第13頁 すれ違う心
3か月ぶりの投稿です!!
夏の弟君登場から、季節は流れ…奏人たちは紅葉を見にお出かけしますが、そこで…
久しぶりだったので張り切って長めになってしまいましたが最後までお読みいただけると光栄です!
「で、なんであんたが居るのよ…」
7人乗りのワゴンの中で、万里が真央の腕を掴みながら反対側に座る存在に話しかける。
「いいじゃないですか〜、あのモデルのサチさんとご一緒できるなんて、なんて貴重な時間なんだ!」
助手席から道信が顔を後ろの席へ向けながら、嬉しそうに言った。
「たまにはたくさんでワイワイ出かけるのも楽しいでしょ?」
奏人の母の妹でありカメラマンのミナミが、ハンドルを握りニコニコしながら言葉をかける。
「そういう問題じゃないんですぅ!」
万里が口を尖らせながら更に真央に密着した。
「真央…両手に華…羨ましい!!」
道信が悔しそうに呟くがもちろんそれを拾うものはなく、寂しそうに肩を落とす。
「聞いてるの?離れなさいよ!」
万里が真央越しにサチを睨み付けた。
そして、黙っていたサチがやっと口を開く。
「真央?お隣は妹さんよね?万里ちゃん、お兄さん離れするときが来たわよ!手を離してあげて…」
サチも真央の腕に自分の両手を絡め、真央を引き寄せた。
「はぁ?」
上から目線が気に入らなかったのか万里の眉間のシワは更に深くなる。
万里も無言で真央を引き寄せた。
負けじとサチも真央を引っ張る。
二人の奪い合いが高速道路を走行する車を揺らした。
「いい加減にしなさい!」
そんな様子に、耐えられずミナミが一喝する。
「!」
「…はい」
その迫力に二人は真央から手を離し大人しくなった。
「はぁ…ごめんね、真央くん…」
「いや…」
だが何故か真央の表情は穏やかだった。
「ところで、奏人君?生きてる?」
ミナミの一言で皆が三列目に座る奏人と結衣に目を向ける。
「うぅ…だ、だいじょう…」
そこには真っ青な顔をして気を失いそうな奏人と、それを心配そうに見守る結衣が居た。
「大丈夫?前の席に…」
結衣が話しかけると奏人は顔を上げ笑顔を作る。
「大丈夫だよ!!」
昔から、奏人は車に弱い。
一番前に座る予定だったのだが、前の三人は見張っていたいし、道信に結衣の隣は譲れないし…
自分が我慢して真央のとなりに座れなかった結衣をフォローするつもりが逆に結衣に面倒をかけてしまい情けなくなる。
「と、いうわけで、この状況はなんだ?」
沈黙を打ち破ったのは、真央だった。
「い、いまさら!?」
酔いざましに奏人が突っ込みを入れるがあまり声を張ることができずに車の音にかき消されてしまう。
奏人の本領は全く発揮されず車内も締まりのない雰囲気となっているのだ。
「天気もいいし、私も、サチもお休みが重なったから出掛けたかったんだけど、女二人じゃ味気ないからね…迷惑だった?」
ミナミがなんとなく意地悪な表情で呟いた。
「紅葉狩り…とはなんだ?こんな軽装で大丈夫なのか?」
「?」
「狩りって、その狩りじゃない…」
いつの間にか車は高速道路を抜け山道を走行し始める。
まだ、緩いカーブが続いてはいたが曲がる度に奏人の顔色は青くなっていった。
「奏人くん?」
「…」
結衣の声にももう反応できない。
「うきゃあ〜っ魔王さまぁ〜」
「あ〜っ真央っごめ〜んっ」
前の列では、カーブを曲がる度に万里とサチが交互に真央に体を押し付けている。
その光景に道信はひたすら、羨望の眼差しをむけるだけだった。
「あ、奏人、ごめん!」
ミナミが大きな声を出した途端車が大きく傾く。
「うわあぁ〜っんむ」
「ふぇっ」
気づけば奏人は結衣に抱き止められていた。
「うわぁぁ〜ごめん!うがっ!!」
「奏人くん!!」
慌てて身を引いた瞬間、今度は反対側に遠心力がかかり奏人は吹き飛び、頭をぶつけシート下に挟まった。
良くも悪くも奏人は気を失ったまま、目的地に到着することとなった。
「う…ん?」
ぼんやりとする視界の中、天使のような優しい笑顔が奏人に向けられている。
そして柔らかい枕に、安心しもう一度目を瞑った。
「奏人くん?」
優しい声が奏人を呼んだ。
「結衣ちゃん…ごめん…」
夢か現実かわからないまま奏人は声の主に話しかける。
「僕なんかにつき合わせちゃって…」
「…」
ばしっ
「いてっ…」
天使に額を叩かれる。
そして現実に返る奏人。
「結衣ちゃん!?」
そこにいたのは頬を膨らませ不機嫌な表情を浮かべ奏人を睨み付ける結衣だった。
「奏人くんのばかっ」
「え??」
全く意味が分からず目が点になる奏人を残し、結衣は車を出た。
あわてて奏人も後を追った。
暖かい日差しが二人を照らすが、山中とあって空気が冷たい。
身が引き締まる気がした。
辺りを見回すが、すでにそこには真央たちの姿はない。
「みんなは?」
「…奏人くんが寝てるから先に行っちゃったよ」
やっと奏人は成り行きを思い出した。
同時にぶつけた後頭部が痛み出す。
「いてて…」
「…大丈夫?」
結衣が今度は心配そうに覗き込んできた。
「大丈夫だよ」
これ以上は心配をかけられない奏人は頭を押さえながら笑顔を作る。
「しかし、先に行くなんて、薄情な奴ら…」
「あのね…私が先に行ってって頼んだの…」
結衣が少し頬を赤く染めながら下を向いた。
「え?良かったの?」
「…もうっ!奏人君て…」
何かを言いかけたが、結衣は口を閉じて後ろを向いた。
「え?何?なんなの?」
「!しらないっ!」
「気になる…」
「そ、そんなことより!見て!真っ赤だよ!」
結衣の顔も真っ赤だったがその背景の山を彩る紅葉に奏人は目をやった。
「ほんとだね!!」
二人は燃えるように色づいた山々にしばらく無言で見入る。
結衣が手元から山道の地図を取出し奏人に見せた。
「ここで、お昼に待ち合わせしようって!」
山の中腹あたりに休憩所があるらしく結衣はそこを指さした。
「て、ことは…二人きりか…」
「なんか、デートみたいだね…」
結衣が、先ほどの天使のような笑顔を奏人に向ける。
「デ、デ…デデデー…!」
一瞬にして脳内がパニック状態となる奏人。
「さ、いこっ!」
だが結衣は嬉しそうに奏人の手を引っ張った。
「ちょちょちょ…!!」
奏人はリュックを掴むと結衣に引きずられるように歩き出す。
「だから!なんなのよ!」
「こっちのセリフです!」
「じゃあサチさんは、僕と行くということで!」
「真央!妹さんが可哀想よ。いつまでもお兄さんにしがみついていては前に進めないわ!」
「あ、普通に無視された」
「あはは、道信君、残念だったね」
「手を放しなさいよ!魔王様が嫌がっているのがわからないの??」
「どっちが!」
車内の状態と変わらないやり取りが、赤く染まる葉を携えた木々に囲まれる山道に響いた。
「しかしきれいだな…」
真央が目を細めながら、両脇の二人に目を配る。
「えっ??」
「魔王様…」
完全に勘違いする二人は口を閉じ紅葉よりも真っ赤に顔を染めた。
「真央の一言の破壊力…」
道信が感心するように呟く。
「きれいな色合いだな…これが紅葉というものか…」
と、付け足したが、そんな言葉は万里とサチには届かなかった。
「奏人たちは、大丈夫だろうか?」
真央がミナミに訊ねる。
「地図置いてきたし、単純な道だからねこっちがゆっくり上がって行けば、合流できるでしょ」
「そうか…」
「ちぇ奏人も今ごろ結衣ちゃんとルンルン気分で歩いてるんだろうな…」
道端の落ち葉を蹴散らしながら口を尖らせる道信を見ながらミナミは口を開いた。
「あの二人は、あれくらいしないと進展しないでしょ」
「…ですね」
立ち止まり、道信も同意する。
「どういうことだ?」
「…真央君…あんたさ、恋とかしたことないの?」
何気ないミナミの一言に万里と、サチは即座に反応する。
「ちょっと!魔王様はそんなことに興味はないの!」
「いや〜っ…聞きたくない!万里ちゃん!どっちがお昼を一緒に食べるか競争よ!先に休憩所に着いた方が勝ち!いい?よーい!どん!」
「は??待ちなさいよ!勝手に決めないで!」
突然サチが万里に勝負を挑み、万里も断る余裕なく、二人は山道を駆け上がって行ってしまった。
「はあ、サチも、そういうところがあるんだよね…大事なところから目をそらす。そのために今日企画したのに…あ…」
道信の冷めた視線にミナミは口を塞ぐ。
「そういうことでしたか…」
「あんただけね。ちゃんとした感性を持ってるのは」
「お褒めに預かり光栄です!」
「だから、なんのことなんだ?」
真央だけが意味が分からず先ほどからずっと眉を寄せている。
「…真央君、道信君」
急にミナミが真剣な表情になった。
「はい?」
「なんだ?」
「奏人をこれからも頼むね」
そして、真央と道信に笑顔を向ける。
「え?」
「奏人はあんたたちと一緒に過ごしててなんだか変わった気がする」
「ミナミさん」
「そうなのか?奏人は奏人だが」
「真央君、あんたが何者かはわからないけど、いつも一人どこか一線を引いて他人と付き合っていた奏人が、君や道信君たちと同じところに立って弱みを見せたり引っ張って行こうとしたり出来るようになってきたのは、あんたたちの影響だからね。責任とってね」
秋の空のようにすがすがしく微笑むミナミ。
「…ミナミさん…カッコ良すぎです」
「俺は、奏人にはいつも助けてもらっている。出来ることがあれば、アイツの望むことは、叶えてやりたいと思っている」
「よろしくね」
そういうとミナミは暴れる女子の後を追いかけて行ってしまった。
残された真央と道信も歩き出す。
「…まあ、俺らは、そういう感じで、つながってるわけだ…お前が何者でもお互いに…ん?なんだよ…」
道信が照れながら真央に顔を向けるが、その表情は先ほどまでとは打って変わって、恐ろしいものでも見たかのような顔となっていた。
「なぜだ…」
「は?なぜって…奏人は共通の…」
「油断していた!アイツ!こんなところまで!」
険しい表情のまま、真央は登ってきた道を振り返ると、道信を残し山道を駆け降りて行った。
「どういうことなんだ?」
「あの子って…真央君の?」
奏人に手をひかれ結衣が後ろを振り向きながら訊ねる。
地面を踏み込む度に、落葉が乾いた音をあげた。
「そうだけど、なんで僕らを!」
「きゃっ!」
「結衣ちゃん」
奏人の手から結衣が離れる。
振り返ると道に倒れこむ結衣の姿と、ゆっくりと近づいてくる黒い妖気のような塊。
「もう終わり?」
こんなところで、聴くはずのない声が二人の足音を楽しそうに追いかけている。
奏人は慌てて結衣の元に駆け寄りその手を引き上げた。
「とりあえず登ろう!合流できるはずだよ!」
「うん…」
だが結衣の膝は擦り切れ血が滲んでいる。
「結衣ちゃん…」
「大丈夫だから」
結衣の表情は明らかに痛みを我慢している。
そんな結衣を引っ張り続けるのを奏人は一瞬躊躇う。
「そんな荷物を抱えてたら、逃げ切れないよ」
真後ろから冷たい声が囁いた。
「なんでなんだよ!」
とっさに結衣を自分の後ろに押し隠し奏人はその声の主と向かい合った。
結衣は奏人の腕をしっかりと掴む。
結衣との二人きりのデートのはずが山道に入った途端にまるで次元がゆがんだような感覚があり、空気が変わった。
そして、直後に少年が二人の後ろに現れたのだ。
あれに捕まってはいけないと、瞬時に奏人は結衣の手を引き山道を駆け上がり始めた。
あたりには全く人がいない。
気配すらもなく、ただひたすら逃げる鬼ごっこをしているようだった。
二人を追い詰めるでもなく、少年は浮いているように落ち葉を踏む音もなく楽しそうに追いかけるだけ。
そして、しばらくの逃走ののち、いま、その存在は優しい瞳の真央とは違い冷酷な眼差しを向け奏人の前に立っている。
少年は涼しく笑う。
「言っただろ…アイツの大事なものは全部ぶっ壊すって…」
少年はそういうと奏人に向けて手を振り上げた。
「んなっ!うわあぁ!」
次の瞬間、奏人は数メートル上空に浮かびあがる。
「奏人くん!!」
結衣が空中の奏人に手を伸ばすが届かない。
メガネが地面に打ち付けられ割れる音がした。
奏人も同じ状態になるであろう高さから風を切り落下し始める。
いつかの、空から落ちる感覚を思い出した。
あの時にアイツと会わなければ終わっていた奏人の人生を、ゆっくりと流れる時間の中、回想する。
目前に映る真っ赤な景色が視界を流れていった。
もう終わりか。
だが、今回も奏人の人生はアイツに救われる。
「え…真央…?」
空中で奏人をしっかりと抱き止めると、怒りの表情を湛えた真央は地面に着地した。
「大丈夫か?奏人…」
ほんの少しだけ優しい微笑みを見せると、奏人を降ろし二人の前に立つ。
そして、意外なものを見たという顔をしている少年と向き合った。
「虎太郎…こんなところまで追いかけてきて…」
「…ふん」
計画が上手くいかず機嫌を損ねたような虎太郎の表情は、拗ねている様にも見える。
「お前、そんなに俺を怒らせたいのか…」
「…いい表情だね…憎しみに満ち溢れた顔…やっぱり悪の血は健在なんだ」
真央の魔王らしい雰囲気を、虎太郎は鬱陶しく感じ、皮肉を込めた。
「貴様…」
真央の体から黒い湯気がゆらゆらと浮き上がる。
だが、その瞳からは迷いが感じられた。
「…いや、今日は帰るよ。あんたがまだ悪の血をその体にちゃんと持ってることが確認できたし、それに、あんたの大事なものも…」
虎太郎はそういいながら視線を奏人と結衣に移した。
「じゃあね、また遊んでね」
そう言い残すと虎太郎は、落ち葉を巻き上げながら風の中に消えてしまう。
「奏人、結衣…すまな…」
「真央くん!」
振り返ろうとした途端、真央は膝をつき苦しそうに呼吸を整える。
結衣が駆け寄った。
真央の血色はやはり悪く、湧き上がってくる力を抑える事の辛さを感じさせた。
「真央…」
奏人はその場にただ佇む。
「結衣、その傷…」
真央が結衣の膝から赤く流れる血に目をやった。
「ちょっと、転んだだけ…」
結衣の表情も今起こった出来事に恐怖を感じているようだ。
奏人は割れたメガネを拾い、結衣の手を取る。
「奏人くん?」
「かな、と…?」
そして奏人は、真央に向かって口を開いた。
「…お前、もう、魔界とやらに帰れ…」
それだけ告げると、そのまま真央に背を向けて結衣と歩き出す。
ひらひらと落ちてくる葉が奏人と真央の間に真っ赤な壁を作るかのように静かに舞っていた。
ここまでご覧いただきましてありがとうございます!
久しぶりなのに、ほぼオールキャスト…?(あ、勇者が…)
そして、奏人と真央はどうなってしまうんですかね?
結衣ちゃんと奏人、こちらもタイトルにかかってます。
もちろん、魔王と虎太郎も。様々なすれ違い?…さあ、これからどうなって行くのでしょうか?そして次回の更新は一体いつに…