第16話:絶望の虹、降臨
――記憶消滅まで、あと140時間。
「麻衣……麻衣を連れ去っただと……!?」
小太郎の絶叫が、破壊されたキャッスル・ラボに響き渡る。
怒り、絶望、そして自己への無力感。あらゆる感情が、小太郎の内部で臨界点を超えていた。
小太郎の装着したデバイスから、赤いノイズが不気味に噴き出し始める。
「赤間くん! 落ち着け! そのままではスーツが暴走するぞ!」
駒が叫ぶが、小太郎の耳には届かない。
「阿久津……ネクサス……俺は絶対に、絶対に許さねぇぇぇ!!」
小太郎の赤い装甲が、黒い亀裂と赤い稲妻で覆われていく。
それは、城ヶ崎校長が言っていた**「真の機能」の暴走**だった。
「小太郎くん! やめて! このままだと、小太郎くんが自分を壊しちゃう!」
りんが必死に小太郎に手を伸ばすが、黒いオーラを放つ小太郎は、もはや彼女の呼びかけに反応しない。
その時。
ラボの奥、破壊されたモニターの向こうから、冷たい光が差し込んできた。
そこに立っていたのは、真新しい、しかしどこか禍々しい漆黒のレッドスーツを纏った人物だった。
そのバイザーの奥の瞳には、かつて小太郎が知っていた麻衣の優しさも、城ヶ崎校長の娘としての気丈さも、一切宿っていなかった。
冷酷なまでの無機質さ。それはまるで、かつて「佐藤のコピー」を操っていた阿久津の瞳を彷彿とさせた。
「……赤間、小太郎」
合成された電子音声が響き渡る。
それは、確かに麻衣の声だった。しかし、感情のない機械的な響きに、りんの呼吸が止まる。
「『記憶』の最適化、完了。ネクサス、プロトコル『イヴ』……起動」
麻衣の右腕から、漆黒のプラズマブレードが形成される。その刃は、小太郎の暴走する力を、まるで嘲笑うかのように、静かに、だが圧倒的な威圧感を放っていた。
「……まさか。麻衣さんが……本当に、ネクサスの……!?」
駒の言葉が、震えて途切れる。
暴走しかけている小太郎の視線が、目の前の「敵」に固定される。
親友を、先生を、そして守ろうとした校長を失い、さらに「守るべき対象」が、自分を殺しに来た。
これ以上の絶望があるだろうか。
「……ッ、麻衣……なのか……!?」
小太郎の脳内で、麻衣と初めて出会った日の、優しい笑顔がフラッシュバックする。しかし、それが、怒りのノイズによって掻き消されそうになる。
「……対象:赤間小太郎。ネクサスへの敵対行動を確認。……排除します」
漆黒のレッドスーツを纏った麻衣が、一歩、小太郎へと踏み出した。




