第1頁 魔王様キター!!
ずっとスタンバってました(´Д`)。新作、どうぞ宜しくお願い致します!!
「これで終わりだぁあ!!」
大きな剣を振りかざし黒く巨大な闇に男は立ち向かっていく。
圧倒的な力の差を気力で乗りきり、奴を追い詰めた。
最後の一撃にすべてを賭け男は飛び上がる。
対峙するもう一方は、黒い影を体から吹き出しながら、自分が悪の王に生まれてきたことを悔やみ、目を瞑る。
「魔王様!」
最後の瞬間、魔王配下の魔導師が何かを呟きながら体を寄せてきた。
魔王と魔導師に電撃が走る。
みるみるうちに二人の体は闇に溶けて消えていった。
例えば異次元ファンタジー。
全く知らない世界に突然召喚されて、それでもってなんかかわいい妖精みたいなのが、貴方は伝説の勇者です!魔王にさらわれた姫とこの世界を救ってください!
とか言われて、元の世界に帰るために、はたまた正義を貫くために戦い勝利する。
そして、日常を取り戻す。
「日常ね…平凡が一番だよな」
光陵学園高校からの帰り道、石橋奏人は友人に借りていたライトノベルを閉じ、眼鏡を指で押し上げた。
「まあ、その妖精か、お姫様が折笠さんだったら考えてしまうかな…」
昔、奏人が小さい頃に隣に住んでいた、折笠結衣のことをふと思い出す。
家までの近道となる幸寄神社の境内へ足を踏み入れた。
広いとは言えない境内の社の前では数人の子供たちが鬼ごっこをしている。
昔、結衣とここで一緒によく遊んだなと、感慨に耽ってしまう。
降りようとした石段に一人の女の子が顔を伏せ泣いている。
どうやら仲間に入れてもらえなくていじけているのかと、奏人はその少女の横に座った。
「いいだろ、この景色」
半ば独り言のように、そこから見える景色に目を細める。
山の中にある高校から少し下ったところにひっそりと存在する神社。
木々に囲まれながら真っ直ぐ伸びる石段からは奏人たちの暮らす町と、その町の先にどこまでも広がる真っ青な海がよく見渡せた。
奏人はこの見晴らしが好きだった。
「自分がちっぽけに見えるだろ?」
そう言って少女の方を振り向くと、その姿はすでに無く、境内の方から少女の声が聞こえてきた。
「変態に声かけられたー逃げろー」
「はっ!?」
「きゃーっ」
声が響くと一斉に散り散りになる子供たち。
あっという間に人の気配が無くなり、奏人だけがぽつーんと残された。
「なんなんだ…」
なんだか寂しい気持ちになり、肩を落とし一歩踏み出したとき、背後に誰ががいる気がした。
「奏人くん?」
懐かしい声。
振り返るとそこには小学五年の時に転校していった、折笠結衣の姿があった。
間違いなかった。
あの頃の記憶が鮮明に甦る。
同じ学園のセーラー服に活発な短い髪を風になびかせ笑顔で手を振った。
「ゆ、い…お、折笠…さん?」
「やっぱりメガネのかなとくん!!久しぶりだね!?お兄ちゃんになっちゃって!」
結衣が機嫌良さそうに奏人の前に歩いてくる。
小さな顔の中に大きい瞳にピンク色の唇。
マンガのヒロインの様な少女がだんだん近づいてくる。
昔のままに違いはないがしばらく会わない間に一層可愛くなったように感じた。
「同じ年だろ…」
負い目があるわけではない。
だが何故か足が後ろへ…
「うわっ!!」
舞い上がっていたのか、ここが階段であることを忘れ足を踏み外した。
「かなとくん!」
結衣の叫びも自分の体が落ちる速度も何十倍も遅く感じた。
終わりはこんなものなのか…
最後に結衣に会えてよかった…
目を瞑る。
何も聞こえなくなってきた。
もう、身を委ねるしかない。
ピリピリッ
体に電気のようなものが走った気がした。
この世界との決別を体感しているのか。
ビリビリ
「いでぇ〜っ!」
いや、これは…
はっきりいって別の何かの事件に巻き込まれたようだった。
身体中が焦げるような激しい激痛が奏人を包む。
「うがっ!!」
「うぐっ!!」
「うきゃっ!」
石段に落ちる衝撃ではなく、なにかに受け止められた、というよりかはぶつかって、そのまま転がり落ちる。
「かなとくん!」
目を恐る恐る開く。
真っ暗だった。
その辛うじて見える隙間から結衣が石段をかけ降り近づいてくるのが見える。
スカートをヒラヒラさせながら。
「あ、パンツ…」
ずっとこのままでいたかったが生きているのか、手を動かす。
きちんと動いた。
自分がなにかの布のようなものに包まれているとわかった。
そして柔らかなクッション。
「助かったぁ〜」
体にかかる布をどかし、クッションに顔を埋める。
「いやんっ」
クッションが可愛らしい声をあげた。
そんなわけがない。
目を見開いてよく見ると、それは大きな柔らかい、胸だった。
体をたどりその物体の持ち主を見る。
「私の体は魔王様だけのものよん!」
ふわふわの黄色い髪にこれまた大きくつり目ぎみの瞳、額になにかの模様がかかれた、女の子がほほを赤くして奏人を見つめる。
しばらく沈黙が続いた。
「かなと…くん?」
心配している声とはほど遠い結衣の震える声が沈黙を打ち砕く。
「うわぁぁぁ〜!!」
奏人は全身から湯気を吹き出し、慌てて少女の胸から手を離し後ろに転がり込んだ。
「ご、ごっごっ誤解です!!」
拳を握り眉間にシワを寄せる結衣に向かって何故か土下座を繰り返す。
「もう、いいよ…かなとくんが無事だったんだから!で、誰?」
結衣も奏人の一部始終を見ていたので、突然現れたその少女に対して怒りを露にすることはなかった。
真っ黒な布の上にちょこんと座り込み指を口に当て辺りを見回す少女のその姿もまた、マンガの世界から飛び出してきたようだ。
「あのぉ…ここ、どこですかぁ?魔王様は?」
「は?」
「まおう?」
聞きなれない台詞が何事もないように口からこぼれた。
膝の砂をはたきながら立ち上がると、その少女の服装がかなり奇抜でどこで手に入れたのか気になってしまう物であることに気をとられる。
ふと、結衣を見ると、携帯電話を慌てて開いている。
それが賢明だ。
きっと転がり落ちたショックで記憶が飛んでいるのだ。
救急車を呼ぶのだな。気が利くイイコだな…
結衣に対してまたまた気持ちが上がったとき。
カシャッ
「すごい、クオリティー高いですね!!なんのコスプレですか!!この額のペイントはどうやって書いてるんですか!!これ、地毛ですか?」
結衣の携帯カメラからはシャッター音が鳴り響き、奇抜な服装の少女を関心と羨望の眼差しで上から下までいじり倒していた。
「えぇぇ〜!!」
まさかの結衣の行動につい叫ぶ。
「あなたさっきから何をしてるの?魔王様はどこにいらしゃるの!?」
少女を撮りまくる結衣に黒いマントの上でポーズを取りながら辺りをキョロキョロと見回す少女。
なんか踏み入れてはいけない世界なのかもしれないと思いながら、奏人は少女の足元に目線をやる。
「…あの、ま、まおうというのかはわからないけど…」
全貌の見えている奏人が落ち着きを取り戻し、口を開いた。
そして少女の足元を指差す。
「さっきから下にふんずけてるその人のことでは?」
「は!?」
すべての視線が真っ黒な布、いや、マントに包まれた人物に注がれた。
「魔王様〜ご無事ですかぁ!?」
さっきまで踏んずけていたことを、なかったかのように少女は下敷きになり伸びている人物の胸ぐらをつかみ激しく揺する。
「うぅ…マリーか…」
「あぁ魔王様!!ご無事で何よりです!!」
「無事?と言うことは、助かったのか?」
「えぇ…」
「そうか…」
一通り不思議な会話を済ませた二人は、辺りを見回した。
「で、ここはどこだ?」
「うわ…」
奏人はつい感嘆の声をあげてしまった。
美しい顔というのはテレビや雑誌の中だけだと思っていたが、実際に目の前にその姿を確認するとつい声が出てしまうものなのか。
魔王と呼ばれている青年が立ち上がる。
長身に、これまた奇抜なデザインの、黒を基調とした衣装のような服。
風にバザバサとなびく黒いマント。
黒い色がその男の整たんな顔立ちをより引き立てているようだった。
「君は?」
キリッとした眉にどことなく憂いを帯びた優しい瞳が奏人を見つめた。
「う…」
言葉につまる。
「失礼した。人に名を訪ねるときは自分からだな」
男は襟をただしながらこつこつとブーツのそこを鳴らしながら奏人の目の前に立ち止まった。
「私は悪の大魔王だ」
奏人の頭の中が真っ白になった。
読んでいただいてほんとにありがとうございます!!
次回はアイツが登場します(^^ゞ