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第25話:忘却の対価

――記憶消滅まで、あと24時間。

小太郎の胸に撃ち込まれた「青いマブイ球」が、ネクサスの洗脳プログラムと真っ向から衝突し、漆黒の装甲が激しく明滅する。

「が、あああああ!!」

暴走する黒い稲妻が、調整室の壁を、床を、そして必死に彼を支える駒とりんを焼き払う。

小太郎の脳内では、兄・祐史郎の温かい記憶と、ネクサスの冷徹な命令が混ざり合い、臨界点を超えようとしていた。

「このままじゃ……小太郎くんの脳が焼き切れちゃう……!」

「……やるしかない。小太郎、聞こえるか! その暴走するエネルギーを、逆にネクサスのメインサーバーへ逆流させろ! お前の『怒り』を、奴らのシステムを焼き尽くす弾丸にするんだ!」

駒が血を吐きながら叫ぶ。

小太郎の意識が、一瞬だけ、かつての「レッド」へと戻った。

彼は震える手で、自分の胸のコアを強く叩いた。

「……やってやる。……俺の全部を、燃料にしてでも!!」

小太郎から放たれた青と黒の閃光が、調整室を包み込む。

その光は、ネクサスの張り巡らした電脳の海を遡り、無数の記憶データを、冷酷な管理システムを、内側から破壊していく。

――だが、システムを破壊するには「器」が足りなかった。

ネクサスの膨大な悪意を相殺するには、同等の「重さ」を持つ何かが犠牲にならなければならない。

「……あ」

りんが、不意に声を漏らした。

彼女の脳内から、小太郎と放課後に笑い合った日々が、砂のように零れ落ちていく。

駒の演算能力が、最悪の結論を導き出す。

(……そうか。奴らのサーバーを物理的に破壊する代わりに、私たちの脳が『バックアップ用ハードディスク』として身代わりに焼かれているのか……!)

「小太郎……逃げ……」

駒の言葉が途切れる。

大爆発と共にネクサスの拠点が揺らぎ、サーバーの沈黙と共に、小太郎を縛っていた呪縛は解けた。

しかし、その光が収まった時、床に倒れ込んだ駒とりんの瞳には、何の光も宿っていなかった。

小太郎は、元に戻った赤いスーツを纏い、二人を抱きかかえる。

「……駒先輩? りん? ……おい、嘘だろ? ネクサスは壊したんだ、俺、思い出したんだよ! 兄貴のことも、みんなのことも!」

小太郎の問いかけに、二人は空虚な表情で首を傾げた。

「……えっと……あなたは、……誰、ですか?」

世界を救うために放った一撃が、皮肉にも、小太郎が最も守りたかった「自分を愛してくれる人々の記憶」を焼き尽くしてしまった。

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