第12話:残火のカウントダウン
放課後。科学部の部室で、駒は一人、異常な速度でキーボードを叩いていた。
モニターには、前回の戦いで傍受したネクサスの暗号データが、複雑な数式と共に展開されている。
「……やはり、そうか。計算が……合ってしまう」
駒の呟きは、乾いた風のように虚しかった。
そこへ、小太郎とりんが、少しでも元気を出そうとジュースを買い込んで戻ってくる。
「駒先輩、根詰めるなって。ほら、これ――」
「赤間くん。……桐崎さん。座ってくれ」
駒の尋常ではない雰囲気に、二人の手が止まる。
駒はモニターを指し示した。そこには、三人のスーツのエネルギー残量ではなく、**「脳の記憶領域の残存グラフ」**が表示されていた。
「ネクサスから傍受した通信によれば、奴らは私たちの記憶を『リソース』と呼んでいる。そして……」
駒は一つの数値を表示させた。
それは、秒単位で減り続けている不気味なデジタル時計だった。
「リミッターを外した私たちの脳は、変身していない時でも、熱を持った回路のように記憶を揮発させ続けている。今の戦闘頻度で計算すれば……」
駒が言葉を詰まらせる。冷静なはずの彼の指が、小さく震えていた。
「あと168時間。……一週間だ。一週間後には、私たちの脳は完全に『空白』になる。……自分たちが誰なのか、言葉すら、思い出せなくなるだろう」
「一週間……? 嘘だろ、そんなの……!」
小太郎がデスクを叩く。
「短すぎるよ……。まだ、言いたいことも、やってないこともたくさんあるのに……!」
りんが溢れそうになる涙を堪え、ヘアピンを握りしめる。
「助かる方法は、ないの?」
「……ネクサスのメインサーバーにある、私たちの『記憶データ』を強引に脳へ書き戻す(ロールバック)しかない。だが、それは奴らの本拠地を叩き潰すことを意味する。……この、残された一週間でだ」
その時、部室のスピーカーから、校内放送のチャイムが鳴り響いた。
それはいつも通りの、のどかな下校の合図。
だが、今の三人にとっては、自分たちの存在が消えるまでの「秒読み」にしか聞こえなかった。
部室のドアに寄りかかり、会話を盗み聞いていた神野浩介が、独り言のように吐き捨てる。
「一週間か。……思ったより、長く持った方だな」
その冷たい言葉の裏に、神野自身のデバイスが発する、かすかな「熱」を小太郎たちはまだ知らない
(第0章:プロローグ完結)




