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俺が正義でお前が悪で  作者: あらた
12/22

第12頁 異変

一ヶ月ぶりの更新です!!


お遊び回から一変し、物語の重要な内容が詰まってます!!

どうぞ、ご覧ください!



ジメジメとした梅雨も終わり、日差しがじりじりと教室内に射し込む。

扇風機もやる気をなくし冷たい風を送らない。


暑さでやる気も出ず、ぼーっと授業を受ける午後。


奏人はふと真央の方を見る。

やはりぼーっとただ外の真っ青な空の向こう側を眺めているようだった。


「帰りたいのかな…」


真央はこの世界ではないところから来ていることを思い出す。

楽しそうに過ごしてはいるが、やはり故郷と呼べる場所へは思いがあるのだろう。


「いなくならないよな」


その問いかけには答えは帰ってこなかった。


ここまで、巻き込んでおいて、あっけなくさよならなんて腹立たしい。ような、寂しいような。


せめて前兆があってほしいものだが。

きっと真央にも万里にも先のことはわからないのだ。


「なんかなぁ」


こう、蒸し暑いとじっと何かを考えているだけでも汗が出てくる。

なにか楽しいことを探さなければ…



「メガネ、ジメリ過ぎて曇ってるぞ…」


いつの間にか万里が奏人の眼鏡を近くで見つめながら呟いた。


「いつの間にっ!!」


「もうとっくに授業終わってるわよ!!」


周りを見れば帰り支度をするクラスメイトが数人いるだけで、ほとんど誰もいなかった。


「かなとくん!!」


「出たわね!!」


やって来た結衣に目からビームを飛ばす万里。


そんなことお構い無しに結衣は奏人の前に来ると、信じられないものを見たような表情を浮かべ、吐き出すようにしゃべった。


「勇者さんが、あ、由紗さんが大変なんだって!なんか、事故に遭って学校に来れないくらいの大怪我なんだって!!なにか関係あることないよね?」


「あははははは!お間抜け勇者だこと」

万里が全力で嘲笑う。


「勇者には最近会ってないし、ケンカもあれ以来無いと思うけど」

そう言えばもう一組、異世界からやって来たのがいたが、最近はめっきりバイトに勤しんで姿を見せない。


その程度の認識であったが、まさか、事故に遭ったとは。


奏人は眉間にシワこそ寄せるが、由紗はタフそうだし、そんなに心配はしていなかった。


「て、誰から聞いたの?」


「私です」


「!!」


無論さっきからいた。


言うまでもなく全員がビックリするが、皆気を使い驚きを隠す。


「たしか…」


「丸々です。事故ではなく、勇者様は魔界のものと戦いました」


「なんですって!?」

万里が神妙な顔つきになる。


そして全員の視線が真央に向けられた。


「真央…」

窓の外をほおずえをつきながら眺めていた真央が皆の視線に気づきゆっくりとこちらを見る。


「…誰だ…」


「え?」


「…我輩を呼び捨てにしたのはぁ〜っ!!」



「真央?」


「貴様かぁぁ〜っ!!」


ビシッ!


突然立ち上がり、奏人を指差し、いつか見た怒りの形相を向ける。


「?!」


そこには皆の知る真央の優しい顔はなかった。


バンッ


椅子の上に片足をのせると丸々を指差す。


「ほぉ〜勇者のパーティーのものかぁ!!一人で来るとはいい度胸だ!!我輩、直々に相手してやるわ!!」



「…」


すると突然、真央の動きが止まる。


突き出した指をじっと見つめ、手を握った。


「…真央…?」


奏人は顔面がひきつるのをこらえながら、声をかける。


「…なんだ?皆どうしたのだ?まるで魔王でも見るような目だが…」


いつもの真央が戻る。


「魔王様…」


真央は、今起こったことを覚えていない様子で、むしろ、真央が周りの反応に驚いている。



万里だけは、先程から真剣な顔になっていた。

「万里、鼻血が…」



「魔王様〜!やっとお目覚めになられたんですね!!」


鼻血を、垂らしながら、真央に抱きつく。


「なんなんだ!!」


誰も皆訳がわからず、万里だけが興奮状態にあった。


「真央くん?」


そして、真央の顔色が悪くなる。


急にその瞳から生気がなくなり意識を失った。


その場に落ちそうになったのを奏人が受け止めた。


「真央!どしたんだよ!」





「覚醒?」


「そうよ…ずっと抑え込んでいた魔王の血が、どうやらその魔界の者の登場によって、危機を感じ、悪の力が魔王様の体内で湧き出したようね」


「抑えるって…楽なことなのか?」


「無理が祟ったみたい…こうなるのよ…」


保健室のベッドで静かに眠る真央に万里は視線を落とす。


「真央…」


奏人にはどうすることもできなかった。

どうすることもできない自分が悔しい。


「魔界に戻って血に抗わず魔王になれば…」

万里が静かに呟く。



「俺は、…魔王には…ならない…」


少しぼんやりとした虚ろな瞳で保健室の天井を見ながら真央が呟く。


「奏人…ここは?」

意識を取り戻した真央が奏人に訊ねた。


「保健室。急に倒れたんだ…大丈夫なのか?」


「あぁ…もう、大丈夫だ…帰ってゆっくり休もう…」


奏人に笑いかけると、真央はゆっくりと起き上がる。


だが顔色はよくなっていない。


「奏人、結衣、カバンをとってきてくれないか?」


「え?ああ、そうだね。万里の分も教室に置きっぱなしだ」


「よろしく〜」


万里はなぜか嬉しそうに二人を見送る。


奏人と結衣が出ていってしまうと、万里は真央に向き直る。


「魔王様…」


真央の腰かけるその横に座り、肩を寄り沿わせ、その瞳をじっと見つめた。


真央も万里を見つめる。


万里があごを引き上げ目を瞑り、唇を寄せようとした。


真央が万里のほほに手を当てる。



「どういうことだ…」

「う゛…」


真央が万里の頬を握り万里のお楽しみは終了。


真央の冷たい視線が万里に刺さる。


「か、覚醒されていましたよ…。もう一組魔界からこの世界に来たと。勇者の付き添いの女の…」


「丸々です」


「そう丸々の話だと、勇者とやりあった魔界の者は…」

「俺が魔王だ、そう言っていました。大剣を扱うものと二人、勇者様の話だと…」


「…虎太郎か…」


「魔王様を追いかけてやって来たのでしょうか?」

「俺の体の中で、魔王の血が騒いでいる…」

真央は胸元に自分の手を当てる。



「て、いうか!」

「?」

「あんた居たの?」

万里が冷たい視線を丸々に送った。




「真央くん大丈夫かなぁ…」

「やっぱり心配?」

教室に向かう廊下で奏人と結衣はならんで歩いている。


「心配…」



うつ向き気味に結衣は呟いた。


「あんな真央くん、見たくないよね?奏人君も…」


「…そうだね。なにか助けてあげられることないかなぁ…」


突然、叫び出したり、倒れたり…


ホントに急すぎて奏人は混乱していた。


これを機に魔界とやらに二人は帰ってしまうのだろうか…

そう思うと、気が気ではない。


そして、結衣と二人きりで誰もいない廊下を歩いていると思うと、余計に緊張してしまう。


「奏人君…」

「へっはい!?」

結衣に呼ばれ、変な声を出してしまう。


「奏人君は優しいね。真央くんもそんな奏人君だから、いつも一緒に居れるんだろうね」

結衣の言葉に奏人の顔面は真っ赤に茹で上がる。


「羨ましい…」

「えっ…それって…」


「ふふっ!私だって一緒にいたいのに…」

結衣の頬がほんのりと赤らむ。


「はあ、やっぱりそうだよな…」


「え?」

「あんな容姿も、性格もいいやつモテないわけないよな…」


「え?」


半ば諦めかけていた想いに踏ん切りをつけたかのように、奏人は結衣をまっすぐに見つめた。


「応援する…」


「奏人君!?」


吹っ切ろうと奏人は心にないことを言ってしまう。

こうした方がいいとどこかで納得しながら。

そして、教室から、真央の鞄を持ち出した。



「メガネ!遅いわよ!!」


万里がいつもの、人を小バカにしたような目をしながら、歩いてきた。


「万里!…真央…」


その後ろには真央の姿がある。


「心配かけたな…」


「大丈夫なのか?」


奏人は隣にいた結衣の背中を押して真央の前に鞄をつき出させた。


「結衣、ありがとう」

「真央くん…」


奏人はその光景を見ながら一人感慨に浸る。


いつか真央はいなくなるんじゃないか?

その時結衣は真央に対する思いを断ち切らなければならない。

罪悪感がない訳じゃないが、それでも結衣には幸せな思いをしてほしかった。



「魔王様!?」

「真央くん?」


万里と結衣が真央に声をかける。

結衣が膝をつき、胸を押さえて呼吸を整える真央の背中に手をやった。



「く…近くに…はぁ…居る…」



苦しそうに、なにかを抑えこみながら、真央が辺りを見回した。



「やっと気づいた?」


感情のない声。


その声が廊下に冷たい空気を運んだ。

辺りは急に寒くなる。


まだ夕日が差し込み明るいはずなのに、その一帯は暗闇に包まれた。


軽やかに歩く靴音だけが、その場に響く。


立ち上がれない真央の前に顔を恐怖に歪めながら万里が立った。


感じたことのない冷気に、心臓が凍りつき割れてしまいそうだ。


結衣が奏人の腕を掴み、体を震わせる。


「大丈夫」



結衣に声をかけたが同時に自分にも言い聞かせた。


「奏人、結衣、オレの後ろに…」


魔王の血が真央の体内を駆け巡る。

抗わなければこちらには戻れない。

必死に耐えながら、真央は立ち上がり、正面に立ちはだかる、冷たい微笑みを湛える一人の少年と向き合った。



「…虎太郎…」

「やあ、兄上」



二人の呼び掛けは奏人たちにもはっきりと聴こえた。



確かに、同じ髪色に、赤い瞳。どことなく顔が似ている。

しかし、虎太郎と呼ばれた少年はあまりにも冷たい眼をしていた。



「何の用だ?」

「わかってんだろ?」


「…オレか…」


「アンタは邪魔なんだよ。いつもいつも…死んだと思ったのになぁ…」


虎太郎と呼ばれた少年は微笑みながら、視線を窓の外に移す。


「だけど…この世界は面白いね。アンタが居座るのがわかる気がする」



虎太郎が話をする度に辺りの気温は下がる。



「お前…」


「ぶっ壊してやるよ!」


「!」


「あんたの大事なもの全部!!」

虎太郎が片手を前に掲げた。


「虎太郎!」



その手のひらから見たことのない真っ青なエネルギーのかたまりのようなものがこちらに向かって放たれた。

間違いなくあれに当たれば消し去られてしまう。


奏人は無意識に結衣を抱きしめ庇った。



「動かないで!!」


万里が青い球体の前に飛び出し、両手をかざし同じく青い球体を出現させる。


「スゴい…」



奏人の腕の中で結衣が万里の放つエネルギーの大きさに目を見張った。


虎太郎の放つそれよりも遥かに莫大であっという間に小さい方は消え去る。


廊下を削りながらさらにその固まりはスピードをあげ前に進む。



「魔王様っ!!」



光球の先に一人の男が現れ、その体ほどもある大きな剣を盾にし、虎太郎をかばうのが見えた。


だがそれも暫くして残像に変わる。



万里の放った球体が消えた。

そこには人の影すらなかった。


「…追い払ったようね」


振り返る万里の髪が金髪に戻っている。


「真央くん!」


結衣が直ぐに真央に駆け寄った。

微かに息をしながら、真央はボロボロになった廊下に倒れている。


「大丈夫…だ」


真央はふらふらと体を揺らしながら立ち上がる。


「アイツは?」

「すまんな、奏人。ただの兄弟喧嘩だ…」


「兄弟喧嘩?」


「アイツはオレの弟の虎太郎…」

真央の体が傾く。

それを奏人が抱き止めた。


「わかった、あとで話聞くから、今は黙って」


奏人はとりあえず、今はもう何も起こらないと確信し、そのまま真央の体を支えた。


「おい…」


奏人の行動に真央は恥ずかしそうに戸惑う。


「いいだろ、これくらいさせてくれよ」


「…すまん」


真央は嬉しそうに微笑んだ。



「てか、これ、どうすんだよ!!破壊するなよ、学校を!!」


「大丈夫です。私が何とかしておきます」


そこに丸々が現れ、何かを呟くと両手を広げた。


その周りから、キラキラと白い光が現れ辺りを包み込む。


そして、みるみる現場が修復されていく。


「便利だな」


「無機質な物体ならなんとでも…人の怪我もできると良いのですが…」



丸々が視線を落とす。



「全て…オレのせいだ。勇者にも謝らなければならないな…」

真央の顔が悲しみで曇る。



「そんなことしないで!」

丸々が珍しく声を荒げた。


「…」


よくわからないが、真央は全てを背負い込もうとしている。


奏人はそれは許せなかった。


「真央、お前は、魔王じゃない。僕の大事な友達だ。頼りないのは分かってるけど…今まで通り、頼ってくれよ…」


精一杯の強がり。


役に立たないのはわかっているが、真央にあんな悲しい顔をさせたくない。


「奏人…」



奏人は真央の体をしっかりと掴み口をへの字に結びながら前に歩き出した。





万里さ〜んという感じです。

シリアス回から次回はまた、お楽しみ回を作成中です。

夏が終わる前に!!


では、お付き合いいただきありがとうございました!



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