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『恋の呪文とAI分析で異世界攻略してみた 〜ソースは数万冊のラノベですけど何か?〜』  作者: sora_op


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2/12

第2話「騎士団長の愛が重すぎる件」

異世界に来て、まだ半日も経ってない。


私は馬車に揺られていた。


隣には、さっき呪文で オト とした騎士団長。


「ああ、マコ殿……」


「は、はい…」


「その瞳は、夜空に浮かぶ二つの月のようだ……」


「あ、ありがとうございます……?」


「その髪は、黄金の麦畑を渡る風のようだ……」


「いや私、黒髪なんですけど」


「黒髪の黄金だ」


「意味わかんない」


騎士団長の名は、レオンハルト。


この国の騎士団を束ねる、いわゆる「偉い人」らしい。(わりとよく聞く名前)


年齢は20代後半くらい。彫りの深い顔立ちに、鍛え抜かれた体躯。金色の髪をオールバックにまとめ、碧い瞳が印象的な――まあ、客観的に見ればイケメンだ。


イケメンなんだけど。


「マコ殿、手を」


「え」


「手を握らせてほしい」


「いやちょっと」


「頼む。そうしないと、私は息ができない」


「大げさすぎる!!」


『マコ様、騎士団長の好感度は現在もMAXを維持しています。素晴らしい攻略状況です』


キューピクルが私の肩の上でホログラムのグラフを表示している。


「ねえキューピクル」


『はい?』


「これ、いつまで続くの…」


『効果時間は対象の精神力に依存します。レオンハルト様の場合、推定……72時間から1週間程度かと』


「長い!!」


『ご安心ください。統計データによると、好感度MAXの状態が72時間以上継続した場合、43.2%の確率で「本当の恋」に発展します』


「いや発展しなくていい!!」


そもそも私には翔くんがいるのだ。


……いや、「いる」っていうか、一方的に片思いしてるだけなんだけど…さ。


「マコ殿」


レオンハルトが真剣な顔で私を見つめてきた。


「私は、これまで恋というものを知らなかった」


「はあ」


「剣に生き、国に仕え、それだけが私の人生だった」


「なるほど」


「だが、そなたに出会って変わった。胸が熱い。頭がぼんやりする。そなたのことしか考えられない」


それ、呪文のせいだから。


100%呪文のせいだから…


「これが恋か……」


「違うと思う」


「いや、恋だ」


「いえ違う」


「恋だ」


「だから違うって」


『マコ様、ここは流れに身を任せることをお勧めします。ソースは『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪●令嬢に転生してしまった…』です。攻略対象との信頼関係構築は、序盤では非常に重要――』


「お前が恋愛語るな!」


『え!?』


「いや関係ないけど。なんか関係ないけど、ゴメン…」


キューピクルがメガネの奥でしょんぼりした。


ホログラムなのにしょんぼりできるんだ。


---


馬車が止まった。


外に出ると、目の前には巨大な城がそびえていた。


白い石造り。尖塔がいくつも天を突いている。旗がはためき、兵士たちが行き交っている。


「ここは……」


「ヴァルハイム城だ。この国の中心であり、私の職場でもある」


レオンハルトが誇らしげに言った。


『検索完了。ヴァルハイム、北欧神話の「ヴァルハラ」が語源と推定されます。なろう作品における城の命名パターンとして、北欧神話由来は全体の23.7%を占めており――』


「聞いてない」


『……はい』


城門をくぐり、長い廊下を歩く。


すれ違う人々が、私とレオンハルトを見てひそひそ話している。


「あれは……団長?」


「誰だあの娘は。ずいぶんと、変な格好をしておるが?」


「おおっ!団長が女性を連れているぞ。しかも手を繋ごうとしている」


「んっ、断られているぞ」


「3回断られたぞ」


「5回だ」


「いや、7回だ」


カウントするなっ!


---


通されたのは、豪華な客室だった。


天蓋付きのベッド。暖炉。窓からは城下町が一望できる。


「ここで休んでくれ。何か必要なものがあれば、すぐに持ってこさせる」


「あ、ありがとうございます……」


「礼には及ばない」


レオンハルトは、そこで一度言葉を切った。


「……マコ殿」


「はい」


「そなたは一体、何者なのだ」


その目から、恋の熱がすっと引いた。


騎士団長の目だった。


「あの草原に突然現れた。見たことのない衣服。見たことのない言葉遣い。そして――あの不思議な力」


呪文のことだ。


バレてる。当然か。目の前で使ったんだから。


「そなたは、何者だ」


どう答えればいい。


「異世界から来ました」なんて言って信じてもらえるのか。


『マコ様』


キューピクルが小声で囁く。


『ここは正直に話すことをお勧めします。統計データによると、異世界転移者が身分を隠した場合、67.8%の確率で後々バレて信頼を失います。逆に、最初から正直に話した場合、58.4%の確率で「面白い奴だ」と受け入れられます』


「その数字、信用していいの」


『……雰囲気です』


「やっぱり…」


でも、まあ。


隠し通せる気もしないし。


「……信じてもらえるかわかりませんけど」


私は深呼吸した。


「私は、別の世界から来ました。『異世界転移』っていうらしいです。元の世界で事故に遭って、気づいたらあの草原にいて。さっきの力は、『オストキメトキス』っていう呪文で……その、対象をときめかせる効果があるらしくて……」


レオンハルトは黙って聞いていた。


しばらくの沈黙。


「……つまり」


「はい」


「私がお前に感じているこの気持ちは」


「……呪文の、力、です」


言ってしまった。


レオンハルトの表情が、固まった。


「…………」


「あの、すみません、騙すつもりはなかったんですけど、あの状況で他に方法が思いつかなくて――」


「なるほど」


レオンハルトが、静かに言った。


「呪文の効果か」


「……はい」


「では、この胸の高鳴りも」


「……はい」


「お前を見ていると息ができなくなる感覚も」


「……ええ」


「全て、呪文のせいだと」


「……はい」


レオンハルトは、深く息を吐いた。


そして。


「だとしても」


「えっ!?」


「私はお前を守る」


「えええええ!!」


『おお、これは予想外の展開です。統計データでは、呪文効果だと判明した場合、87.3%の対象が「騙された!」と怒り出すパターンなのですが――』


「うるさいぞ、光る小人」


レオンハルトがキューピクルを睨んだ。


キューピクルがビクッとして私の後ろに隠れた。ホログラムのくせに。


「呪文だろうが何だろうが、この気持ちは本物だ。少なくとも今の私にとっては」


「いや、でも……」


「それに、お前は異世界から来たのだろう。右も左もわからぬこの世界で、一人で生きていけるのか」


「……」


「私が守る。私が導く。お前がこの世界に慣れるまで、いや、この世界を去る方法が見つかるまで」


レオンハルトは、まっすぐ私を見た。


「それが、お前に一目惚れした男の責任だ」


「いや一目惚れじゃなくて呪文……」


「一目惚れだ」


「だから呪文……」


「一目惚れだ!」


押し切られた。


『マコ様、レオンハルト様の好感度、MAX継続中です。むしろ上がっている気がします』


「MAXより上があるの!?」


『前例のない数値です。論文が書けます』


「書かなくていい!!」


---


その夜。


私は与えられた部屋のベッドに横たわっていた。


天蓋から垂れる薄いカーテン越しに、二つの月が見える。


「……異世界、か」


まだ実感がない。


朝は普通に学校に行って、翔くんに告白未遂して、猫を助けて――


「翔くん……」


ふと、翔くんの顔を思い出そうとした。


……あれ。


思い出せる。ちゃんと思い出せる。


サラサラの黒髪。優しい瞳。完璧な横顔。


でも、なんだろう。


朝見た時より、少しだけ。


輪郭がぼやけている気がする。


胸の奥の甘さが、炭酸みたいに抜けた気がした。


「……気のせい、だよね」


『マコ様、お休みですか?』


キューピクルが枕元に浮かんでいる。


「……ねえ、キューピクル」


『はい』


「私、元の世界に帰れるのかな」


『統計データによると、異世界転移者が元の世界に帰還できる確率は――』


「いい。やっぱ、聞きたくない」


『……はい』


沈黙が流れた。


「……ねえ」


『はい』


「明日から、どうすればいいと思う」


『そうですね……』


キューピクルが、珍しく真面目な顔で考え込んだ。


『まずは情報収集をお勧めします。この世界のことを知る必要があります。それから……』


「それから?」


『レオンハルト様から聞いた話によると、この国は現在「魔王」の脅威にさらされているそうです』


「魔王?」


『はい。統計データによると、異世界ファンタジーの93.7%に魔王または類似の存在が登場します。そして、転移者の64.2%が最終的に魔王討伐に関わることになります』


「……つまり」


『マコ様も、その流れに巻き込まれる可能性が高いかと』


魔王。


討伐。


いやいやいや。


私はただの女子高生だ。告白もできない、陰キャの。


「……無理でしょ」


『マコ様には「オストキメトキス」があります。敵対者を味方にできる、チート級の能力です。統計データによると、好感度操作系能力を持つ主人公の魔王討伐成功率は――』


「だからその統計、信用できないんでしょ」


『……はい』


キューピクルがしょんぼりした。


2回目だ。


「……まあいいや。明日考えよう」


『はい。おやすみなさい、マコ様』


「おやすみ」


目を閉じる。


異世界の夜は、不思議と静かだった。


虫の声。風の音。遠くで鳴く、名前も知らない鳥の声。


明日から、どうなるんだろう。


帰れるのかな、元の世界に。


翔くんに、会えるのかな。


考えているうちに、意識が遠のいていく。


――夢の中で、翔くんが笑っていた。


でも、その声は聞こえなかった。


---


翌朝。


「マコ殿! 朝食の用意ができた!」


ドアを蹴破る勢いでレオンハルトが入ってきた。


「一緒に食べよう!」


「お願いだから。ノックして!!」


異世界生活2日目。


波乱の予感しかしない。


---


第2話「騎士団長の愛が重すぎる件」


――了――

次回「AIのソースが10年古い」


---


# キューピクルの異世界データベース


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## 〖今日の豆知識〗


「小説家になろう」の総作品数は約124万作品。


そのうち「異世界転生」「異世界転移」タグの作品は


推定30万作品以上と言われている。


つまりキューピクルが「数万作品を分析」と言っても、


全体の10分の1以下しかカバーできていない。


道理で統計が当てにならないわけだ。


## 〖補足〗


「魔王討伐」がストーリーに含まれる作品は非常に多いが、


近年は「スローライフ」「日常系」も人気急上昇中。


マコがどちらのルートに進むかは……お楽しみに。


## 〖キューピクルの統計の信頼度〗


★★☆☆☆(相変わらず)


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次回もお楽しみに♪

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