第11頁 星に願いを
題して『七夕SP』
今回は七夕企画として、急遽書き下ろしました!
そのため、普段より倍長いですが、ご一読ください!
「おい!!」
真央は車道に向かってそう叫ぶと急に走りだし、車の前に飛び出した。
「真央!」
「魔王様!!」
一緒に居た奏人、万里、結衣、道信は真央の突然の行動に息を飲んだ。
だが、次の瞬間、車は宙を浮きそのまま着地。
何事もなかったかのように走り去ってしまう。
飛び出した真央とその手の内にある何かだけがその場に取り残された。
「え!?なに今の…」
道信だけが信じられないものを見る目で真央を見ていた。
「いやぁ!さ、最近の車はスゴいな!!飛び出した人を飛び越すなんてな!!」
「そうなの?」
奏人が苦しいフォローをするが、道信はまだ、信じられない目で真央を見る。
「魔王様!!」
万里が真央に駆け寄ると、その腕の中には一人の少女が抱えられていた。
「真央くん…勇敢…」
結衣がキラキラした目で、真央の元に向かう。
どうやら、車道に飛び出した少女を真央が救ったようだ。
「大丈夫か?ボーッと歩いていては危ないぞ」
「…」
優しい眼差しで少女を見つめる真央にその少女は目を見開く。
「…パパ…?」
ランドセルがまだ真新しく、幼いと言う印象の少女はしゃがむ真央の腕をつかみ、まじまじと顔を見つめた。
「やっぱり!パパーっ!」
嬉しそうに叫ぶと少女は真央に飛び付いた。
「はぁ〜?」
奏人の眼鏡がずり落ちる。
結衣もかける言葉が見つからない。
「なにぃ!!いつの間に!!」
「バカじゃないの!!」
可笑しな叫びをした道信を万里が叩く。
「ちょっと待て。なんだ?パパって!?」
少女の突然の言動に一同が騒然となり、当人の真央も戸惑っていた。
「やっぱりお願い事が叶ったんだ!!おかえりなさい!パパ」
少女は満面の笑みで、手に持っていた紙を真央に渡した。
その色紙には、クレヨンでこう書いてあった。
『パパと会えますように。しおり』
「しおり、と言うのか?」
「そうだよ!パパ、忘れちゃったの?そうだ!ママに教えてあげたら喜ぶよ!一緒に帰ろう?」
「どういうこと…」
「どういうこと?」
「どうってそういうことでしょ!」
「あ、今日って七夕よね!!」
結衣が手をポンと叩き、ひらめいたように呟いた。
「じゃあ、あれは短冊か!」
奏人が少女の持つ短冊を見る。
「で、願いが叶ったと!!やるなぁ!て、いつの子だ!!」
「バカァ!!」
「うがっ!!」
万里は道信を殴るとどこかへ走り去ってしまった。
「んだよ…冗談だっての…」
道信はぶたれた頭をさすりながら、真央の方を見る。
「で、どうするの?とりあえず、送るか…」
「奏人、わからないことが二つあるんだが」
「ん?」
「『七夕』とはなんだ?『パパ』とはなんだ?」
「あ〜パパってのはお父さんってこと。七夕は…」
「年に一度だけ、織姫と彦星が会える日よ」
結衣が物憂げに呟いた。
「まあ、そうだね…」
「織姫と彦星?なんだそれは…この少女が俺のことをパパと呼ぶのは何故だ…」
「も〜パパ、早くしないとママに怒られちゃうよ!!」
「ああ、わかった…」
「え?着いていくの?」
「解明せねばな…」
少女に引っ張られながら、真央は何も言わずに着いていく。
やがて、街の外れにある海岸近くの可愛らしい造りの一軒家が見えてくる。
その前には一人の女がたっていた。
「ママ!!」
「しおり!遅かったじゃないの…!」
その女はしおりに付き添う真央をみて驚く。
「正彦さん!?」
思いがけずその名が口から出てきた。
「しおりが、ご迷惑をかけてしまったようで、すいませんでした」
外観とマッチした洋風な内装に、ガラス製のテーブル。その上にお洒落なティーカップが並び美味しそうなケーキが差し出される。
確かに、若い母親である。しおりは二階で真央に宿題を見てもらっているようだ。
そして、母親は一部屋だけ造りの違う和室にある仏壇に目をやった。
「あの人は…正彦さんは七年前に事故でなくなりました…」
そして、その写真を見て全員が目を疑った。
遺影の写真は、まさしく眼鏡をかけた真央だったのだ。
「お父さんが、亡くなったことはしおりちゃんは?」
「あの子が産まれてすぐでしたから…写真でしか知りません。どこか遠くに行ってしまった…そう思っていると思います」
「このタイミングじゃ、勘違いもするよな…」
道信が写真を見ながら呟く。
「そう言うことか…」
「…!真央!…しおりちゃんは?」
「昼寝中だ…よほど興奮してたんだろうな…背負ってやったら寝てしまった」
そう言うと、真央はさっさと玄関へ向かい靴を履いた。
「真央くん?」
「帰る。今なら目が覚めて、夢だったで済む」
「そんな…もう少しだけ…やっと大切な人に出会えたのに…また、別れなきゃいけないなんて…」
結衣が真央に向かって切ない表情を見せる。
「俺に嘘をつけというのか…無いものは無いんだ…」
真央は玄関のドアに手をかけながら結衣に冷たい視線を送った。
「真央くん…」
それでも、結衣は真央の目をじっと見つめた。
「…あの…お夕食…食べていきませんか?」
しおりの母が静かに真央へ声をかけた。
「え?」
結衣が振り向く。
「もう少しだけ…せめて今日だけでもあの子の側にいてくださいませんか?」
「お願い!真央くん!!」
母の提案に乗り結衣が真央の腕をつかみ切望する。
「夜眠ったときに帰ればいいじゃないか」
道信も真央に向かって声をかけた。
「…はぁ…」
真央が珍しくため息をつく。
「…奏人、母上に夕食をごちそうになると伝えてくれ…」
「真央!」
「真央くん!!」
「今日限りだ」
そう言うと、真央は開きかけたドアを閉じて、家の中に上がり階段を昇っていった。
☆☆
ちゃんと覚えている。
人間の記憶っていつかは忘れちゃうし、小さい頃の記憶なんてほとんど覚えてない。
だけど、例え断片的であっても忘れることのない記憶がある。
『思い出』
あの優しい笑顔は忘れることはない。それだけが、その人物のすべてだったから。
「ん…パ、パ…?」
夕日が差し込み部屋がオレンジ色に染まる。視界もまだぼんやりとして夢の中と区別がつかない。
手の温もりが消えそうになる。
「パパッ!!」
しおりが叫びながら飛び起きた。
目の前にはベッドに腰掛け部屋の窓から見える夕焼け空を眺める一人の男の姿。
だが、その背中には羽根が生えているように見えた。
「天使?」
しおりは目を擦りその人物をまた見た。
「起きたか…しおり」
その体には見えていた気のする羽根はない。
そして、大切な人が帰ってきたんだと思いだし何故か瞳が潤んだ。
「何だ?怖い夢でも見たのか?」
その手と手はしっかりと握られている。
だが、その手の感触にしおりは違和感を抱く。
「きれいな夕日だな…まるで海の中に溶けて消えていくみたいだ」
その言葉を聞いた瞬間、しおりは真央に抱きつく。
「イヤだ!パパ、消えないで!!」
「…あぁ…」
しおりの頭を撫でながら、真央は少し困った表情を向ける。
「しおり、夕飯の時間だ。下へ降りよう」
「…うん!!」
「あ、しおりちゃん!!私たちも一緒にいい!?」
夕飯の手伝いをしていた結衣が優しく笑いかける。
「いいよ!」
そして、食卓は賑やかなものとなった。
「あのね、パパ…しおり小学校でね…」
しおりはとても楽しそうに真央に話しかける。
真央も気負わず、普段通りにしおりと話している。
「なんかこう見るとホントの家族だな…」
奏人の隣に座った道信がこっそり呟いた。
「あなた、おかわりは?」
しおりの母がつい口走る。
「あっ…」
全く違う人間にそう言ってしまい戸惑いの表情になる母を、しおりは眉をひそめて見上げている。
「…貰おうか」
「パパって食いしん坊さんなんだね!」
とっさに真央が庇うように口を開き、茶碗を差し出したのを見ると、しおりは笑顔に戻った。
楽しい食事の時間もすぐに終わってしまう。
すると、しおりが真央の腕をつかんだ。
「どうした?」
「ううん。なんだか、捕まえておきたかったの」
「…」
首を振り下を向くしおりに真央は、真剣な眼差しになる。
「お前の父は何処へも行かない」
一同は真央の台詞に驚く。
「しおり、散歩に行かないか?」
突然、真央がしおりの頭に手を置いて笑いかけた。
「真央くん!?」
結衣が引き留めようとするのを、奏人が遮る。
「行ってきなよ…」
「奏人くん?」
「…では行ってくる。ありがとう、奏人」
奏人に笑いかけると、真央はしおりと手を繋いで外に出ていった。
不安そうにドアを見つめる結衣に奏人は話しかける。
「真央に任せよう。あいつは人の夢を踏みにじるようなことはきっとしないよ」
ほんの何日間かでも、一緒に過ごしてきた奏人には真央が信じられた。
「せっかく出会えたのに…また、『思い出』に戻っちゃうなんて…」
結衣の瞳に涙が浮かんだ。そして、奏人を見上げる。
「…だれ?」
「へ?」
奏人の顔から眼鏡がなくなっていた。
静かな波の音が何となく寂しく響く。
「きれいな空だな」
見上げれば満点の星空。
手を伸ばしたら掴めそうなほど、海の向こう側までキラキラと星が散りばめられている。
「…」
「どうした?」
「パパって…」
しおりが口を開いたその時だった。
「魔王さ〜ま〜」
「マリー!?」
「お迎えに来ましたわ!!」
「ダメ!!」
しおりが真央の前に立ち両手を広げた。
「パパを連れていかないで!」
「しおり…」
「パパって…天使になっちゃったんでしょ!?」
「?」
「しおりのお願い事叶えるために…今日だけ…お空から降りてきてくれたんでしょ?」
「…」
「だけど、パパとずっと一緒にいたいよ!」
しおりの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。
「パパとママとずっと居たいよ!!」
しおりは次から次へとあふれだす涙を腕で拭う。
目の前で懸命に片手を広げるしおりを真央は見下ろす。
そして、その小さな体を抱き寄せた。
「すまん…」
「?」
「騙すつもりはなかったんだ…俺はお前の父ではない。」
「…」
「だが一夜だけでも、夢だったとしても…しおりの願い事を叶えてやれればそれでいいと思っていた…」
真央は更に言葉を続けた。
「俺も父を失った。家族を思う気持ちは何者にも変えられない。だが、無くなったものをいつまでも追い続けていては前には進めない…」
「魔王様…」
その言葉を聞き万里は力なくうつ向いた。
そして、しおりの肩を引き離し、涙でくしゃくしゃになったその顔を優しい目で見つめる。
「泣くな…お前の父は何処へも行かない、お前が思い出に残す限りここにいる」
真央はしおりの胸元を指差し、涙を拭った。
しおりは自分の胸元に手をやり目をつぶった。
「…うん…」
本当は心のどこかでわかっていたのかもしれない。
ただ認めたくなかった。
誰も言ってくれなかったから。
知らないフリをし続けた。
覚えているのは父の笑顔だけ。
しおりにはもうそれだけで十分だった。
流れ星が空を滑り落ちる。
その時、真央が突然頭をガクッと落とした。
「…パ…お兄ちゃん?」
しおりは真央の異変に首をかしげる。
「し…おり…」
真央が制服の胸ポケットから眼鏡を取り出してかけた。
「ああ…これでよく見える」
「?」
その優しい笑顔は明らかに真央の笑顔とは違っていた。
「パ…パ?」
「しおり…ごめんな…淋しい思いをさせて…」
「パパ!!」
しおりはその胸の中に再び飛び込んだ。
真央の体はしおりの体をきつく抱き締める。
その表情には愛しさと、悲しさが混ざる。
言葉もなく時間が過ぎた。
「あんまり、ここにはいれないんだ」
「…やっぱり…お空に帰っちゃうんだね?」
「ああ、だけど、パパはずっとしおりとママをお空から見守っていたんだよ。もちろんこれからも…」
「しおりも、パパを忘れないよ!お空にいても、パパはパパだもん。ずっとパパだもん」
「…ありがとう…愛してるよしおり」
「しおりも、大好きだよ!」
眼鏡の奥が光り、涙がその頬を流れ落ちる。
「しおりは絶対幸せになる!パパがついてるからな」
「うん!」
「しおりと話ができてよか…った…」
そう言うとその体はしおりにもたれ掛かり力を失った人形のようになった。
「パパ?…パパ…」
「…ん…なんだ、視界がぼやけて…しおり?」
「魔王様…」
万里がしおりと共に真央の体を支えた。
「しおり!!」
「ママ!」
そこへしおりの母と結衣、道信、眼鏡のない奏人が様子を見に家から出てきた。しおりは真央の横を走り去り、母に駆け寄る。
「魔王様、今のは…」
「わからん、体を奪われた感じだった…」
「眼鏡姿も素敵です…」
万里は涙と鼻血を垂れ流しながら真央に抱き付いた。
「真央くん!」
「真央…」
「結衣、メガネのない奏人…」
しおりは真央から離れた。
それだけで、真央はしおりの背中を押せた気がした。
「お兄ちゃん!」
「?」
母と手を繋ぎ、笑顔のしおりが真央を呼んだ。
万里をぶら下げながら振り向く真央に、しおりは叫ぶ。
「ありがとう!天使のお兄ちゃん!お願い事叶えてくれて!」
「!」
「天使ですって!!何て口を!」
「いいんだ、マリー…」
優しい微笑みを向けながら真央は自分の胸に拳を突きつけると声をあげる。
「忘れるなよ!」
しおりも同じ動作をしながら笑顔を返す。
「うん!」
そして、母は真央たちに深くお辞儀をするとしおりと共に家に入っていった。
「正彦さんと、詩織ちゃんが出会えたように、織姫と彦星も出会えたのかな?」
結衣が星空を見上げながら切なく呟く。
「一年に一度じゃなくて、ずっと一緒に居れたらいいのに…」
「年に一度でも…会えるだけで、幸せと感じるだろうな…」
真央が言葉を返す。
その言葉を聞いた結衣は真央の顔を見るとまた、空に視線を移した。
「そうだね…」
「じゃ、俺もお願い事!かわいい彼女ができますように!」
「なにそれ!!私は、魔王様と結ばれますように〜」
「え?それ、無理じゃないか?」
「私は…奏人君たちとこれからもずっといれますように!」
「えっ!結衣ちゃん!?それって…」
奏人は今までの結衣の言動が奏人との事ではないかと思い、真っ赤になった。
「ゆでダコ…『たち』って思いっきり付いてるけどね…」
道信がにやにやしながら奏人を肘でつつく。
「奏人…お前は?」
真央が奏人を見ながら訊ねた。
「そうだな…これからも笑って毎日を過ごせますようにかな!?…真央は?」
「俺か俺は…とりあえず、メロンパンを腹一杯食べたいな!」
「なんだそれ!て、言うか、早く眼鏡を返せ!」
「それが願いか!叶えてやったらメロンパンな…」
「んなもん、いくらでも買ってやるわ!…うがっ!」
「メガネ!!口の聞き方に気を付けなさい!」
「本気で蹴るなよ…」
万里に蹴られた腹を押さえながら奏人は、空を流れる天の川の両側にひときわ輝く二つの星を見上げる。
周りを見ると、真央も、万里も、結衣も道信も皆、同じ空を見上げていた。
皆さんにも幸せな未来が訪れますように☆あらた
長々とお付き合いいただきありがとうございます!!
こんな迂回とてもやりたかった!!
また、機会があればやらせていただきます!
その時も是非お付き合いください!
次回は一旦本編へ戻ります( ̄0 ̄)/
ではまた、お会いしましょう☆