とある魔族と、治安の悪い酒場。
<Side:とある魔族>
その魔族は、独りが好きだった。
独りは良い。
煩わしい人間関係から距離を置くことで、心を豊かにすることが出来る。
その魔族は今日も独りアテも無く旅をしていた。
特に目的地は決めていない。
強いて言うなら、美味しいものを探していた。
それは野山で虫に集られているような果物でも、高級な食事処で饗されるような美食でも何でも良かった。
ただ、心が満たされれば良い。
ふと、遠くに都市が見えた。
この辺りなら、かの有名な聖都であろうか。
行く先も無かった魔族は、食事を求めて聖都へと足を向けた。
幸い、金だけは腐るほど持っている。
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「魔族か・・・。」
どうやら聖剣祭というものをやっているらしく混雑している門の待機列に並ぶこと数時間。
ようやく自身の番が来たと思った直後、検問の門番に言われたのが その一言だった。
元々魔族が都市に入るのは難しいものだが、聖都となると やはり もっと難しいものらしい。
しかし その魔族も伊達に魔族をやっていない。
自身の財布から金貨を出すと、数枚(日本円で10万円分くらい)を門番に握らせた。
「・・・問題なし。 通っていいぞ。」
門番は軽く金貨を擦って偽金でないことを確認すると、魔族が先祖代々の敵であるということに目を瞑って その魔族を通した。
過去の遺恨よりも、明日以降の生活と 今日の酒代が重要だからだ。
やはり金。
金は大体のことを解決してくれる。
正規の手順を踏んで何も疚しいことなく都市に入った その魔族は、やはり まず美味そうな物を探すことにした。
一般的な迷信として魔族は人を食う鬼のようなイメージを持たれることが多いが、魔族といえど独自の文明を持った人間であり、普通にパンやスープなんかの文明的な食事が好きだ。
それは その魔族も例外では無かった。
とはいえ魔族にマトモな食事を提供してくれるような店は、平原人の文明圏では多くない。
下手に下町の食堂に行けば喧嘩になるし、かといって高級商店街や貴族街なんかに行こうものなら追い返されるだけで済めば良い方で、最悪の場合 衛兵を呼ばれかねない。
だから その魔族は、敢えて治安の悪い貧民街に向かうことにした。
そういう場所は様々な種族が屯していることが多く、結構 魔族が紛れていても気付かれなかったりするのだ。
それに、最悪 問題を起こしてもスラムなら大きな騒ぎにならないのも良い点だろう。
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昼なのに滅茶苦茶に増築された木造建築によって日陰ばかりの貧民街を通り、その魔族は ついに食事にありつけそうな酒場を見つけた。
中を覗くと昼時ということもあって荒くれ共の喧噪に溢れている。
魔族が紛れてもバレなさそうではあった。
その魔族は適当な席に座って運び手に、近くで騒いでいた荒くれ者達と同じ食事を注文した。
パンにビールにステーキに幾つかの蒸し芋。
・・・大分ジャンキーな昼になりそうだった。
注文を終えた魔族は荷物を足元に置いて一息つく。
そこでふと、自分が何人かに怪しい目で見られていることに気が付いた。
顔を動かさずに目だけで探ると、何組かの危なげな連中にジッと観察されていることが分かった。
その魔族は、杖代わりに使っていた槍に手を伸ばした。
穂先に巻かれた赤い布を取り去ると、中から光をも吸い込むような漆黒の金属が現れる。
「・・・。」
「「・・・。」」
喧噪の中にあって、その魔族は次の瞬間には殺し合いになるであろうジットリとした緊張を感じていた。
「─── 失礼。
相席しても大丈夫ですか?」
そんな中、突然 目の前に少女が現れた。
・・・否、恐らく普通に近寄って来ていたところを、魔族の注意が危なげな連中に向いていたこともあって気付かなかったのだ。
魔族は目の前の少女をマジマジと見た。
この混沌とした酒場にそぐわないような、小柄で可憐な少女だった。
短く切り揃えた金の髪に大きな青の目、張りのある白い肌。
そして何より人形のように整った容姿。
大よそ平原人の令嬢達が求めて止まない身体的特徴を全て持っているような その少女は、しかしまるで世のままならなさを証明するかのように、全身から死の匂いを撒き散らしていた。
どうやら見た目に反してロクな人間ではないらしい。
それを踏まえると場にそぐわない小綺麗なスーツも、可憐さを強調するアイテムというよりも目の前の少女の異様さを助けているように見えてくる。
「構わないけれど・・・───」
魔族は先程まで自分をジッと観察していた危なげな連中の方を改めて確認した。
すると、危なげな連中は何やら口論をしながら酒場を出ていくところだった。
先頭を行く何人かは、少女の方をチラチラと見ながら焦ったような表情を浮かべている。
・・・どうやらパッと見で危なげな連中より、目の前の少女の方が危険らしい。
危なげな連中の顔から そのことを読み取った魔族は、まず槍の黒い穂先を赤い布で巻き直して敵意がないことを示した。
そのことに満足したのか、少女は笑って席に着いた。
「私はアスカといいます。 ・・・貴方は?」
「・・・ルカ。 ただのルカ。」
ルカはアスカと同じ卓を囲んで、自身が注文した料理が来るのを待った。




