第11話:砂の城の放課後
戦いが終わったあとの学園は、夕焼けに染まって気味が悪いほど静かだった。
小太郎、駒、りんの3人は、保健室のベッドの端に腰掛け、自分たちの手を見つめていた。
「……ねえ。私、さっき一瞬だけ、美咲の苗字が思い出せなかった」
りんが、消え入りそうな声で呟く。
駒は窓の外を見つめたまま、眼鏡を指で押し上げた。
「……私もだ。渡辺先輩の、得意な囲い方が何だったか、どうしても霧がかかったようになっている。……『英雄』になるということは、こうして自分という人間を削り取っていくことだったんだな」
重苦しい沈黙。それを破ったのは、ドアを勢いよく開けて入ってきた麻衣だった。
「みんな! ……これを、見て」
麻衣が持ってきたのは、父・城ヶ崎校長の古い手帳だった。
そこには、15年前の事故の調査記録とともに、ネクサスの協力者と思われる**「学園関係者」**のリストが記されていた。だが、肝心な名前の部分は、何者かによって黒く塗りつぶされている。
「お父さんは、ずっと前から分かってたんだと思う。学園の中に、ネクサスに魂を売った人間がいるって。……佐藤くんや美咲さんが選ばれたのも、偶然じゃない」
「……誰なんだよ。誰が、こんなふざけた真似を!」
小太郎が立ち上がろうとした時、背後の窓枠に、銀色の影が降り立った。
神野浩介だ。彼は窓を蹴って室内に入ると、麻衣の手元にある手帳を一瞥して鼻で笑った。
「無駄だよ。そのリストの主は、もう次のフェーズに移っている。……赤間、お前たちの記憶が消え始めたのは、単なるスーツの負荷じゃない」
「何だと……?」
「ネクサスは、お前たちが失った『記憶』をデータとして回収しているんだ。消えた思い出は、奴らの人造怪人を動かすための『OS』に書き換えられている」
神野の言葉に、3人の顔が凍りつく。
自分たちが戦って、友人を忘れれば忘れるほど、敵はより強く、より「自分たちの知る友人」に近い動きをするようになる。
「……皮肉なもんだな。お前たちが守ろうと足掻くほど、この学園は『地獄の揺りかご』に変わっていく」
神野はそれだけ言い残し、銀色のデバイスを掌で転がしながら立ち去ろうとする。
「待って、神野くん!」
麻衣が呼び止める。
「……あなたはどうして、そこまで平気でいられるの? あなただって、失ってるんでしょ!? 大切な何かを!」
神野は足を止め、振り返らずに答えた。
「……俺には、もう忘れるような『過去』も『仲間』もない。それだけだ」
その背中は、夕闇に溶けて、誰よりも孤独に見えた




