第23話:落日の残響
機械恐竜の背に揺られ、祐史郎はネクサスの監視が届かない廃工場の屋上にいた。
沈みゆく夕日が、彼の装甲と同じメタリックオレンジに世界を染めている。
「……また、少し『色』が薄くなったな」
祐史郎が自分の手を見つめると、指先がかすかに透け、ノイズのように揺れていた。
ネクサスから供給される擬似生命エネルギー――その「マブイ」の残量が限界に近い。彼は震える手で『マブイの短剣』を引き抜き、その冷たい金属の感触に縋った。
15年前。暗く湿った落盤の底。
幼い小太郎の泣き声と、自分の体の上にある巨大な岩の重み。
意識が遠のく中、祐史郎が最後に願ったのは「弟だけは助けてくれ」という純粋な祈りだった。
だが、その祈りに応えたのは神ではなく、闇の中から現れた阿久津だった。
『君のマブイを私に預けなさい。そうすれば、弟は光の中へ帰してあげよう』
その契約の結果、小太郎は救われ、祐史郎は「ネクサスの実験体」として冷凍保存された。
死ぬことさえ許されず、魂を細切れにされ、人造守護獣を動かすための「電池」へと作り替えられた歳月。
「……小太郎。お前は俺の光だった。だが、今の俺にはお前を焼く熱しか残っていない」
祐史郎が短剣の穴に指を這わせる。
そこには、駒たちに見せたものとは別の、透き通った小さな青い球が隠されていた。
それは、彼がネクサスに奪われまいと、15年間、魂の奥底に隠し通してきた**「小太郎と過ごした本当の記憶」**の欠片だった。
「駒たちから『鍵』を奪い、システムの全てを掌握する。……そして、この世界も、ネクサスも、……俺のこの腐ったマブイもろとも、全てを無に還す」
祐史郎が短剣を吹く。
奏でられるメロディは、阿久津に命じられた殺戮の旋律ではなく、幼い頃に小太郎に聴かせてやった下手くそな鼻歌のメロディだった。
「それだけが、俺がお前にしてやれる最後の……兄貴としての『仕事』だ」
夕日が沈み、暗闇が彼を包み込む。
その横顔は、復讐者でも英雄でもなく、ただ一人の「絶望した兄」の顔だった。




