなってしまった。



「すまない」

 真央は別れた奏人や結衣のことを思いながら、虎太郎のいる洋館を目指し歩いている。

「よかったんですか?」

「世話になったあいつらを巻き込む方が辛い」

「そうですね」

「お前、ついてきたのか……」

 いつの間にか、万里が真央の横に浮かびながらついてきて来ていた。

「私はこちら側ですよ?一人で楽しいことしようとするなんてずるいです」

 真央の顔をのぞきこみながら、明るく笑いかける万里に、真央は呆れたようにため息をつきその頭を撫でる。瞬時に万里の顔は真っ赤に染まった。

「そうだったな、ありがとう」

「魔王様!!!一生ついていきます!この体好きにしてください!!」

 万里は、思わず真央にしがみついていた。



「引き留めるなんてしたくなかった、だけど……」

涙が止まらない奏人の手を、結衣がつかんで強く握った。奏人の手は強く握られていたが小刻みに震えている。奏人の思いを結衣は代わりに口にした。

「大切なものを護りたい気持ちは一緒だよ」

「結衣ちゃん」

しんみりとしている二人の背後にまた人影が現れた。


「あいつ、いったのか?」

「そのようですね」

 そこには、魔王である真央を追いかけて異世界からやってきた勇者である由紗とその仲間の丸々が立っていた。その姿を見た瞬間、奏人は天の助けが来たと言わんばかりに表情をゆがめ涙をぬぐい由紗にかけよった。

「来てくれたのか!!お願いだ!真央を!!」


しかし、奏人の期待の眼差しの先の由紗の目は期待を裏切るものだった。


「なんで俺様があんな奴を助けなきゃいけないんだよ?」

「は??」

「は??」

「は???」

由紗以外の3人は、ここはピンチをさっそうと救いに来た勇者の姿を思い浮かべていただけに由紗の言葉を飲み込むことができずにいた。


「だいたい、あいつの兄弟喧嘩だろ?俺様の出る幕じゃねえっての!」

「そんな……」

 最後の望みの由紗の言葉に奏人はとうとう膝を地面につけた。


「バイトの時間だ!行くぞ丸々!!」

 腕時計を見た由紗は多少慌てた様子で、丸々の腕を掴むと奏人たちをその場に残し何事もなかったのように立ち去ってしまった。


 奏人は、顔を地面に向けたままふるふると体を震わせている。

そんな奏人を見て、結衣はもう、どんな言葉をかければいいのかわからなくなり立ち尽くしている。


「あんな奴に頼ろうとした、僕が間違っていた……」

「奏人君??」

「この世界で、真央たちが頼れるのは……」

 奏人は、突然立ち上がり真央の去って行った方をまっすぐに見つめゆっくりと歩きだした。

「何もできないかもしれない、足手まといになるかもしれない。だけど、何もしないなんてできるわけない!探そう!」

 「こんなお別れの仕方なんておかしいよね!」

 結衣も、奏人の横について歩き出していた。そして、いつの間にか二人は真央と万里の背中をさがし走り出していた。



「よくここがわかったね。兄上」

 真央はそのまままっすぐに虎太郎の潜伏している丘の上の古びた洋館へ向かった。

 迷う事もなく、その扉を開け荒廃した玄関で虎太郎の名前を呼び、慌てた様子もなく虎太郎は二階から真央の前に姿を現した。もちろんその後ろには、大剣使いの従者が静かに立っていた。

万里は何かあった時のために、真央から少し離れた物陰に隠れ成り行きを見守っている。


「虎太郎様、どうなさいますか?」

 従者は、仕えていたよしみからか真央に軽く会釈をし虎太郎に尋ねた。


「お前は僕がこいつと話し合いでもすると思っているのか?」

 虎太郎は従者の方は見ずに真央をきつく睨んでいる。


「虎太郎」

真央が階下から、虎太郎に呼びかける。虎太郎の眉がピクリと動いた。


「すまなかった」

 真央は虎太郎に本当の気持ちを分かっていたかのように、ゆっくりと頭を下げた。

虎太郎はその真央の姿を見るなり、逆に苛立ちの表情を浮かべた。


「……なんのつもりだ!謝ってほしくてここに来たんじゃない!!」


 虎太郎の手のひらから、真っ青なエネルギーの塊が熱を帯びて発射される。それはとてつもなく速いスピードで真央に向かっていった。

 次の瞬間、とてつもない音とともにその塊は真央に直撃しエネルギーは爆散した。

 ほこりが一帯を覆い、真央の姿を確認するのに時間がかかった。


「魔王様!!」

 思わず万里が真央の元へ駆け寄ろうと一歩前へでた。

「マリーよ動かなくとも大丈夫だ」

 その中から、服を所どころ焦がし傷を負った真央の影が現れた。

 攻撃は効いていなかったわけではないのに、大した怪我もなくその場にしっかりと立っている。

 そんな真央の姿に、虎太郎はさらに逆上し、今度は両手に一つずつ魔力の球を浮かび上がらせた。


「お前なんか!!!」

 虎太郎はそう叫ぶと、魔力の弾を次々に真央へ向かって投げつけた。

 先ほどと同じように爆発とともに粉塵が上がり、真央の姿を確認するには時間がかかった。

 しかし、真央はまだ、その中心で立っている。


「そんなものか?そんな力で、魔王になろうというのか?」

 真央が煤に汚れた頬を手で拭うと、虎太郎に向かって嘲るように笑った。

「魔界を、捨てたやつが強がってるんじゃない!!!!」

 虎太郎は、次から次へとどんどん魔力の弾を生み出し真央へ向かって何度も投げつけた。


 従者は、虎太郎の体力を心配したのか、その手をつかみ引き留めた。

「放せ!!!」

「放しません!魔王様が現れたら次は私が参ります!!」

 従者は虎太郎に向かって、大剣を見せつけ冷静になるよう促した。


「魔王は、僕だ!」

 カッとなってしまったことに気付いた虎太郎は、従者が思わず口を突いて出た真央に対して魔王と言ってしまったことに苛立ちを感じたが、落ち着きを取り戻すと、従者の手を振り払い大きく息を吸った。


「……参ります」

 引いていく砂煙の中に真央の姿を確認した従者は大剣を肩に担ぎ、戦闘の体勢に入ると素早い動きで真央に向かって大剣を振り上げ飛びかかった。


「しまった!」

 流石に、前のはっきり見えていない状態では真央も反応が鈍っていた。

 力を貯めておこうと思っていたがかわす為に、自らの魔力を使おうと身構えたその時。


「むっ!」

 真央の前に人影が現れ、きらりと光る剣が、従者の大剣をずしりと受け止めた。重さで真央の周りの地面が沈みひび割れている。


「よお、おっさん」

真っ赤な髪をなびかせ力強いまなざしを従者へ向け真央の前に立っていたのは、勇者である由紗だった。


「やはり来たか、その剣は伝説の剣だな?」

従者は少し嬉しそうに口元を引き上げると、真央たちと距離を置いた。

「お前、なぜここに……」

真央は未だに信じられないものでも見たかのように、目を丸くして由紗を見ていた。


「いいバイトがあるってきいてな!!いくらくれるんだ??」

 ニヤリと笑いかける由紗の姿を見た真央は、降参とばかりに両手を開くと笑いながら由紗の隣に立った。


「城の中の金目の物、いくらでも持っていくがいい」


「交渉成立」

 口をとがらせ嬉しそうに口笛を吹いた由紗は、剣を従者へ向け軽い足取りで走り出した。

「やっと取り返した伝説の剣!この前みたいにはいかねぇぜ!!」


 由紗の剣と従者の大剣が交わろうとした、その時だった。



 ビリビリと小さな電気がその間に走ったかと思うと激しい稲妻がその間を引き裂いた。


「なんだと!?」

 その稲妻には見覚えがあった。真央も由紗も、この稲妻によってこの世界へと召喚されたのだ。

同じような稲妻が何度も洋館の中で鳴り響く。


「メイガス……」

 稲妻が巻き起こした煙の中から、数名の小さな生き物が姿を現した。真央は、メイガスと呼んだその生き物の元へ駆け寄っていった。


「おお、魔王様。ご無事で」

 メイガスと呼ばれた生き物とほか数名は全身にローブをまとった小さな老人で、魔界の魔術専門部隊を率いている魔族である。メイガスは真央に膝をつき頭を下げた。


「どうか、早急に魔界へお戻り下さい」

 深く頭を下げたメイガスは懇願するような口調で真央に向かって話をする。


「魔界が大変なのです」

 真央も、虎太郎も従者や由紗は突然訪れた急展開に、呆然と立ち尽くすしかなくなっていた。

お読みいただきありがとうございます。

いいとこどりの由紗君!のはずが思わぬ邪魔が入ってしまいました。

次回あいつがさらに暴れだし、大変なことになっていきます。次話更新をお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ