第10話:盤上の逆転
学園の屋上に、異質な「静寂」が立ち込める。
駒の前に立っていたのは、将棋部の部長であり、彼が一度も勝てなかった先輩・**渡辺(仮)**だった。
だが、今の渡辺に温厚な面影はない。全身から漆黒の霧を噴き出し、その指先は鋭い爪へと変貌している。
「駒……。お前の『次の一手』は、もう見えているぞ」
渡辺(怪人)が地を蹴る。その動きは、駒が知る渡辺の「詰め将棋」のように正確で、一切の無駄がない。
「……くっ、変身ッ!」
駒はライブ変身を完了させ、ブラックの装甲を纏う。
だが、校長から言われた言葉が脳裏をよぎる。――『戦えば、記憶が消える』。
(忘れるものか。この人と指した、あの放課後の時間は……僕のすべてだ!)
駒は、デジタルな将棋盤を展開し、敵の動きを演算する。しかし、渡辺(怪人)はその演算の先を行く。
「甘いぞ、駒! 守りに入れば、そこが終着点だ!」
漆黒の爪が、ブラックの胸部装甲を深く切り裂く。
「駒先輩!!」
駆けつけようとする小太郎とりん。だが、そこにネクサスの戦闘員が立ちふさがる。
「来るな! こいつは、私が……私が決着をつけなきゃいけないんだ!」
駒は叫び、スーツのリミッター解除レバーに手をかけた。
カチリ、と音が響く。
瞬間、駒の脳内を凄まじい電気信号が駆け巡った。
(あ……れ……。中学生の時、……私に将棋を教えてくれたのは……誰だっけ……?)
大切な記憶が、一つ、また一つと砂のように零れ落ちていく。その喪失と引き換えに、ブラックの装甲に「過負荷」の青い稲妻が走り、演算速度が神の領域へと加速する。
「……見えた。これが、私の指す『詰み』だ」
駒は敵の懐に飛び込み、零距離で重力負荷を全開放した。
「……王手」
漆黒の衝撃が渡辺(怪人)を貫く。
消滅の光の中で、渡辺は一瞬だけ元の姿に戻り、満足そうに微笑んだ。
「……強くなったな、……黒田……」
光が消えた後、駒は膝をつき、激しく喘いだ。
「駒先輩! 大丈夫ですか!?」
駆け寄る小太郎。だが、駒は小太郎の顔を見て、一瞬だけ**「困惑」**の表情を浮かべた。
「……あぁ、……。大丈夫だ。……ただ、少し……さっきまで何を話していたか、思い出せなくてね……」
駒の瞳からは、以前のような鋭い知性の光が、ほんの少しだけ失われていた。




