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一人で食べる弁当の味

作者: 木嶋うめ香
掲載日:2026/07/16

「はあ、腹へった」


 電車から降りて、改札を空腹の情けない気持ちで通り抜け、駅の側の駐車場に停めていた車に乗り込むなり持っていたビニール袋から弁当を取り出し説明を読み、温めの紐を引っぱる。

 本当は新幹線の中で食べるつもりだった駅弁は、奮発してステーキがメインの奴にした。

 運転するのを考えて、ビールを飲みたいところお茶で我慢し、ペットボトルのお茶と共に購入したまでは良かったが、新幹線ホームに入った俺は大混雑している景色に呆然とする羽目になった。

 信号機故障により、新幹線が止まっているなんて思うわけがない。

 先に分かっていたら、切符キャンセルしたのにと思いつつ、こういう時キャンセルってできたんだっけと考えながら、ホームで新幹線が来るのをひたすら待つしかなかった。


 幸い、俺が乗る予定の次の次あたりの新幹線の発車時刻あたりで信号機の故障のための修理と点検は終わったらしく、少し先で停まっているのが見えていた新幹線もホームに入ってきた。

 疲れた顔で新幹線を降りていく乗客、乗り込む俺達、これで今日中に帰れる。

 安堵したのも束の間、指定していた席は無かった。というか、俺が指定席に座れる状態ではなかった。勿論自由席も。

 ずっと座れず、立ちっぱなしで弁当は食えるわけもなく。

 新幹線から在来線に乗り換えて、地元の駅に到着した俺の空腹具合は限界に達していた。


「茶が美味い」


 買っていた分は新幹線を待つ間に飲みきってしまったから、駅の自販機で新たに買ったお茶はまだ温かい。

 お茶が乾ききった喉に染み渡る感覚と、やっと落ち着いて飲み食いできるありがたさに、はぁぁとジジくさい声がでる。


「お、あったまったかな?」


 七月に入り暑くなったとはいえ、ステーキは温かい方がいい。

 俺の車の他に遠くに二台停まっているだけの駐車場、駅の周辺は見渡す限りの田んぼだからエンジン音も気にしなくて良いから、遠慮せずエンジンをかけエアコンから涼しい風が出てくるのを待つ。

 エンジンかけるより、弁当だった。

 それくらい、腹ヘリなんだよ、今の俺は。


「食べるぞー」


 ドリンクホルダーにお茶のペットボトルを入れてから、弁当を一旦助手席に置いて割り箸をビニールの袋から出して二つに割る。

 

「にーく、にーく、ぎゅうにーく!」


 空腹でおかしくなったテンションで弁当の蓋を取ると、ででんと視界に入るのは適度な厚さにカットされたステーキが味付きらしいご飯の上に並べられている魅惑的な光景だ。


「いい匂い、これが食べたかった」


 出張でヘロヘロ、空腹でもヘロヘロ、ついでに新幹線の中は都会の朝の満員電車並みに混雑しまくりでずっと立つしかないので、それでもヘロヘロになった。

 そんな最悪なコンディションで迎えるステーキ弁当、しかも温め機能のお陰でホカホカだ。

 ありがとうお弁当屋さん、この機能をつけてくれて。

 感謝しながら、そっと割り箸で一切れの肉を摘みあげ、口に運ぶ。


「うますぎる」


 行儀が悪いが、一人だから口に入ったまんまで声が出ても許して欲しい。

 今のは心からの感動の声なんだ。

 腹が減りすぎてるんだ、今すぐ米をかきこみたいんだ。


「美味いよぉ」


 噛むとじんわりと肉汁が口の中に広がる。

 飲み込むのが惜しいけど、早く送ってこいと胃から催促の声が幻聴で聞こえてくる。


「肉最高」


 ゆっくり噛んで飲み込んで、はぁぁと声がまた出てしまう。

 幸せだ、今日俺はこのために生きてきた。


「付け合わせが、芋と人参とコーンなのいいな」


 弁当の隅に付け合わせが並んでる。

 野菜が少ない? いやいや今はこれが良い。

 肉最高、肉ありがとう。

 俺は今そういう気分なんだ。

 肉、米、肉、米、たまに付け合わせの野菜を繰り返していると、あっという間に弁当は空になってしまう。

 丁度お茶もなくなり、俺は満足して弁当をビニール袋に入れる。


「運転する元気出た」


 無人の駐車場は、無料なのがありがたい。

 もう九時過ぎてるから、点滅している信号機に気をつけ、途中狸とか引いたりしないようにも気をつけながら、三十分運転しないと家には辿り着けない。


「出張後って、地元の田舎具合に驚くよなあ」


 ライトをつけて、シートベルトを締めて発車する。

 歩行者どころか、対向車もいない田舎道をひたすら走らせながら、俺にはここがあってるなと思う。

 地元はなにせ駅弁なんて売ってない無人駅。

 出張でもなけりゃ、そもそも電車にも乗るのが稀な俺の日常。

 だけど駅弁も電車もたまにでいい。


「皆寝てるかな」


 電車降りた時に歩きながら、着いたとメッセージは送ってあるけど、丁度寝かしつけの時間だからまだ見てないと思う。

 お土産には子供たちも奥さんも大好きな、キャラクターの絵がついたミニケーキを買った。

 おまけのシールが一枚なのが、心配だけど許してくれるかな。

 ちなみに、会社用はクッキーだ。無難なのは大事。

 子供たちに、パパは今日頑張ったんだよお。と言ったら褒めてくれるだろうか。

 パパえらーいと言ってくれたら、仕事また頑張れるんだけどな。

 

 次の日、ステーキ弁当の包みを見られて、子供たちに、自分ばっかりずるーい、パパきらーい。と言われてショックを受けるとはこの時の俺はまだ知らなかったんだ。


本日は駅弁記念日だそうです。

毎回エッセイなのもあれなので、短編にしてみましたー。

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