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俺が正義でお前が悪で  作者: あらた
18/22

第18頁 僕らの冒険①

ラブパニック編が無事に終わり今度は、身をひそめていたあいつがついに動き出しますが……。

どうやら、何かに巻き込まれてしまいそうです。

「虎太郎さま…」

だれも住んでいるはずのない古びた洋館に明りが灯る。

二人はこの薄暗い場所に、来たるべき日の為に拠点を構えたのだ。

だがあまりにも何もなく、今まで王族として暮らしてきた虎太郎には我慢が出来なかった。

共にこちらにやってきた従者の男は何度となく外へ足を運び周辺を調べている。

その調査から帰ってくるついでに何やら流行っているという、食べ物を持ってきた。


「何か面白いものは見つかった?」

「は、こちらです」

男が出してきたのはドーナツだった。

「なにこれ」

「一口食べていただければわかるかと…」

虎太郎が訝しげにひとつ手にとり匂いを嗅いで口に運ぶ。

口の中に、ふんわりと甘い香りと優しい味が広がった。


「甘い」

虎太郎は顔をしかめたが、ドーナッツを口に頬張りその一つを一気に食べてしまう。

「お気に召しましたか?」

男は、ほんの少しだけ表情を緩めた。

「まずい。こんなものしかここにはないのか」

虎太郎は口の端にドーナッツの欠片をくっつけながら口をへの字に結び男を睨みつける。

「申し訳ございません」

残念そうな顔を下へ向け男は虎太郎に背を向けた。

「だが……今あるもので何とかしなければならないならしょうがない……」

男の手に提げられていた箱を奪い取りその中身をもう一つ取り出し、わざとらしくため息をつきながら虎太郎はドーナッツを頬張る。

その姿に少しだけ、安心した男は言わなければならない話を切り出した。


「虎太郎さま。こちらでしばらく滞在することとなりますゆえ、情報と資金が必要となります。私の長時間の外出が続きますがお気になさらぬよう」

「……勝手にしろ」

「はっ。その代わり帰りにはドーナッツを手みやげとしてお持ちいたします」

「そうか」

虎太郎の口の端が上がった事に男は気付くが、その表情の変化だけで満足した。

「この館の中はまだ修復が整っていない個所がありますゆえ私のいない間の徘徊はお気をつけ下さい」

今度こそ虎太郎の部屋から去って行った。


「子ども扱いしやがって」

男の姿が消えたところで、自分に向けられた過保護な言葉を思い返し気分を悪くする。

広い洋館の中はとても静かで、窓の外から見える転々とした街の灯りに寂しげな趣があった。

窓辺に立ち、今佇んでいるこの場一帯の景色を虎太郎はただぼんやりと眺める。

「明日は僕も少し、出てみよう」

夜の闇に浮かぶ街を見下ろし、本当に小さな声で呟いた。




「だ~か~ら~!!!!本当なんだって!!!!」

幸寄小学校前の大通りを三人の小学生が話をしながら下校している。

「俺が夜、犬の散歩に行ったときに幽霊屋敷の二回に部屋から灯りが漏れて、人影があって!!!!」

自分の観たものを興奮しながら、周りにいた友達に話すのはクラスの中でも運動神経と元気だけが取り柄のユーキ。

「そそ、そんなのきっと見間違いだよぅ」

怯え顔で、そんなこと聞きたくないといった表情を浮かべているのは気の弱いカナタ。

「あそこはだれも住んでいないんだろ?泥棒か?幽霊か?だとしても俺がぶっとばしてやるぜ!」

そう言いながら自分の拳を握ってユーキとカナタの前に突き出したのは男らしく頼りになるツヨシ。

幼馴染で常に行動は一緒という仲良し三人組。


毎度毎度思い付きからのいたずらを敢行しては、先生に迷惑をかけているようだ。

ユーキの表情がいつものそれに変わる。


「これは一度、調べに行かなきゃなんねェよな」

何でもかんでもどうなっているのか知りたくなる好奇心がが先行し、表情を引きつらせるカナタなど、お構いなしに二人の肩をユーキは掴んだ。

「謎の組織が、この街を占領しようと企んでいるのかもしれない!これは調べる必要があると思う!」

「もしかしたら、お化けかもな??」

ニヤニヤしながら、ツヨシがカナタの方を見る。

「そ、そんなのどっちになったって僕らじゃどうにもならないよっ!」

脅かされ完全に怯えるカナタに少し、イライラしてみせるユーキだったが、すぐにその目を見つめキラキラした目を向けた。

「だけど、オレたちがやらないと街がほろぶかもしれないんだぞ??お前ただ指をくわえてみてるだけでもいいのか!?父さんや母さんたちがいなくなってもいいのかよ!」

「そ、それは・・・」

迫力のあるユーキの押しに、カナタは口を噤む。

結局、夜遅いのは逆に家族に心配をかけてしまうということで、夕方に屋敷の前に集合し中を覗くだけと言うことにし、いったん3人は解散した。



「つまらん」

他に人の気配もない廃れた洋館も、昼間となれば沢山の窓から日差しが入り、その広さと豪華さを映し出す。

「アイツ一人で楽しそうなことして」

字を覚える為に、この館内にたくさん積まれていた読みかけの絵本を閉じ、虎太郎は椅子から飛び降りた。

従者の男が、お腹がすいたら食べるようにと、置きっぱなしにしていたドーナッツを口に運ぶ。

「これ、だけは悪くないな」

ドーナッツを口にくわえながら、自室としていた部屋を出た。


いくつもの扉が並んでいるまっかな絨毯が引かれた廊下をゆっくりと歩いていく。

少しだけドアの開いている部屋があった。

「??」

ゆっくりとドアを開け、中にひょいと顔を入れる。

花柄の壁紙に天蓋つきのベッドやら、キレイな色合いのタンスやら。

その装飾からして、どうやら女の子の部屋だったようだ。

壁際の棚にいくつかの人形が並んでいた。

その一つを虎太郎は手に取り眺める。

金色の髪に水色の瞳、ピンク色のドレス。


「お前も置き去りにされたのか?」

虎太郎は寂しげな表情を浮かべ人形を見つめた。


ギィィィ・・・バッターーーーン!!!!


「!?」

突然その部屋の扉が閉まった。

換気の為と窓を開けていたので風でしまったのであろう。

「全くいちいちうるさい屋敷だ」

驚いてしまい、少しだけ恥ずかしさを覚えながら、ドアの取っ手に手をかけノブを回した。

「ん?」

ガチャガチャと音はするがどうやら空回ってドアが開かなくなってしまったようだ。

「めんどくさい」

ポケットに手を入れ、片足を上げる。

そのまま、その足でドアを蹴っ飛ばした。


「まるで廃墟だな」

破壊され、かろうじてドアとしての形状を保っている物の横を余裕の顔をして虎太郎は通り過ぎる。


「少しだけなら構わないだろ」

身体を動かし、気分が晴れた虎太郎はその足を、玄関へと向け歩き出した。



「ほんじゃ、行ってきま―っす!」

玄関で、靴を履きこれから始まる冒険にわくわくしながら、ユーキは家を出た。

怪しまれてはいけないと思い、まだ子犬の「ラッキー」を連れ、散歩に出かけるという名目にしている。

まだ少し約束の時間には早いかなと思いながらラッキーを引っ張り、いつもより早足で洋館を目指した。


あの角を曲がれば洋館が見えてくる。

さっきよりスピードを上げ一気に道を曲がった。


どっしーーん!!

「いたあああっ」

「んなっ!」

人の気配に気づかず曲がってきた人物とぶつかり、お互い道の端に尻餅をつく。

「ご、ごめんなさいっ!」

大変なことをしてしまったと、素早く立ち上がってぶつかってしまった人物にユーキは頭を下げた。

「……」

反応がなく、怒らせてしまった、とそっとその顔を上げ前を見る。

「!?」


そこにいたのは、ラッキーに上に乗られ、全く動けなくなってしまった同い年くらいの少年だった。

「こ、これは……なんだ……」

まるで犬を見たことがないような恐怖にも似た表情を浮かべ、体を硬直させてしまっている。

「こら、ラッキー!!」

ユーキが紐を引っ張るとラッキーはしょんぼりしながらその上を降りた。

はじめて会った人間に興味津々にしっぽを振り撫でて欲しそうに少年を見つめている。


「ゴメン、大丈夫だったか??」

少年にユーキは手を差し出すが、いまだラッキーから目を離さず少年もじっとラッキーを観察していた。

そして、その手をそっとラッキーの頭に置き、ゆっくりと撫でる。

少年に撫でられ上機嫌のラッキーはまたその懐に飛び込んだ。

しかしさっきとは変わって、少年の表情はなんだか照れくさそうで、嬉しそうだった。


「すっかり懐いちゃったな」

「なんだこの生き物は?」

ラッキーを抱きながら、少年はユーキに尋ねる。

「い、ぬだよ???」

犬を知らないのか??と、その言動を疑いながらもつい当たり前の返答をしてしまった。


「ラッキーっていうんだ、オレはユーキ!お前は??この辺じゃ見ない顔だな」

つい気になっていたことをユーキは口に出した。


「いぬ?ラッキー?これの名前か……オレは虎太郎だ」

退屈しのぎに洋館から抜け出した虎太郎は犬との遭遇に心を奪われ、つい自分の名前を言ってしまう。

「虎太郎は学校どこだ?」

「ガッコウ??なんだそれは組織か?」

「組織??」

お互い、何を言っているのか話が分からず首をかしげながら見つめ合う。


「ああ!お前、外人!?」

「ガイジンとはなんだ?」

「外人じゃないのか!?だけど、目の色が真っ赤だな珍しいな!」

「ああ、これは魔族のあかしだ」

「マゾク???」

「そうだしかも王族だ」

「え???」

「お前らにはわからないだろうがな」

「う~ん、なんだかわからないけど、かっこいいな!!」

虎太郎が、自分の周りにはいないタイプの人間な気がしてユーキはなんだか嬉しくなり、満面の笑みを向けた。

「かっ!かっこいいのか……」

今までそんなことを言われたことがなかったので、どう反応していいのか虎太郎は戸惑う。

だが嫌な気はしなかった。

ふと、ラッキーの方に目を落とす。


「おい」

「どうした?虎太郎」

「ラッキーはどこに行った?」

「え?」

ふと、手元を見るとさっきまでつかんでいた散歩紐がなくなっていた。

「やばい!」

虎太郎との会話に気をとられ、ラッキーが歩き出してしまったのに気が付かなかったのだ。

まだ子犬でそう遠くへは行っていないはず、と慌てて辺りを見回す。


「いたっ!」

曲がってきた角の道をコロコロ転がるようにラッキーは走っていた。

「追いかけるぞ!」

ユーキより先に、虎太郎がラッキーを追って走り始める。

「あ、あぁ!」

気が動転し、足が動かなかったユーキも虎太郎の一声で緊縛が説かれたかのように体を前に進めた。


「足が速いんだな!」

感心したような表情を浮かべながら走る虎太郎の横にユーキも追いつく。

「まあな、犬だからな!」

途中、何度もラッキーの名前を叫ぶが、解放された喜びからか全くいうことを聞かない。


そして、一番心配していた事態が目の前で起きた。

大通りに入ると、何を思ったのかその進路を道路へと移したのだ。

「危ない!!ラッキー!!」

いつ轢かれてもおかしくない状況にユーキの全身から血の気が引く。

そして、心配をよそに大通りを横切るラッキーめがけて大きなトラックが接近してきた。


「ラッキー!!」

もう、何もできずただユーキは叫んだ。


「大丈夫だ」

その横で、虎太郎はあくまでも冷静に言葉を放つ。

そして足を道路に進めながらその手を前へ向け何かを小さく呟いた。


ボゴン

虎太郎の手のひらが向けられたトラックは、何か衝撃を与えられたようにおかしな音を立てそのまま止まった。

フロント面が陥没している。

そして、虎太郎は衝撃音に足を止めたラッキーの紐を捕まえた。


「すげぇ……」

あまりにも理解不能な出来事が目の前に起こったはずだが、ユーキの頭には虎太郎は凄い。という印象しか残らなかった。

そして、これはもう、あの計画に是非とも誘いたいとゴクリと唾を飲み込んだ。


「ありがとう」

心ここに非ずと言うユーキのお礼。

「ラッキーが無事で良かった」

心がこもっているのかは見て取れない虎太郎の返事。


「なぁ、オレと一緒にきてくれないか?」

「どこへだ?」

「坂の上のお化け屋敷!」

ユーキは意を決して、はっきり言って見ず知らずの虎太郎へ思いをぶつける。


「は?」

虎太郎は訳が分からず、ただ目を丸くしていた。

長らくお待たせいたしましたが、お読みいただきありがとうございました。

虎太郎とこの世界の少年たち、そしてラッキーの出会いは彼に一体どんな心の変化をもたらすのでしょうか??

次話更新をお待ちください。

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