第14頁 奏人と真央
突然現れた真央の弟に襲われた奏人は、我慢できず真央にもう帰れと告げてしまう。
帰宅後、体調を崩し奏人は寝込んでしまう。
静かな時間の中、奏人は自分の行動に後悔する。
真央たちはこのまま魔界へ帰ってしまうのでしょうか。
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「ちゃんと食べなさい?母さん出かけるからね?大人しくしてるのよ!」
「わかったよ!」
そう告げると、奏人の母は部屋を出ていった。
ベッドの脇に付けたテーブルの上にはまだ暖かいお粥と、水分をたくさん摂るようにと何本かペットボトルが置かれている。
紅葉狩りから帰ると、すぐに寒気に襲われ、順次、頭痛、発熱が起こった。
つまり、奏人は風邪をひいて寝込んでいるのだ。
それから何度か、眠り起きてを繰り返すと、もう寝ることが辛くなってきた。
時計の秒針がカチカチいうのがやけに耳に障る。
「あいつら、学校いったのかな…」
寝込んでいたので、顔も見ていないし、接触もない。
朝のバタバタさえも気づかなかったようだ。
「静かだな…あいつら、帰ったのか?」
結局なんだかんだ言って、気になっている。
「なんなんだよ…」
それがなんだか悔しくて、イライラした。
そして、ボーっとする頭で奏人は自分が真央に向けて最後に放った言葉を思い出した。
『お前、もう魔界に帰れ』
そのあとの真央の顔は、怖くて見ることができず、会話すらしていない。
真央も、奏人に話かけることはなかった。
イライラの原因は自分なんだとわかってはいる。
ひどいことを言ってしまった。
胸がちくっと痛む。
「あいつのためなんだ…」
本当にそうなのだろうか。
真央を追いかけて魔界からやってきた魔王を名乗る少年。
真央の弟の虎太郎。
虎太郎にあんな目に遭わされて、今自分の命があるのが不思議なくらいだ。
正直、二度とあんな怖い目にあいたくない。
「サイテーだな…」
奏人は自分の顔を手で覆った。
真央の本当の気持ちをわかってるつもりだ。
真央はただ平和に暮らしたいだけなのだ。
なのにしがらみから抜け出せずに苦しんでいる。
しかも、自分の世界ではなく頼るところもないこの世界で。
最初は、頭がおかしい奴だと思って、信じられなかった奏人も、真央や万里の不思議な力を目の当たりにして信じるしかなくなった。
そして、真央が恐ろしい魔王ではなくただの優しい男だということもわかっている。
「わかってるんだよ…そんなこと…でも、どうすりゃいいんだ…」
目を瞑ると、そこには悲しい眼差しの真央が無理をして笑っている姿が浮かんできた。
「…」
奏人の頭の中がごちゃごちゃしてきた。
熱があってぼんやりしている頭で何を考えたって結論なんて出るわけがない。
目を閉じて寝てしまえばいいのに、どうも落ち着かない。
「ちょっと、出るか…」
眠ることもできないし、気分転換がしたくなったので布団から出た。
「…あれ??」
ドアが開かない。
「鍵なんてかけてな…」
鍵をかけているわけでも、ドアが壊れているわけでもないことに奏人は気づく。
「…なに、してんだよ…」
ドアノブに手をかけながら、奏人はドアに向かって話しかけた。
「起きたのか?」
ドアの反対側から聞いたことのある声。
「何してんだって、訊いてるんだよ!」
熱と不信感から奏人は声を荒げてドアに向かって叫んだ。
「…すまない…」
小さい声で謝る。
その表情は簡単に想像できた。
「そんな顔、するなよ…」
奏人も頭に昇った血が一気に引き、もう何も言いたくなくなって、ドアに寄り掛かって座った。
「…大丈夫なのか?」
しばらくの沈黙ののちドアの向こうへ、返事をする。
「…まあ…」
「そうか…」
また会話が途切れてしまった。
「で、なんでこんなことしてるんだよ?真央」
たぶん背中合わせに座ってるであろう真央に、もう一度先ほどの質問を投げかけてみる。
「…謝り、たくてな…」
「…」
「虎太郎のせいで…いや、俺のせいでお前や、結衣をあんな、危険な、目に…遭わせてしまった…」
向こう側の真央の表情はわからなかったが、何故か言葉が途切れ途切れで苦しそうだった。
「真央…」
「…わるかっ…た…」
「あぁ!お前のせいでとんでもないことに遭いまくりだよ!お前が来たから!!けど…けどな!」
顔を見なければ、言いたいことが言える。
そして、本当の気持ちが出かけたことに気づく。
「…」
「?」
ふと、ドアの向こうから重く感じていた真央の存在が薄れた気がした。
「真央?おい?」
慌てて奏人はそのドアを押し開ける。
「!!」
開かなかったドアのその前に真央が倒れていた。
「おい!真央?」
その体は明らかに物体として消えかけている。
思わず抱き上げた。
薄くなってるとはいえ、まだ触ることはできるようだ。
「大変だ!万里は!?」
「…平気…だ…」
「平気なわけないだろ…」
突然起きたことに興奮した奏人もまた、意識が遠退き始める。
真央もいい状態ではなかったのだ。
あの場所での戦いが終わった後、確かに様子はおかしかった。
だが、奏人は見て見ぬふりをしてしまった。
そんなことお構いなしに真央は奏人のためにそこに居座り続けていたようだ。
「消えるなよ!万里んとこに行けばなんとか!」
奏人はふらふらの体で、軽くなっていく真央を抱えあげ引きずり始める。
「奏人…もう、いい…無理する、な」
「ふざけるな!お前は…」
奏人の体力も、限界なのか足がふらついた。
「お前は俺が面倒見るからな!だから!ここに居ろ!」
そして、真央を背負ったままプツリと意識が途切れる。
真央の体の重さをその身に感じながら。
何かを背負うなんて、考えたことなんてなかった。
こんなに重いなんて、後悔している。
だけど、このままその存在を失ってしまうことの方がきっと後悔すると心が叫んでいたのだ。
「…くん…奏人くん」
その手はとても温かい。
「ん?結衣…ちゃん?」
いつの間にか、奏人は布団の中にいた。
「!!」
微かに残る記憶の中の感覚が、一瞬にして、奏人に突き刺さる。
「真央!!」
勢いよく布団を蹴飛ばし飛び起きた。
「奏人くん?」
我に返った奏人はその場に座る結衣に目をやる。
「結衣ちゃん…どうしてここに?」
「風邪で寝込んでるって万里ちゃんから聞いて、看病に来たの。大丈夫?うなされてたよ…」
結衣の心配そうな顔に奏人の時間が止まる。
そして、すぐに先ほどの事を思い出し結衣に問いかけた。
「真央は??」
「え?」
「あいつ!消えてたんだよ!体が!」
「??」
結衣に当たっても解決しないのはわかっていたが、焦りが奏人を苛立たせた。
結衣は首を横に倒し、わからないといった表情をしている。
「探さなきゃ!」
布団を飛び出ると、すぐに真央の部屋に駆け込んだ。
「真央!」
そこはきれいに整頓され、静かすぎて人の気配などなかった。
「どこだよ!」
すぐに、その部屋を出ると階段を駆け下りていく。
リビングに駆け込むがやはり誰もいない。
「あいつ!ほんとに消えちゃったんじゃ!」
こんな状態のまま消えてしまうなんて、ありえない。
「あいつは大切な友達なんだ!」
奏人は半分泣き出しそうになりながら、家じゅうを探した。
「外か??」
とにかく探すしかない。
この世界にもういないだなんて、信じたくなかった。
玄関のドアノブに手をかける。
ガチャ!
「どぅっふ!」
開けた瞬間、その目の前になにかがいた。
猛スピードでその何かに突っ込んだ奏人は跳ね返され玄関に尻もちをつく。
「何をしてるんだ?」
開けられたドアから入ってくる光が影になって姿は見えなかったが、その声を聴いた瞬間全身から力が抜けた。
奏人の目の前に手が差し出される。
「大丈夫か?」
その手の主の口元は優しくあがっていた。
「真央!」
嬉しいのか、心配させられて怒りたいのかわからない感情になるが、奏人はその手をしっかりと握った。
「お前、消えたんじゃなかったのか…」
「…奏人が引き戻してくれたからな」
立ち上がった奏人は、真央の優しい微笑みに、その存在が確かなものだと確信し安堵した。
そして、真央が奏人に何かを渡す。
「なんだこれ?」
「メロンパンだ、お前と食べようと思ってな」
奏人の心配などよそに嬉しそうにメロンパンを差し出す真央を見て、奏人はもう何も言えなくなっていた。
「食べろ、元気になるぞ」
「お、お前なあ!」
奏人は、メロンパンを奪い取ると一口かじる。
メロンパンの甘さがやけに身に沁みた。
「なんだ?」
「お前なああ!」
「??」
「真央!」
「…」
「勝手に帰るなよ!!」
「…ああ…わかった」
「え?」
「分かったと言っている」
「え?」
「奏人、ありがとう」
今まで、何度か、帰るのかどうかの質問をしてきたが、いつも流されてきた。
初めて、真央が奏人にちゃんと返事をした。
「約束だぞ」
それは、自分に対しての誓いでもあり責任感。
だが、大切な友達がやっと心を開いてくれたようで奏人は、ただ嬉しかった。
そして、母が作ってくれたお粥がもう冷たくなっていて、これは怒られるのを覚悟しなきゃなと心を決めたのだった。
お読みいただきありがとうございました。
魔王とか関係なくただ友達として、奏人は真央と一緒にいることを決めたようです。仲直りできてよかったです。
一体何か月かかったんだ…
まさかこんなにかかってしまうとは…
次回はちょっとふざけた話が書きたいと思ってはいますがどうなることかはわかりません汗。
どうぞ次の更新をお待ちください。