商人ギルド
・あらすじ:
仕事を貰う為に、宿の併設された酒場を出て商人ギルドを尋ねる。
商人ギルドは基本大通りに沿って歩くと大概ある。
それは川に沿って歩くと人里に辿り着くように、大概の都市で適応される事象だった。
多分沢山の商人が出入りする関係で大通りにいつもあるのだと思ってはいるが、本当のところはどうか知らない。
そうして案の定見えてきた、小さめのビルくらいある石造りの建物に入る。
大通りの時点で人混みが酷かったのに、中に入ると市場か何かかと思うくらいの熱気に襲われた。
大きめの都市になると、商人ギルドがこういった煩雑さを見せることはままある。
私は人混みを掻き分けて受付まで流れ着いた。
ここで日本人らしく順番待ちなんてしているとあっという間に一日が無為に浪費されてしまうので、時に無法者になることも必要になってくることを学んだのは今世の小学生くらいの年だったか。
そうして順番を無視して割り込んできた私に、受付の女性が引きつった笑みを向ける。
・・・これくらいで動揺するなんて若いな。
もしかして新人かな?
「えっと・・・ご用件は・・・?」
「冒険者なんですが、何か仕事あります?」
「はぁ・・・。」
受付嬢は私の服装をマジマジと見た。
え、なに?
もしかしてそういう趣味でもある?
「・・・失礼ですが、とてもそういった荒事をするような方には見えませんが・・・。」
「あー・・・なるほど。
私が可憐すぎて疑っているんですね?」
よくあるんですよね。
私の顔が良すぎて貴族令嬢か何かと間違われること。
いやー、仕方のないこととはいえ困っちゃいますよね。
「えっ、いえ、そういうワケでは───」
「ふふん、しかしご安心ください。
いつもはここで私が冒険者であることを分からせる為に備品の一つでも破壊してみせるところですが・・・今日からは違うんですよ。」
「はい!?」
私は襟首の中から認識票を引っ張り出して見せる。
「どうです?
これが私が『冒険者見習い』から正式な『冒険者』に成った証ですよ。
良かったら褒め称えて下さい。」
「・・・。」
「・・・うん?」
どうにも受付嬢の反応が思わしくなかった。
どうもフリーズしているというか、反応に困っているように見える。
なに?
やっぱりそういう趣味だったりした?
「・・・えっと、すみません。
私では正誤の判定がつかないというか・・・上司の方に確認をとりますので、そちらの認識票の方をお預かりしても?」
「・・・え、普通にダメですけど?」
思わず真顔になってしまった。
冒険者にドックタグを外せとか正気ではない。
冒険者のドックタグを外して良いのは死んだときだけなんて、この世界では子供でも知ってるはず。
いくらなんでも常識なさすぎる。
いや、転生者に常識を説かれるって何?
「では申し訳ありませんが、ご用件をお伺いすることは───」
「─── グダグダうるさいですね、死にたいんですか?」
面倒くさくなった私は、腰に佩いた愛剣を抜いて受付嬢の首筋に刃を当てた。
ヒュッと空気が凍り付いた音が聞こえた。
一見すると私が悪いようだが、これも全て目の前の新人が常識知らずなのが悪いのだ。
私、悪くない。
「あの・・・えっと・・・。」
「いいですか?
今直ぐ、貴方の上司に『冒険者』が来たと言いなさい。
然もなくば私がみっともなくこの場で駄々をこねることになります。」
その過程で高価な備品や人命が失われるかもしれないが、この世界は割と法関連と倫理観がガバガバなところがあるので大体何とかなる。
そして、私はそれを良く知っている。
「ヒッ・・・。」
・・・どうやら私の誠意()を込めたお願いが効いたらしく、受付嬢はコクコクと頷いてバックヤードに引っ込んでいった。
「・・・。」
カチンッという音と共に、私は愛剣を納刀する。
(なんで、いつもこうなるんでしょうね。)
それなりに顔が広いはずの私だが、何故かいつも受付が私を知らなくてモメるのだ。
【傷だらけの男】の下で冒険者見習いだった頃も、スカーズの使いで来たって言ってるのに受付がスカーズを知らなかったりアンチだったりして、結構な備品を壊したり、その受付をボコボコにしたりしてようやく話を聞いて貰えるといったことが多かった。
(まぁ・・・今回は脅しだけで済みそうで良かったですが。)
私は受付用の机に肩肘をついた。
そうして話が通じそうな商人ギルドの職員が飛んできたのは、僅か数秒後のことだった。
・受付/受付嬢:
基本は商人達の申請や報告を受け付ける為の役職。
偶に冒険者の相手をすることもあるが、冒険者は大体有名人なので蔑ろにされることは殆どない。
何故か毎回冒険者に疎いor失礼な受付にアスカが当たるのは、単に本人の運が極めて悪いから。
・冒険者が認識票を外す:
下にいる団員は勿論、冒険者本人がドックタグを外すことは水浴びの際ですら無い。
冒険者がドックタグを外すことは引退か死亡を意味し、外すことを求めることは極めて失礼なことにあたる。




