愛馬
・あらすじ:
商人ギルドで何とか依頼を発行して貰うことが出来たアスカは、前日のブリーフィングを経て定期商隊に護衛として参加する。
<三日後>
「─── それでですね、ヴェイル。
その受付ったら酷いんですよ?
何とこの私に認識票を外せって言うんです。
この世界の人間なら、冒険者にとってのドックタグがどういう意味を持っているかなんて子供でも知っているはずなのに。
まぁ私が”懇切丁寧に説明”したお陰で分かってくれたのですが───」
フンッと鼻息を鳴らして、私を乗せた青毛(真っ黒な毛並み)の馬が適当な相槌を打つ。
この馬は『グリムヴェイル』といい、軍馬の牧場で放牧されていたところで私が一目惚れし、【傷だらけの男】にねだって家族として迎え入れたという経歴を持つ私の愛馬だ。
とにかく賢い馬で、人間の言葉を理解している節があり、こうして話を聞かせると人間のような反応を返すカワイイ奴。
私の話を面倒臭そうに聞きつつも、相槌を欠かさない真面目なところもカワイイ。
「─── で、代表としてブリーフィングに昨晩出て、今日からこうして殿として最後尾の護衛をしているワケですが・・・やっぱり暇ですね、定期商隊の護衛は。」
ブルルッと「暇に越したことはないだろ」的な声色でグリムヴェイルが鼻を鳴らす。
実際、護衛が潤沢で襲われること自体が少ないのが、公営の定期商隊の魅力だ。
商人としては商品の損失リスクを抑えられるし、多少実入りが少なくても安全だからと定期商隊の護衛として契約する傭兵団は多い。
しかし、暇なものは暇だった。
「こんなことなら多少高くても本の一冊や二冊 買っておくんでした。」
この世界の本は高い。
何と言っても印刷技術が発達していないので、文字から挿絵まで全部手書きだ。
当然、1,000円程度で買えるはずもなく、日本円で言うと粗末な中古本でも感覚的に数千円、良いヤツだと数万円~数十万円もする。
金には困ってない方だが、それでも好きなだけ買えるほど裕福なワケでもない。
「ねぇ、ヴェイルも私の読み聞かせ聞きたかったですよね。」
グリムヴェイルは何も言わない。
図星を突かれると黙るのがグリムヴェイルの癖だ。
こういうところも、またカワイイ。
「・・・あ~、暇ですね。」
せっかく冒険者としての装備をしているのに、こうも暇だと脱ぎたくなってくる。
人外魔境の探索をメインとして調整された専用の鎧は、傭兵や正規兵のソレよりは確実に軽いが、それでも疲労は溜まる。
・・・まぁ、流石の私も命が惜しいので本当に脱ごうとは思わないが。
「・・・そうだ。
しりとりしましょうよ、ヴェイル。
『リンゴ』。」
「フンッ。(『ゴミ』)」
「『ミカン』。」
「ブルルッ。(はい、負け。)」
「この私が・・・馬に、負けた・・・?」
・・・外套くらい脱いでも良いかな。
そう思い始めたときだった。
───── ブオオオオーーーッ!
商隊の前の方から、鳴るはずのない角笛による警報が響いた。
・傭兵
金銭で雇われる兵隊。
冒険者ほどギルドメンバーになる為の障害は多くないが、それでも最低限の人数を集められるだけの人望と、必要最低限の装備を揃えるだけの資金力は必要になる。
・傭兵団
傭兵ギルドのギルドメンバーである傭兵団長を頂点とした集団。
傭兵業を専門とする団員が中核をなしてこそいるが その数は決して多くなく、戦時などに そこら辺で掻き集めた雑兵と、そういった雑兵相手に商売をする商隊などで構成人数が軍隊レベルに膨れ上がる。
平時の護衛依頼などで動いているのは、基本 中核の専門職メンバーのみ。




