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俺が正義でお前が悪で  作者: あらた
19/22

第19頁 僕らの冒険②

従者の目を盗み、とうとう街へでた虎太郎はユーキという少年と出会う。

連れていた犬をトラックから救った虎太郎をユーキはこれから向かう探検へ誘ったのだった。

この世界はとても興味深い。

今立っている場所からぐるっと視界を一周してみれば、それがよくわかった。

コンクリートの地面に繋がって高くそびえる殺風景な建物。

しかしそれを除いて観れば、真っ青でどこまでも続く空に緑豊かな小さな山々が間に入りその先には、キラキラと輝く海が広がっている。


「いい景色だな。虎太郎様も気づいてくださるだろうか」

洋館に置き去りにしてしまった、一人の少年を思いながら虎太郎につかえている従者の男はコロコロと眺めの代わる街を歩いている。


どんよりとした厚い雲に覆われ、翳りの中にたたずむ大きな城。

その中で「魔王」に仕える従者の一人でしかなかったその男には、こんなにもたくさんの色を見せつけてくるこの世界がとても眩しく見えた。

そして、一緒にこの世界へ来た虎太郎にも同じ景色を見て同じ感情を味わって欲しい。そう思うようになっていた。


「虎太郎様はまだ幼いのだ、アイツが我々の世界でおとなしく王座についていれば……」

穏やかだった表情に怒りの影が差し、手にしていた求人広告を握りしめる。

そして、ネクタイを締め直し、目の前にそびえたつビルの中へ入っていった。



「なんだよコイツ」

目的地へ向かう途中で出会ったツヨシが腕組みをし、初めて会った少年へ怪訝そうな顔を向ける。

「虎太郎だ!なんかとにかくすげえやつなんだよ!!」

目をキラキラと輝かせながら、まるで虎太郎の付き人にでもなったかのような勝ち誇った笑顔を作るユーキ。

「この辺じゃあ見ない顔だね?どこの小学校?」

警戒を解かないツヨシとは逆に、新しい友達にワクワクを隠しきれていないカナタ。

「ショウガッコウ??だから!何だそれは?」

先ほどと同じ言葉を耳にしたが、虎太郎は首をかしげユーキの方を見た。


「違うんだよ!虎太郎は学校なんてちんけなところには行ってないんだぜ!マゾクだから!!」

自分でもよくわかってはいないのだが、ユーキは鼻の穴を膨らませ興奮した様子で力説する。

その傍らには先ほど虎太郎がトラックを破壊しい命を救ったラッキーがいた。


「はぁ!?なんだよそれ!」

「マゾクって?なんかのスクール??」

ユーキがあまりにも勢いよく自慢をするため、ツヨシもなんとなく警戒を解き、正体のわからない不思議な少年に興味を持ち始めた。

三人はかみ合わない話をしながら、噂の洋館へ足を進める。


「ここだ!」

坂を上がるとそこには虎太郎には見慣れた寂れた洋館があった。

得意げにその場所を指さすユーキ。

「まだ明るいけど、やっぱり不気味だよね」

ソワソワと落ち着きのないカナタがツヨシのシャツの袖口を握りしめている。

「ここに住んでいた家族とか突然消えたんだろ??」

ツヨシがカナタの恐怖心を煽るように声を低くし、呟く。


「ああ、もう誰も住んでいないはずなんだけど、オレは見たんだよ!」

ツヨシの声のトーンを真似し、ユーキもカナタに向かって恐怖の表情を作ってみせた。

「ユーキ君顔こわいよぉ!」

カナタの表情がすでに泣き出しそうなものとなってたが、ユーキはお構いなしに話を続ける。

「窓際に子どもの顔が浮かんでいたのをオオ!!」

「パーン!」

「ぎゃあああああっ!」

ユーキが渾身の顔をつくり、ツヨシが突然手を叩き大きな音でカナタを脅かした。


「???」

しかし、この少年たちが何を言っているのか、何に期待しているのか虎太郎には全く分からなかった。

「ここは……」

虎太郎が小さな声で話しだそうとしたところをユーキが遮った。


「どうだい?虎太郎!わくわくしないか!?」

良くないことをしようとしている背徳感と、好奇心を満たすためにこれから始まる冒険への期待感。

この二つの気持ちの中で揺れ動く純粋な瞳を、虎太郎に向ける。


「そうだな」

ここは虎太郎が世界破壊まで居座っている活動拠点である。

ということを言うつもりであったが、何か面白いことになりそうのでなにも言わず黙っておくことにした。


三人と一匹と虎太郎は腰が引けてしまってはいるがやる気満々のユーキを先頭に屋敷の敷地内へ足を踏み入れた。

玄関へは草の生えきってしまってはっきりとは見えないが真っ直ぐの道をゆっくりと歩いていく。

カナタが、いちいちキョロキョロビクビクしているのが一番後ろで余裕を持って三人を見ている虎太郎にはっきりとわかり、その滑稽さに思わず笑いそうになる。


洋館へ入るための大きな扉の前に着くと、カナタが立ち止り一行はふ~と緊張をほぐすような深い息を吐いた。

そして、ユーキは手に持っていたラッキーのリードを玄関先に設置されていたポストに括り付けた。


「いいか、ラッキーお前は見張りだぞ?誰かが来たら吠えるんだぞ?」

「わん」

ユーキはラッキーの頭をそっと撫で、ラッキーは理解しているのかは別として元気よく返事した。


「よし、行くか」

ユーキはカナタ、ツヨシそして虎太郎の方を順番に一度ずつ見るとドアについている立派な取っ手を握る。

ゆっくり引くとガチャと音がして、少しだけ開いた。

どうやら鍵はかかっていないらしいことがわかり、一行はさらに緊張が高まった。


「い、行くぞ!」

「何かあったらすぐ逃げようね?」

涙目に涙声のカナタは相当限界のようだが、必死に我慢しツヨシの頼れる腕にギュッとしがみ付いている。


もっと怪しげで、古く壊れそうな音がすると思った扉は案外スムーズに開き、ユーキは拍子抜けしてしまったが、それでも、暗い内部の様子が見えてくると背筋がぞぞっとする感覚を覚えた。


ドアが開きやすいのは、虎太郎の従者が出入りしやすいように修理していたからなのだがそんなことは虎太郎さえも知らないことである。


開いたドアから西日が射しこみ、室内がその光で薄暗く照らされる。

まだ明るいことを確認したユーキはそのまま洋館の中へ足を踏み入れ、ツヨシとカナタも続いて入った。


「なんだか意外ときれいだな」

「やっぱり誰かいるのか?」

「ねえ、人が住んでいたら見つかったらヤバいんじゃないのかな?」

埃や蜘蛛の巣まみれで様子なんか見れたものじゃないと思っていた三人は、埃もなく色がはっきりと確認できる広い玄関に逆に安心感を覚え、其々がその中を見回している。


「誰かいませんか~」

誰かいたときのことなど考えず、ユーキは洋館の奥まで通るような大きな声で叫んだ。

もちろん返事などはない。


「やっぱ誰もいないな」

人がいないことを確認するとそれぞれバラバラに動き出した。

「それにしてもすごいね」

さっきまで、ビクビクしていたカナタが人がいないとわかった途端一階エントランスに飾ってある銅像や絵画を眺め瞳を輝かせる。

「手を出すなよ?泥棒になってしまうからな」

「わかってるよ」

ツヨシに念を押され、カナタは手に持っていたアンティークな置き時計をそっと元の場所に返した。


「泥棒とはなんだ?」

三人のコソコソした怪しい動きを一人呆れてみていた虎太郎が訪ねると、ユーキが思い出したかのように虎太郎を見た。

「そうか、マゾクには泥棒ってないのか!」

「泥棒は、人のものを盗む悪い人の事だよ!」

続いてカナタも虎太郎に微笑みながら説明を加えた。


「悪い奴なんてそこらじゅうにいるがな」

何故か誇らしげに口元を上げる虎太郎に、三人は不思議そうに首をかしげる。


「虎太郎君はいい人だよね?」

「そうだよ!ラッキーの命の恩人なんだから!」

「悪い奴じゃあないな」

三人は口をそろえ、虎太郎に言葉を投げかける。

思わぬ攻撃を受けた虎太郎は、ショックを受けると同時に胸の中でほっこりと温かくなる変な気持ちを感じていた。

それ以上は何も言えなくなってしまう。

「何なんだこの気持ちの悪い感情は」

その気持ちがなんなのかわからず、虎太郎は胸を抑え階段に座った。


「だけど、忘れちゃいけないぞ」

物色していた手を止め、ユーキが静かな声を出す。

「何をだよ」

ツヨシがカナタの方を向いて眉をひそめた。


「オレは見たんだ。夜明りがついて、窓に人の顔が映っていたのを!」

カナタの顔が一瞬にして凍りついた。

ツヨシの表情も一変して強張る。

虎太郎だけは、成り行きをただ見ていた。


「ほら、絶対誰かいるんだ」

ユーキの腕になかには、長細い箱のような物が抱きしめられていた。

その箱の上部を開き、中から丸い何かを取り出す。


「なんだよそれ」

ユーキの周りに集まりその物体をまじまじ眺めるが、すぐに答えは出た。

「ドーナッツ!?」

「そうしかも食べかけだ」

「あ」

虎太郎が従者の者からもらい食べていたもので、屋敷を出る時に玄関先に置きっぱなしにしていたものだった。


「て、ことは誰かいる……ってことだろ?」

カナタはもう何も言えなくなり固まってしまっている。

ツヨシは逆ににんまりと笑った。

「なんだよドーナツ食べるとか!人間じゃんか!」

「まぁ、たしかに……」

ツヨシに正論を言われ、ユーキは興が冷めた表情に変わる。


「人が住んでいるんだったら、やっぱりここにいたらまずいんじゃないの?」

カナタが、体を震わせながらツヨシの腕を引っ張る。

「住んでるんだったら、もっといろいろあると思うんだけどな」

ツヨシがぐるりとまわりを見回しながら、冷静に考えている。


「そうなのか」

虎太郎はここに物が足りないということに、関心があったのだが細かく訊くことが出来ずもどかしくなる。

「まだはっきりは分からないよね」

落ち着いてきたカナタが静かに呟く。



「わん!わんわん!!」

「!!」

静まったところで突然、ラッキーの鳴き声が玄関へ届いた。

全員が体をビクッとさせ玄関の方を見た。


「ヤバい誰か来た!」

「玄関じゃないか!このままだとみつかちゃうぞ!」

「よし!二回へ逃げよう!!」

ツヨシが言うと同時に、誰も否定意見を言わず一目散に真っ赤な絨毯が引かれた階段を駆け上った。


「すげえ部屋数!」

上った先には左右に10はくだらない数の部屋がずらっと奥まで続いていた。

何部屋かドアが開いたままになっていたので、ちょど良さそうな部屋に4人は滑り込みその部屋のドアを閉じた。


「大丈夫かな?」

「窓から出るか」

「それは無理だな」

その部屋は誰かの寝室だったのか大きなベッドが真ん中におかれ、その周りに棚にはたくさんの人形が飾られている。

そして、窓には頑丈な格子がつけられていたのだ。


「あ、あれ?」

廊下の様子を見ようとドアノブに手をかけたツヨシが声を上げた。

「どうしたんだ?」

ユーキとカナタが不安な表情を浮かべながら、ツヨシに近づく。


「ドアが開かない」

全員の表情とその場の空気が一気に凍りついた。


お読みいただきありがとうございました。

自分の拠点として使っている洋館を同年代であろう子どもたちと探索する虎太郎。

そして、皆がピンチに。虎太郎はどうするのでしょうか?

次話更新をお待ちください。

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