第22話:亡者の取引
召喚された機械恐竜の咆哮が止み、周囲には焦げた匂いと沈黙だけが残った。
オレンジの装甲が粒子となって消え、その中から現れたのは、小太郎によく似た面影を持ちながらも、瞳に深い闇を湛えた男――赤間祐史郎だった。
「小太郎の、お兄さん……? でも、15年前の事故で死んだはずじゃ……」
りんが震える声で呟く。
祐史郎は無造作に、短剣の穴から空になったマブイ球を抜き取り、地面に捨てた。
「死んださ。だが、ネクサスが俺のマブイ(魂)を拾い上げ、この器(肉体)に戻した。……今の俺は、奴らの供給がなければ数時間も持たない『生ける死体』だ」
駒が鋭い視線で問い詰める。
「……その貴方が、なぜ私たちの前に姿を現した。小太郎を奪っただけでは飽き足らないというのか」
「取引だ、黒田駒。お前のその『演算能力』なら、すぐに理解できるはずだ」
祐史郎は懐から、もう一つの真っ黒なマブイ球を取り出し、指先で弄んだ。
「小太郎の記憶は、今ネクサスのサーバー内で『再構成』されている。あと48時間もすれば、あいつは自分の名前すら、兄である俺の存在すら忘れ、ただの完璧な殺戮人形……『ブラック・レッド』として完成する」
「なっ……!」
「あいつを助けたいなら、ネクサス・コアのセキュリティを解除する『暗号鍵』を俺に渡せ。校長が死ぬ間際、お前のデバイスに託したはずの、組織の根幹データだ」
「……それを渡せば、小太郎くんを返してくれるの?」
すがりつくようなりんの問いに、祐史郎は残酷な笑みを浮かべた。
「さあな。だが、渡さなければ小太郎は完全に『死ぬ』。……実の兄を信じるか、それとも正義を貫いて弟を見捨てるか。……選べ、英雄志望の子供たち」
祐史郎が短剣を吹くと、再び機械恐竜が影の中から現れ、彼を背中に乗せて闇へと消えていった。
残された駒とりんは、雨の降る中で立ち尽くす。
校長が遺した「最後の希望」を差し出して、記憶を失った友を救うべきか。
それとも……。




