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『     』──タイトルは私たちの名前でヨロシク  作者: ネコミケ


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3/3

5月17日

 ──ジリリリと、枕元の目覚まし時計が騒ぎ出す。


 月曜日。憂鬱な曜日ランキング堂々の一位である。


 平日の朝のスケジュールはこうだ。7:00起床、7:45出発、8:45到着、9:10授業開始。朝起きてからの四十五分間と一時間のバス移動のうちに、いかに心の準備を整えるかがその日の気分を左右する鍵となる。


 うんと伸びをして、頭上に手を伸ばす。

 ──パシ。珍しく今日は、一撃でやかましいベルを仕留めることができた。時計を掴み、そのまま時間を確認する。7:45。


(……噓でしょ)


 心臓が縮む。寝坊した。講堂に遅れて入る時の光景が脳裏をよぎり、背中に悪寒が走る。

 布団を蹴飛ばし、飛び起きてベッドの横に位置する窓のカーテンを開け放つ。


「……あ、そっか」


 眼下には、鮮やかな芝生の庭と、街に立ち並ぶ建物の数々。


 少女リューズは屋敷の使用人として、住み込みで雇われたのだった。



 ◇



 雇用条件は、少女リューズにとって非常に都合の良いものだった。仕事内容は庭や屋敷内部の管理の手伝い。仕事の見返りとしては、朝夜の二食に自分の部屋、それに加えて潤沢な給与までついてくる。そのうえ、学園からは徒歩二十分程度で、立地も良い。おかげで睡眠時間が長くなった。

 ……失礼、少女リューズにとって都合がよいというのは嘘になる。全人類が羨む雇用条件だ。


「行ってらっしゃいませ、リューズ」

「いってきます」


 屋敷で一緒に住むのは──


 銀髪の女性グレース(屋敷の主人)

 研究者ヴラド(地下室の女の子が言っていたお医者さん?)

 料理人レスター

 使用人

  黒髪のノア

  青髪のエレン

  執事のロイド

  新入りのリューズ

 そして、地下室の女の子


 ──この八人。


 屋敷の規模に対して、使用人の数がとても少ない。少女リューズが雇われたのも、人手不足が原因だろう。

 しかし、掃除をしようにも汚す人がいない。もはや屋敷の主であるグレースからお小遣いをもらっているような関係になっている。怖いくらいの好待遇だ。


 一つ懸念があるとすれば、地下室で暮らす女の子だ。雇用について説明を受けたときも、あの子についての言及は一切なかった。それどころか、屋敷に住む者たちはまるで地下室自体が存在しないかのように扱っている。

 今のところ、地下室への不法侵入はばれていない様子である。少女リューズは、知らないふりを徹底していた。


 治療のためとはいえ、地下室に人を監禁しているだなんて印象が悪い。屋敷の主であるグレースはここまでの金持ちなのだから、きっと自分自身か夫あたりが、界隈では有名人なのだろう。そのために体面を気にして、公にはしていないといった具合か。まあ、何の界隈なのかは見当もつかないが。


 少女リューズは初対面以来、地下室の女の子と会っていない。こっそり会いに行こうと思えばいつでも行ける。しかし、あれだけ学園祭について熱弁されては、何も持たずに行くのは憚られる。


──『また来てね! 約束!』


 胸が締め付けられる。あんな寂しい部屋で一人過ごすあの女の子のことを思うと、少女リューズは放ってはおけなかった。でも、会いに行くなら、学園祭に出なきゃいけない。


 少女リューズは恐れていた。

 地下室の女の子をがっかりさせたくない。でも、学園の人たちにもがっかりされたくない。


 ……通学路を歩きながら、出場案内とにらめっこする。


(個人応募枠……)


 個人枠にエントリーした生徒は、他の生徒とランダムに三人組を指定されることになる。


 学内最強の呼び声高い“閃光”と呼ばれる生徒は、いつもぎりぎりにこの枠でエントリーするのだという噂を、少女リューズは聞いたことがあった。もしその“閃光”と一緒になることができれば、自分自身が目立つ必要はないし、いい感じに話のネタを収集できそうだと、少女リューズは考える。


(“閃光”と一緒になれる可能性に賭けるしかないか……)


 本番が六月二十日で、個人枠の抽選発表は六月一日になる。それまでは……別にすることもないか。
















 ◇ ◇ ◇


 自室で青髪を梳かしながら、鏡を見つめるエレン。彼女の周りには、小さく光る精霊たちが飛び回っている。


『学園祭出ル?』

「そうみたいね」


 鏡に映るのはエレンの姿ではなく、学園祭の案内を見るリューズの姿。──かと思えば、屋敷内のいたるところの映像が、みるみる入れ替わっていく。全体の安全を確認したのち、最終的に鏡は地下室の映像に落ち着く。


 ……侵入者なし。認識阻害結界、不備なし。


「今日も経過は異常なし、か」



 思い出すのは、先週のことだ。《《あの日》》だって、結界に不備はなかった。


 というのにあの少女は、何事もないかのように踏み込んでいった。それどころか、リューズとの接触後、お嬢様の症状がわずかに改善していた。


「……」


 “治療”にはいくつかのプランがある。一、特効薬の開発。二、有効な魔道具の開発。三、手術。

 いずれにしても、長い道のりである。この屋敷で集中的に全てのプランを並行して進めているものの、いまだ大した手掛かりはなかった。そう、一週間前までは。


「魔法の無効化。そして“リューズ”という名前……」


 混沌の極致とも言われるほどの認識阻害を、完璧に無効化……いや、浄化してしまうほどの強力な加護。これを持ち得る種族に、エレンは心当たりがあった。


 “竜族”


 人里離れた土地で暮らす希少種が、どういうわけか目の前に現れた。たとえ竜族でなかったにしても、少女リューズの特殊な身体は有用だ。


 屋敷に引き込めた今、依頼達成の時は近い。後は《《仕上げ》》だけ済めば……。


「お嬢様、もう少しだけお待ちください……」

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