盗賊
・あらすじ:
商人ギルドから正式な護衛依頼を受けて、元々護衛が潤沢で、理論上は襲撃が起きないはずの定期商隊に追加の護衛として参加するが、なぜか普通に襲撃を受ける。
「─── ほぉ・・・これは中々の数ですね。」
副団長に現場の指示を任せた私は、状況を把握する為に高台の影から戦況を観察していた。
角笛が響いた方に足を運んでみれば、そこでは潤沢なはずの護衛を上回る数の盗賊が商隊に襲い掛かってきていた。
「それに連中、馬も揃えているのですか。
・・・もっとも、ヴェイルの足元にも及ばないような駄馬ばかりですが。」
我が愛馬グリムヴェイルが、「また始まった」と言わんばかりにどうでも良さそうに鼻を鳴らす。
しかし実際、質が悪いことは確かだった。
それでも数が揃っているのは厄介だ。
実際、体制側の特権であるはずの騎兵が、完全に凡兵と化してしまっている。
精強な軍馬に乗っている騎兵も、駄馬とはいえ騎兵と化している盗賊に囲まれてポテンシャルを活かし切れていない。
あ~、また一人落とされた。
「ふむ・・・しかし妙ですね。
これだけの数が揃っているなら、私がいた最後尾にも部隊を回して挟撃を試みても良いはずですが・・・。」
しかし実際のところ、盗賊たちは商隊の前方から競うように攻めている。
まるで全体の統率者がいないとでも言わんばかりに。
「これは・・・つけこめるかもしれません。」
弱点を見つけて、つい口元が緩む。
そんな私の顔を、何故かグリムヴェイルが変なものを見るような目で見ていた。
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<Side:盗賊>
「─── 皆殺しにしろ! 荷物は全部 俺のもんだ!!」
盗賊の頭、その一人が叫ぶ。
そして男は、確かに競合相手達より深く商隊に切り込んでいた。
(最初に話を持ち掛けられたときは正気かと思ったが・・・何だよ案外悪くねぇじゃねぇか。)
男が持ち掛けられた話とは、闇市の酒場で誰かが口にした儲け話・・・『ここにいる全員で定期商隊を襲撃したら、バカ儲け出来るんじゃね?』というものだった。
確かに、公営の定期商隊が運ぶ品は莫大な利益を生み出すが、反面 護衛はアホみたいに多いということも忘れてはならない。
よって素面であれば鼻で嗤うような内容ではあったが、酔いと場の勢いも手伝って、何とその話は具体的な襲撃計画にまで発展してしまった。
男もまた、その場に居合わせた酔っ払いの一人として、特に考えなしに襲撃計画に名を連ねてしまったのである。
後で素面に戻ってから若干後悔したが、莫大な利益が目前に迫れば興奮で そんなものは吹き飛ぶ。
「行け! 落とせ!! そうだ、そのまま───」
しかし男は財宝を目にすることなく、胸部に矢が生えて絶命した。
男にとって幸いだったのは、興奮状態だったので痛みを感じずに死んだことか。
男はそのまま、跨っていた馬から落ちた。
「・・・おい、頭が死んだぞ。」
「あぁ・・・そうだな。」
あまりに一瞬のことで、周りにいた盗賊は状況が呑み込めなかった。
それが生死を分けた。
───── ドッ
第二射が、ついさっきまで言葉を交わしていた仲間の胸を貫く。
盗賊は自分の胸に生えた矢を見ると、次に仲間と目を合わせ、そのまま静かに落馬した。
「うっ・・・。」
盗賊の一団の勢いが止まる。
略奪の熱狂とは違う、静かな死の恐怖が盗賊たちの間に蔓延した。
─── そうして第三射で、また別の仲間の胸に矢が生えた。
それが最後の一押しとなった。
───── 絶叫。
盗賊の一団は、静かな死の恐怖に耐えられなかった。
足並みは乱れ、騎兵が歩兵の仲間を踏み潰すような地獄絵図が広がる。
その地獄絵図は、疫病のように盗賊たちに伝播した。
死んだ男が率いていたものとは別の一団もまた、訳の分からぬ混乱に呑み込まれて遁走を始める。
そうして その地獄絵図を作り出した張本人といえば───
「何か・・・思ったより凄いことになってますね。」
─── ビックリするほど他人事だった。
・盗賊:
村を襲ったり商隊を襲ったりする無法者達。
戦時は傭兵として働いているような ならず者達が、平時に自分達の食い扶持を確保する為に手を染めるケースが多い。
・闇市:
都市の貧民街にあったり、街道から少し逸れたような人目に付かない場所にあったりする、非合法な物品や盗品などを取引するような危険地帯。
勿論 人が集まる都合上、酒場などの娯楽施設があることが殆どで、それらは反社会的勢力の資金源となったり、今回の襲撃計画のような犯罪の温床になったりもする。




