第3話 変貌の咆哮
その日の放課後、空手部の道場には小太郎と佐藤の二人だけが残っていた。
「小太郎……さっきから、耳鳴りが止まらねえんだ……」
佐藤が頭を抱えてうずくまる。
「佐藤! しっかりしろ、今校長を呼んでくるから……!」
小太郎が駆け寄ろうとしたその時、佐藤の首筋から真っ黒なデジタルノイズが噴き出した。
「う、ああぁぁぁぁぁぁ!!」
佐藤の絶叫が、ノイズ混じりの電子音に変わっていく。
彼の皮膚の下で、無数の「歯車」が逆回転を始めるような不気味な音が響き、骨格が歪に組み替えられていく。
「やめろ、佐藤! 戻れ!」
小太郎の叫びも虚しく、そこに立っていたのは、佐藤の空手着を破り捨てて現れた、黒い外殻を纏う怪人だった。
その頭部には、佐藤が大切にしていた黒帯が、皮肉にも首を絞める鎖のように巻き付いている。
怪人は、小太郎に向かって、見覚えのある**「正拳突き」**を放った。
空気を切り裂くその威力は、人間のそれを遥かに超えている。
「ぐっ……おああぁぁぁ!」
壁まで吹き飛ばされた小太郎の脳裏に、校長の言葉が蘇る。
『次元汚染に飲み込まれた者は、内部から再構築される。もはや、肉体は別の物質だ……』
「嘘だ……そんなの嘘だろ!?」
怪人が、理性を失った咆哮を上げて小太郎に躍りかかる。
その拳が小太郎の顔面を砕こうとした瞬間――
ガチッ。
小太郎の右足のアンクレットが、彼の怒りに呼応するように真っ赤に発光した。
「……ふざけんな。佐藤を、返せぇぇぇッ!!」
小太郎は、襲い来る怪人の拳を生身の腕で受け流しながら、一歩踏み込む。
その踏み込みの衝撃で、足首から赤い装甲が火花を散らして競り上がった。
「変身ッ!!」
殴り合いの最中、火花とノイズの中でスーツが形成されていく。
装甲が定着しきる前に、小太郎は佐藤(怪人)の腹部にカウンターの膝蹴りを叩き込んだ。
ドォォォォォォン!!
衝撃波が道場を揺らす。
変身を完了させた小太郎の視界には、敵の情報がデジタル表示される。
そこには、無慈悲な文字が浮かんでいた。
【TARGET:Unknown(元:佐藤 〇〇)/ 生存確率:計測不能】
「……あ、ああ……」
小太郎の拳が、微かに震える。
救いたい。けれど、目の前の怪人は殺意を持って自分を殺そうとしている。
その時、道場の入り口に人影が立った。
「……甘いな。情けをかけるだけ、そいつが惨めになるぞ」
隣のクラスの男、神野浩介だ。
彼の手には、小太郎たちのものとは違う、銀色に輝くデバイスが握られていた。




