第14話:緊急プロトコル
――記憶消滅まで、あと142時間。
「阿久津……貴様が……!」
駒の怒号が響く。しかし、阿久津が操る「佐藤のコピー」が放つ正拳突きが、駒の頬をかすめ、校舎の壁を粉砕した。
「逃げるぞ、二人とも! ここで戦うのは敵の思うツボだ!」
駒は叫び、小太郎とりんの腕を掴んで、ノイズの渦巻く廊下を激走した。背後からは阿久津の冷ややかな笑い声が追いかけてくる。
「無駄ですよ、黒田くん。君たちの脳は、変身の負荷に耐えきれず、戦うたびにその知性を、思い出を、私に差し出すことになる……!」
三人は階段を駆け下り、科学準備室へと滑り込んだ。駒は即座にドアをロックし、自身のデバイスを部室のメインサーバーに直結させる。
「駒先輩、何をする気だ!?」
「……『緊急プロトコル:記憶の凍結』だ。私たちの脳にある重要な記憶を、一時的にこのデバイスの外部ストレージに退避させる。……成功すれば、戦いによる記憶の揮発を最小限に抑えられるはずだ」
駒の指が、キーボードの上を猛烈な速さで踊る。しかし、モニターには無数のエラー警告が赤く点滅していた。
「……くっ、阿久津のハッキングだ! 奴はネクサスの権限を使って、学園の全システムを掌握している……!」
廊下から、ズシン、ズシンと「佐藤のコピー」が近づいてくる足音が響く。
小太郎はドアを背に、デバイスを構えた。
「駒先輩、時間は!?」
「あと120秒……。だが、通信帯域が足りない! 誰かが外から、ノイズの干渉を抑え込まないと……!」
「――なら、あたしが行く」
立ち上がったのは、りんだった。その瞳には、親友を失った悲しみを超えた、静かな決意が宿っていた。
「あたしが外でアイツを食い止める。……駒先輩、あたしの思い出、ちゃんと預かっててね。……小太郎くんと出会った日のことも、全部!」
「桐崎さん!」
りんがドアを開け、眩い光の中に飛び出していく。
「変身ッ!!」
廊下で炸裂するイエローの閃光。駒は歯を食いしばり、涙を堪えて、流出していくデータのプログレスバーを見つめた。
「……すまない、桐崎さん。……必ず、守ってみせる……!」




