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金貨喰らいの召喚士

作者: 南斗嘉成
掲載日:2026/03/02

 俺――横瀬(よこせ)金雄(かねお)は、クラスの中心にいることが当たり前の人間だった。


 昼休みは自然と俺の机の周りに人が集まる。

 サッカー部ではエースで、教師からの評価も悪くない。


 自分が特別だと、本気で思っていたわけじゃないが、どこへ行っても居場所はあると信じていた。


 あの日も、いつもと変わらない日になるはずだった。


 ホームルームで担任が進路調査の話をしている最中、床に白い光が走った。

 最初は誰かの悪戯だと思ったが、教室全体を覆う巨大な魔法陣が浮かび上がり、窓の外の景色が歪んだ瞬間、悲鳴が上がる。


 次の瞬間、俺たちは石造りの大広間に立っていた。

 高い天井。壁に掲げられた紋章。玉座に座る王冠の男。


「勇者様、ようこそ我らが王国へ!」


 その一言で、状況は理解させられた。

 異世界召喚。クラス36人、全員だ。


 ざわめきが広がる。

 誰かが「ラノベかよ」と笑い、誰かが「帰りたい」と泣き出した。


 王は続ける。この世界は魔王の脅威に晒されており、対抗手段として選ばれた勇者であり、全員に『恩寵』と呼ばれる特別な力が与えられる、と。


 順番に、水晶に手を触れていく。

 最初に触れたのは、クラスでも目立たなかった近藤だった。


固有(ユニーク)技能(スキル)【炎帝】》


 彼の掌に、巨大な炎が宿る。

 兵士が持ち込んだ鉄塊が一瞬で溶けた。


 歓声。


 次は高宮。


固有(ユニーク)技能(スキル)【剣聖】》


 剣を握った瞬間、素人だったはずの彼が騎士団長の攻撃を軽々と受け止める。


 治癒魔法の天才。

 絶対防御の盾。

 未来予知。


 地味だった連中が、次々と輝きを放つ。


 俺は、不思議と焦っていなかった。

 自分にも、とんでもない力がある。そう信じて疑わなかった。


 順番が回ってきた。水晶に手を触れる。


固有(ユニーク)技能(スキル)【奉納召喚】》


 ――通貨を捧げることで、武具、あるいは従属生物を召喚できる。

 ――召喚物は使用者専用で、捧げる金額が多いほど、強力な存在が現れる。


「……通貨?奉納?」


 思わず呟く。


 王は感心したように頷く。


「富を力へと変える能力か」


 背後で誰かが小さく笑った。


「課金能力じゃん」

「金ないと詰みじゃね?」


 軽口だった。だが、妙に刺さった。


 その日のうちに、初期資金として銀貨十枚が渡された。


 俺は迷わずすべてを捧げる。


 床に広がる魔法陣から現れたのは錆びた短剣だった。

 鑑定結果を見るまでもなく、一般兵より下の代物だ 。


「まあ、最初はそんなもんだろ」

 近藤が気遣うように言った。


 俺は笑って頷いたが、胸の奥に小さな亀裂が入った気がした。


 訓練が始まり、クラスメイトたちは日に日に成長していく。


 炎は強まり、剣は達人の域に達する。聖女は重傷者を瞬時に癒す。


 俺は、討伐で得たわずかな報酬を捧げ、少しだけマシな装備を手に入れる。


 ・革の鎧

 ・鉄の剣


 捧げた金額以下の価値しかない装備。当然、差は開くばかりだ。


 前線で派手に活躍する者には追加報酬が与えられるが、俺に活躍の機会はない。


 活躍できなければ金は増えない。

 金がなければ強くなれない。


 いつの間にか、教室で俺の周りに集まっていた連中は、近藤や高宮の隣に立っていた。


 戦場で一度だけ、奇跡が起きた。


 敵の奇襲で孤立し、死を覚悟した際に、温存していた金貨一枚を捧げた。


 召喚されたのは、漆黒の巨大な剣。

 一振りで巨躯の魔物を両断し、周りの魔物を吹き飛ばす。


 歓声。

 驚愕の視線。


 これこそ俺のいるべき世界だと感じた。

 だが戦闘後、剣は消えた。


 再召喚には金貨一枚が必要だが、今の俺にはほぼ不可能な額だ。


 魔王軍との戦争は長引いた。


 王国は疲弊し、税を引き上げ、報酬を削る。

 当然、勇者たちへの待遇も厳しくなった。


 俺は焦った。もう一度、あの力を。


 圧倒的な力を見せれば、評価も報酬も変わるかもしれない。

 戦争だって終わらせる可能性もある。

 だが金がない。俺にとっての力とは金なのだ。


 城の地下金庫には、戦費として集められた莫大な財が眠っていると知ったのは、偶然だった。

 厳重な警備。だが、なけなしの金で召喚した地図により、構造は把握できた。


 俺は自分に言い訳をした。これは借りるだけだ。

 戦争を終わらせれば、いくらでも返せる。


 深夜、月明かりの下、俺は地下へ潜り、アクシデントもなく金庫へ辿り着いた。


 地下金庫へ入ると、どこを見ても黄金の山だ。


 山のような金貨を震える手で袋に詰める。


 重い。これだけあれば、神話級だって呼び出せる。

 ふらつきながら金庫から一歩踏み出した瞬間、床の魔法陣が赤く光った。


 罠だ。警報が鳴り響く。

 兵士たちが駆け込んでくる。もう、逃げ場はない。


 俺は叫んだ。


「全てを捧げる!最強の生物よ出でよ!」


 袋ごと金貨を捧げると、魔法陣が暴走するように広がった。


 これだけの金貨だ。

 最強の存在が現れるに違いないとの期待が膨らむ。


 光の中から姿を現したのは、巨大な黄金の竜だ。


 圧倒的な威圧感に兵士たちが足を止める。

 俺は安堵し、兵士たちは絶望の表情を浮かべている。


 だが、竜は無機質な声で告げた。


「契約は無効だ」


 脳裏に流れ込む条文。


 ――正当な所有権なき財貨は、価値を持たない。

 ――不当な奉納には、等価以上の代償を求める。


「待ってくれ」


 胸に焼けるような痛みが走る。


 代償は、俺自身の自由。


 次の瞬間、魔法陣は消え、金貨は元の位置へと巻き戻る。


 兵士たちに取り押さえられるが、抵抗する力はない。


 目を覚ましたとき、石の牢獄だった。

 冷たい床と両手両足に封印の枷。

 鉄格子の向こうで、朝日が差し込む。


 面会に来たのは、かつてのクラスメイト、近藤だった。


「どうしてだよ」


 その問いの答えは簡単だった。

 俺は負けたくなかった。中心でなくなることが怖かった。


 金は力だった。だが俺は、力のために誇りを売った。

 今となっては金がない。つまり、召喚ができない。


 力なき人間に戻った俺は、石壁にもたれかかる。


 教室の喧騒が、遠い記憶のように蘇る。

 あのとき、どうするのが正解だったのだろうか。

 答えは、牢の中では返ってこない。



 かつてクラスの人気者だった男は、異世界の牢獄で、名もなき罪人として静かに息をしている。

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