第2頁 勇者様キター!!
はい、ヤツが登場します。登場するだけです…
今回は、なんか憎めない魔王様を見守ってください。
「かなとくん、さっきの二人、付いてきてるんだけど…」
奏人と結衣の後ろでなり響く固い靴音とマントがなびく音。
折笠結衣が後ろを見ないように奏人に寄り添って小さな声で呟く。
「気のせい…こっち側に用があるんだよ…」
関わってはいけない。
そう感じて結衣を引っ張り、彼らから逃げたつもりだった。
しかし、何故だか放っておいてもいけない気がした。
意を決して立ち止まり、怪しげな二人へ顔を向けた。
「あの!!」
「なっ!」
真っ黒い男がいきなりの事に身構える。
「ま、まお、うさんはこちらに用事がおありで?」
「…」
魔王は一度うつ向くが、すぐに顔をあげ奏人を見る。
「…気に…してくれるのだな。なんと言う心遣い。マリーよ!いいところへ召喚してくれたな」
まおう。その響きとは似つかわしくない優しい眼差しが返ってきた。
「えぇ!!一度きりですけど」
マリーがにこにこ笑顔で魔王を見上げる。
「そうなのか!?」
「あの〜」
「あれ、すんごい魔力使うんですよ!しばらくは私なにもできませんよ」
「…まあ良い。素晴らしいところな気がする。ここならやつも来まい」
「あの〜っ!!」
電波の飛び交う会話を遮るため、奏人は声を張り上げた。
「どうしたメガネ!?」
「メガネ!?」
奏人のメガネが一瞬ずり落ちるが指で直し、冷たい視線を送る。
場の空気を読んだのか、魔王は眉を寄せた。
「あぁ…すまん、貴様の名前を知らぬものでな…」
「貴様って…い、石橋奏人です!!」
また貴様などと呼ばれては血管が切れそうな気がしたので諦めて名乗った。
「イシバシカナト!?なんと言う酔狂な名前だ!!」
魔王は何故か感動している。
「酔狂!?」
だが奏人はさらに傷付いた。そりゃ声も裏返る。
「イシバシカナトは何ができるのだ?魔法は使えるのか?手ぶらと言うことは剣士ではあるまい?」
魔王は興味津々に奏人を上から下まで眺める。
「なんか、オレ、泣きそうなんですけど…」
「かなとくん!!負けないで!!」
結衣が奏人の手を掴んで微笑む。
体温が一気に上昇するのがわかった。
気持ちが入る。
「あの、イシバシカナトはフルネームで、名前は奏人なんで、奏人でいいです!あと、オレは魔法も剣も使えません!て、いうか使ったこともないし、この世界では必要ないんです!!だいたい、俺の最初の質問聞いてました?後をつけられているみたいで嫌なんですけど!!」
勢いに任せて一気に話す。息が切れたがおかまいなしだ。
吐き出して少しスッキリとした。
「ちょっとあなた!!魔王様に何て口を!」
「…」
突然マリーが肩を震わせ奏人に近づきネクタイを掴んだ。
「うがぁ〜死ぬ〜」
激しく揺すられ、顔面蒼白になりながらふと、魔王にめをやった。
「マリーよ、やめるのだ…」
力なく呟く。
その姿は魔王というイメージとはやはりかけ離れていた。
ゆっくりと奏人の前に歩いてくる。
真っ黒い物体は目の前にすると迫力があり、奏人は一歩あとずさんだ。
「カナトよ。突然現れ、迷惑をかけた。だが我々にはこの世界に知り合いもおらぬ。心細かったのだ。すまなかったな。だが、お前は我々を信じてくれた」
「え、いつ信じましたか!?」
「いま、『この世界には』と、言っておっただろう」「うっ…」
あれだけの出来事と、この二人を見て、どこかで、認めていたのかと思うと恥ずかしくなった。
「カナト…この世界で頼れるのは貴様しかおらんのだ…」
魔王のその瞳は力強い。
しかし、何故か淋しさを感じた。
「つ、つまり、僕らのあとをつけてたんですね?」
「当たり前だろ。気づかなかったわけではなかろう?」
魔王はやれやれといった表情を向けてきた。
「自分で言わないでください!」
もう、疑う気力もなくひどい疲労感を感じる。
「わかりました…。僕に何ができますか?」
「腹が減った!」
待ってましたと言わんばかりに魔王の表情が急に明るくなる。
そして目をつぶってなにかの匂いを嗅ぎ、人差し指でどこかを指差した。
「先程からあちらの方で芳ばしい香りがしてやまないのだが」
そちらへ目をやると村で人気のパン屋さんがあった。「パンですか…」
「魔王様!!庶民の食べ物などいけません!メガネ、ドラゴンの丸焼きを用意しなさい!」
また、マリーが激しい剣幕で奏人に言い寄る。
「ドラゴン!?」
「いいのだ。ここでは我々が庶民だ!!オレは解放されたのだ!頼むメガネ、パンとやらを恵んでくれないか?」
「はい、どうぞ」
奏人がパン屋に入ろうとすると、すでに結衣が袋にはいったパンを笑顔で手渡した。
「おぉ」
パンをつかむと一度匂いを嗅いでゆっくりと口に運ぶ。
「これはっ!!」
魔王は目を見開き驚愕の表情を浮かべ、そのまま止まってしまった。
「ちょっと、あなた!!魔王様に一体なにを!!」
マリーが今度は結衣に詰め寄る。
「皆さんお腹空いてないかなと、そこでメロンパンを…」
「魔王様!!お気を確かに!!」
「くっ…」
やっと動いたかと思えば今度はその瞳から涙を流した。
「まおーさまぁー!!」
マリーが魔王に飛びかかろうとしたとき魔王はその頭を押さえつけ叫んだ。
「なんと言うことだ!!」
静かに涙を流しながら手にしたメロンパンをじっくり眺める。
「どうかしたんですか?お口に合いませんか?」
心配そうに魔王を覗き込む結衣。
「女、名は?」
「あ、折笠結衣ともうします!!」
「ユイ!ありがとう!」
「きゃっ!!」
魔王はこぼれんばかりの笑顔で結衣を抱き締めた。
「なにしてんだぁ!!」
奏人とマリーが声を揃えて叫んだ。
結衣の体は突然の事に硬直している。
魔王だけがひとり感激を抑えられないようだ。
「こんな美味いものはじめて食べたぞ!!」
「あ、あぁそうなんですか…」
まだ、結衣の体を離さず、抱き締めたまま、また、メロンパンを口に運んだ。
耳元に顔が近づき結衣の顔はみるみる赤く染まっていく。
それに対して奏人とマリーの顔も違った意味で赤くなっていく。
魔王が何かに反応した。
「ん?」
そんなことお構いなしに奏人とマリーから湯気が噴き上がる。
「魔王様…私にもそのメロンパンとやらを…」
「魔王さん、ほら、違うパンもいかがですかぁ〜」
お互い怒りを抑えられず勢いに任せ二人に駆け寄っていく。
「ちょっと待て…」
「待ちませんよ〜」
「その手を…」
「「はなせー!!」」
奏人とマリーが一斉に黒い物体に飛びかかった。
その時、奏人は感じたことのある電気の流れを魔王の側に再び感じた。
「こ、これは!!」
青いピリピリとした稲妻のようなエネルギーが、魔王の近くに生まれる。
なにかを察知し、魔王はさらに結衣を引き寄せ後ろへ飛び退いた。
魔王に飛びかかりにいった奏人の真上に先程と同じ電撃が、直撃した。
「うぎゃーっ」
奏人を巻き込み、地面に何かが降り立つ。
砂ぼこりが舞い上がった。
そして、その中から魔王と同じく空間を移動し、ある人物が姿を表した。
「見つけたぞ!!」
奏人を踏みつけたその人物は、キラリと光る長い剣を携えている。
「くそ、まさか、ここまで追ってくるとは!!」
魔王の顔色が変わる。
舞い上がった砂煙が引く。
真っ赤な髪の血気溢れる眼差しを抱いた青年が口許を引き上げ、魔王に剣先を向ける。
「魔王!!貴様は俺が倒す!!」
下敷きになっている奏人が体を震わせ声を挙げる。
「あんた誰だぁ〜!」
「俺か!?俺様は!!」
赤い髪の青年は、奏人から降り、親指で自分を指しウィンクをする。
「勇者様だ!!」
「はぁ〜!?」
奏人の頭の中が再び混乱した。
登場しました。
次回はとりあえず戦ってもらいますm(__)m