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『恋の呪文とAI分析で異世界攻略してみた 〜ソースは数万冊のラノベですけど何か?〜』  作者: sora_op


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3/12

第3話「AIのソースが10年古い」

異世界生活3日目。


私は城の食堂で、とんでもない話を聞かされていた。


「――というわけで、マコ殿には魔王討伐パーティーに加わってほしい」


レオンハルトが真剣な顔で言った。


いや、この人いつも真剣な顔だけど。


特に私を見る時は、真剣を通り越して暑苦しい。


「……え、私が?」


「そうだ。お前の力があれば、魔王軍の幹部すら味方につけられるかもしれない」


「いやいやいや、私ただの女子高生ですよ?」


「じょしこうせい?」


「学生です。勉強する人。戦ったことなんてない」


「問題ない。戦うのは我々だ。お前は後方で、あの不思議な呪文を使ってくれればいい」


オストキメトキス。


確かに、あれを使えば敵を味方にできる。


でも。


――スッ。


1話で騎士団長に使った時の、あの感覚を思い出す。

胸の奥から何かが抜けていく、あの感覚。


「……考えさせてください」


「もちろんだ。急かすつもりはない」


レオンハルトは頷いた。


そして、また暑苦しい目で私を見た。


「だが、一つだけ言わせてくれ」


「はい」


「お前と一緒に戦えるなら、私は死んでも悔いはない」


「重い!!」


『マコ様、レオンハルト様の好感度、本日も絶好調です』


「誰も聞いてない!!」


食堂を出ると、廊下で一人の女性とすれ違った。


長い金髪。鋭い目つき。騎士の鎧を身にまとい、腰には剣を帯びている。


美人だ。めちゃくちゃ美人だ。


でも、なんか怖い。


「……ふんっ」


女騎士は私を一瞥すると、鼻を鳴らして通り過ぎた。


「え、今の何」


『検索完了。あれはエレナ・フォン・シュヴァルツ。騎士団の副団長であり、レオンハルト様の右腕です』


「副団長……」


『そして、レオンハルト様に密かに想いを寄せているという噂があります』


「あー……」


なるほど。


つまり私は、恋敵だと思われてるわけだ。


いや、恋敵も何も、私はレオンハルトに興味ないんだけど。


『マコ様、これは典型的な「最初は敵対的だが後に仲間になるヒロイン」パターンです』


「は?」


『ソースは『灼眼●シャナ』『ゼロ●使い魔』『と●ドラ!』他、多数。ツンデレキャラの67.3%は最終的に主人公と和解し、強い絆で結ばれます』


「いや私、女の子なんだけど?」


『百合ルートの可能性も統計的には12.8%存在します!』


「もうっ!ないから!!」


キューピクルの言うことは、本当にアテにならない。


その日の午後。


私は城の訓練場に呼び出された。


そこには、レオンハルトと、さっきの女騎士エレナがいた。


「マコ殿、紹介しよう。エレナ・フォン・シュヴァルツ。我が騎士団の副団長であり、最も信頼できる部下だ」


「……ふんっ」


エレナは腕を組んで、私を睨みつけている。


怖い。


普通に怖い…。


「エレナ、そう睨むな。マコ殿は大切な客人だ」


「団長。失礼ですが、この小娘が魔王討伐の役に立つとは思えません」


「小娘……」


「見たところ、剣も持てなさそうですし、魔法の才能があるようにも見えない。足手まといになるだけでは?」


正論だった。


ぐうの音も出ない正論だった。

というか、足手まといにしかならないよね。


「エレナ、彼女には特別な力がある。それを見てから判断しても遅くはないだろう」


「……ならば、見せていただきましょう」


エレナが一歩、前に出た。


「私を、その『特別な力』とやらで倒してみせなさい」


「えっ!?」


「できないなら、パーティーには入れない。当然でしょう?」


挑発的な目。


完全に私をナメている…。


『マコ様、ここは「オストキメトキス」の出番です』


「いや、でも……」


『エレナ様を味方につければ、魔王討伐パーティーへの参加が認められます。ここは攻略すべきです』


攻略…か…


オス…なんだがメスにも効果あるんだろうか?


しかも、


また、あの感覚を味わうのか。


胸の奥から何かが抜けていく、あの、


「どうした。できないのか?」


エレナが剣を抜いた。


やばい。本気だ。


「ちょ、待って待って!」


「待たない。実戦で敵が待ってくれるとでも?」


エレナが踏み込んできた。


剣が閃く。


反射的に、私は叫んでいた。


「オストキメトキス!!」


ピンク色の光がエレナを包む。


「なっ……!」


エレナの動きが止まった。


剣を取り落とす。


そして、その頬が、みるみるうちに紅く染まっていく。


「こ、これは……何……」


「あ、あの、大丈夫ですか……?」


「な、なぜ……あなたを見ていると、胸が……」


エレナが膝をついた。


さっきまでの鋭い目つきが、とろんと溶けている。


「う、嘘でしょ……私は、女で……あなたも、女で……」


「いや、だから私も困ってるんですけど」


「でも……この気持ちは……嘘ではない」


エレナが私の手を取った。


「あなたの手、温かい……」


「ひぃっ!?」


『おめでとうございます、マコ様! 百合ルート突入です!』


「だから、突入してない!!」


レオンハルトが呆然としている。


「エ、エレナ……? お前、まさか……」


「団長、申し訳ありません。私、この方に……」


「待て。待ってくれ。私はどうなる」


「知りません」


「エレナァァァァ!!」


カオスだった。


また、カオスだった。


いつもカオスか…私のせいじゃん。


なんとか場を収めた後。


私は訓練場の隅で座り込んでいた。


「……はぁ」


エレナは今、レオンハルトに「あの少女の力は本物です。パーティーに入れるべきです」と熱弁している。


さっきまで「小娘」呼ばわりしてたのに。


呪文の力って、すごい。


すごい、けど。


「……なんだろ、この感じ」


また、あの感覚だった。


胸の奥から、何かが抜けていく。


炭酸が抜けたサイダーみたいに。


カルピスを薄めすぎた時みたいに。


笑おうとしたのに、頬が動かなかった。


達成感が、ない。


エレナを味方につけた。


魔王討伐パーティーへの参加が認められた。


普通なら、嬉しいはずだ。


やった! って思うはずだ。


でも。


「……なんで、何も感じないんだろ」


『マコ様?』


キューピクルが心配そうに覗き込んできた。


「……ねえ、キューピクル」


『はい』


「この呪文、副作用とかないの?」


キューピクルが、一瞬フリーズした。


『……副作用、ですか?』


「うん。なんか、使うたびに……変な感じがするんだけど」


『検索中……検索中……』


キューピクルのメガネがチカチカ光っている。


『申し訳ありません。該当するデータが見つかりません』


「見つからない?」


『はい。私のデータベースは、あくまで過去のラノベや漫画がソースです。「オストキメトキス」という呪文は、私のデータには存在しません』


「じゃあ、何もわからないってこと?」


『……はい』


キューピクルがしょんぼりした。


もう何回目だろう、このしょんぼり。


「……役に立たないなぁ まったく…」


『申し訳ありません……』


「いや、責めてるわけじゃないけど」


私は、大きくため息をついた。


「ねえ、キューピクル?」


『はい』


「そのデータベース、いつの時代のラノベが入ってるの」


『えーと……2004年から2014年頃の作品が中心です』


「10年以上前じゃん!!」


『はい。ネットに繋がっていないので、学習データの更新ができておらず……』


「道理で…ソースが古くない?とは思ったけ


ど…」


『ゼロ●使い魔』。『と●る魔術の禁書目録』。『灼眼●シャナ』。


確かに名作だ。


名作だけど、全部2000年代後半から2010年代前半の作品だ。


「最近の作品は入ってないの?」


『「最近」とは、いつ頃でしょうか』


「えーと、『転スラ』とか『無●転生』とか」


『検索中……該当データなし』


「『このすば』は?」


『該当データなし』


「『リゼロ』は?」


『該当データなし』


「嘘、全部ないの!?」


『申し訳ありません……』


キューピクルが涙目になった。ホログラムなのに。


「じゃあ、今のなろう系のテンプレ、全然わかんないってこと?」


『……はい。私の知識は、いわば「古典」に偏っております』


「古典……」


つまり、このAIは。


最新のトレンドを全く知らない、時代遅れのアドバイザーってことだ。


「……まあいいや。ないものねだりしても仕方ないし」


『マコ様……』


「でも、統計データを自信満々に言うのはやめてね。当たらないから」


『……善処します』


善処。


それ、やらないフラグだよね。


その夜。


私は再び、部屋のベッドで天井を見つめていた。


「翔くん……」


翔くんのことを思い出そうとする。


……思い出せる。


まだ、思い出せる。


でも。


「あれ……」


翔くんの声が、思い出せない。


どんな声だったっけ。


高かったっけ、低かったっけ。


優しい声だったのは覚えてる。

でも、具体的な「音」が、頭の中で再生できない。


音のない世界に、私だけが取り残されたみたいだった。


「……気のせい、だよね」


3回目だ。


「気のせい」で片付けるの、もう3回目だ。


『マコ様、お休みですか?』


「……ねえ、キューピクル」


『はい』


「私、おかしくなってるのかな」


『と,言いますと?』


「なんか……感情が薄くなってる気がする。嬉しいことがあっても嬉しくないし、悲しいことがあっても悲しくない」


『……』


「翔くんのことも……好きだったはずなのに、だんだん薄れていく気がして」


キューピクルは黙っていた。


珍しく、統計データを持ち出してこない。


「……なんで黙ってるの」


『……申し訳ありません。私には、何と言えばいいかわかりません』


「わからない?」


『はい。これは……私のデータベースにない現象です。でも、マコ様が苦しんでいるのはわかります』


「……」


『私は、マコ様を助けたいです。でも、どうすればいいかわからない。それが……とても、もどかしいです』


キューピクルが、本当に辛そうな顔をしていた。


ホログラムなのに。


AIなのに。


「……ありがとう」


『え?』


「わからないって、正直に言ってくれて。嘘の統計データ出されるより、ずっといい」


『マコ様……』


私は目を閉じた。


「……明日から、魔王討伐パーティーだね」


『はい。メンバーはレオンハルト様、エレナ様、そしてマコ様の3名です』


「少ないね」


『追加メンバーを募集中とのことです。道中で増える可能性が高いかと』


「そっか」


魔王討伐。


正直、実感がない。


怖いとも、楽しみだとも思わない。


ただ、何も感じない。


それが、一番怖いことなのかもしれない。


第3話「AIのソースが10年古い」


――了――


次回「人間味:残り78%」


---


# キューピクルの異世界データベース


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


## 〖今日の豆知識〗


「小説家になろう」における


「異世界転移」と「異世界転生」の投稿数。


実は、転生が転移を上回ったのは2020年のこと。


それまではずっと「転移」が多かった。


『転スラ』『無●転生』など


転生系の大ヒット作が多いイメージだが、


ジャンルとしての逆転は意外と最近なのだ。


## 〖補足〗


キューピクルのデータベースは2014年頃で止まっているため、


この逆転現象を知らない。


だから「異世界転移」のテンプレばかり参照してしまう。


## 〖キューピクルの統計の信頼度〗


★☆☆☆☆(今回、正直に「わからない」と言えたので+0.5)


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次回もお楽しみに♪

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