欲しがり義妹に金貨をあげた話
「メアリー・・・欲しがらないの?」
「はあ!欲しーの!欲しーの!お義姉様、ドレスちょうだいなの~」
「・・・メアリー、これは婚約者から送られたドレスだからあげられないわ」
「し、仕方ないの~、でも、欲しかったの~!メアリー、用事が出来たのでバイバイなの~」
私の義妹がおかしくなりました。欲しがりをしなくなったのです。
ええ、熱病に7日間うなされてから様子がおかしくなりましたわ。
あ、スメル様、顔合わせはまだでしたわね。
お父様がどこからつれて来た子です。最近養子になりましたわ。お父様は真面目で愛人はおりませんわ。お母様も何も言いません。
「ナターシア、それは、良い子になったのではないかな?」
「そうかもしれません。だけど・・・・」
前は、私の物何でも欲しがったのに。
まあ、その時私もお姉さんになったのかなと思っていたのでご褒美をあげました。
金貨一枚です。
「これでドレスでも買ってね。ケリーと相談するのよ」
「はいなの~、有難うなの~!」
ええ、ここまではおかしくありません。
それから、お友達が来て、お人形遊びを始めました。
おかしさに気がつきました。
「緊急動議なの~!商会長の解任を要求しますなの~!賛成するお友達は挙手をお願いしますなの~!」
「・・・はい、ですわ」
「はいなのです!」
「全員賛成なので、悪辣商会長は解任なの~!」
「まあ、解任されましたわ。ギャフン!」
子守メイドのケリーが商会長役で何か不穏な劇をしていましたの。
あれは王宮役人の子ロゼッタちゃん。公爵令嬢のイザベル様がいましたわ。
ですから、ケリーに問いただしました。
「ケリー、お人形遊び、不穏じゃない?」
「そうですか?大人になりたい年頃じゃないですか?」
「ケリー、そのネックレス・・・」
ケリーが使用人では買えないネックレスをつけていました。
「アハハハ、やだな~。お嬢様、投資で儲けていませんわ。露天商から買いまして・・・た。アハハハ、あ、そうだわ。奥様に呼ばれていました」
・・・怪しい。
・・・・・・・・・・・・
「・・・とこのようなことがありました。スメル様、メアリー大丈夫でしょうか?」
今日、婚約者のスメル様に喫茶店でメアリーのことを相談したわ。
私より3歳年上、21歳なのに商会長、熱心に領地経営を学んでくれる真面目な方だわ。
「ククククッ」
いきなり立ち上がって笑い出したわ。私、何か粗相をしたかしら。
「君の話は退屈だ。家族や領地のことばかり。しかも自分の心配はしないのだな」
え、何、どうしたのかしら。
「婚約は破棄だ」
「な、何故でございますか?!」
「子爵家の君でも婚約を結んであげたのは領地の織物だ。あの文様の作り方さえ分かれば君は用済みだ」
「そ、そんな!」
「君の領地の物産を我が商会の販売網で売る。政略結婚だ。愛故ではない。
つまり商売だ。商売は戦争だ。だまし合いもその一つだ。侯爵令嬢との縁談の話が来ているのだ」
「わ、私は愛を育もうと一生懸命に頑張りましたわ」
「『頑張りましたわ』って、社会は努力じゃなくて結果をみるのだよ」
そう言って、スメル様は、
「慰謝料はこのお茶代だ。会計だけはしておいてあげる。裁判しても良いよ。こっちには優秀な代理人と侯爵家がついている。じゃあ、さようなら勘違い貧乏子爵令嬢様」
「待って下さいませ!」
大変だわ。私は頭の整理が追いつかない。さっきまで紳士だったのに。
私は呆然と閉店まで立ち尽くしていましたわ。
「お客様・・・閉店でございます」
涙が自然と頬を伝わっていたわ。
☆スメル視点
王都の一等地にある我が商会に帰ったら、商会長室に幼女達がいた・・・3人だ。
「誰だ!・・・何故幼女がいる。そこは俺の席だ。どけ!」
「遅いの~、メアリーちゃんなの~」
「イザベルでございます」
「ロゼッタなのです」
ひときわフワフワな金髪でアイスブルーの幼女が商会長の席に座り。他の幼女は脇の机に座っている。
幼女に気を取られたが大人が3人いる。保護者か?いや、侯爵もいる。
「やあ、スメル君」
「ごほん。君がスメル君か?知っていると思うが商業ギルド長のリードだ」
「お初にお目にかかります。トーマス商会のトーマスと申します」
な、何だと。私のパトロンのダミル侯爵と、商業ギルド長と大商人トーマスがいる。
ダミル侯爵はあっけらかんと言う。
「幼女たちにパトロンの地位を売ったぞ。では、私はこれで」
「ダミル侯爵殿、子女との婚約の話は?」
「あ、言ったけど君には婚約者いたから無効だよ」
「ちょ、待って下さい」
逃げたのか?
「雇われ商会長、スメル、座るの~」
幼女に促されて座るしかなかった。
すると、メアリーという幼女はわざとらしく手をあげて
「緊急動議なの~!スメル商会のスメルを解任するの~!理由は資料を見て下さいなの~」
「まあ、婚約者の家から知的財産を奪った・・・そして捨てた」
「グヒヒ、こいつは外道なのです」
幼女達が書類を見て私の悪口を言っている。
しかたない。商売を教えてやるか。
「いいですか?商売はだまし合いです。子爵家から奪ったと言いますが、これは私が有能であることを示しています!ところでこの茶番劇の説明をお願いします」
「なの~!商売はだまし合いなの~、でも、悪人はいてもいいけど、外道はダメなの~、商売に色恋を使って令嬢を泣かすのは外道なの~」
「しかし」
「商売は戦争なの~、でも信義誠実の原則が必要なの~、商売は信頼から生まれたの~、元々は物物交換だったけど、物が支払えない時に後で払うと証拠のために渡したのが貨幣の始りなの~、信頼がなければ貨幣はただの金属なの~」
何故、金が生まれたのか説きやがった。そんなことは考えたこともなかった。生まれた時からあったぞ。
「裁決を取るの~、悪辣商会長解任に賛成のお友達は挙手をお願いするの~」
「はいですわ」
「はいなのです」
「全員賛成で可決されたの~、スメル君はこれから平の商会員なの~」
「こ、こんなの無効だ!」
しかし、商業ギルド長がいいやがった。
「これは正統な裁決だ。王国は株主制度導入を検討している。この商会はモデルケースになる。現行法でもパトロンの地位の細分化で大丈夫だよ。合議制のパトロン制度もある」
「グウ」
グウの音が出た。
「次に、商会の名を『良い子商会』にするの~」
「まあ、良い子のための良い子による良い子の商会、素晴らしいですわ」
「良いのです」
私は叫んだ。
「私は努力して商会をここまで大きくしたのだ。それを横から幼女がかっさらうとは女神様は許さないぞ!」
「大人になったら、努力ではなくて結果を求められるの~、お前は努力の方向性を間違ったの~」
「しかし、でも・・」
「おまえは『しかし、でも』しか言えなくなったの~、でも、お前の才覚は認めるところがあるの~、もし、これから言う事をしてくれたら、支店長だけにはしてあげるの~」
「な、なんだ。それは!」
私は幼女の言われた通り子爵家を訪問しナターシアに謝罪をした。
土下座をして、慰謝料、違約金として金貨五百枚の小切手と、今後、領地の織物を正統な値で取り扱うことを約束した契約書だ。
これが商会長としての最後の仕事だ。次の日から支店長だ。名も『良い子商会』というふざけた名前になる。
撤退戦だ。まだ負けていない。
「すまない。許してくれ!」
「え、何が起きていますの?」
「スメル君、よくノコノコ来られたな。魂胆は何だ!」
「ナターシアを泣かして!」
子爵夫妻に詰め寄られたが、正式な書類と分かったら・・・何とか許してくれた。
私は如何なる時も不利と分かったら土下座をすることが出来る。
約束通り店舗も任された。お給金は売り上げ次第の契約だが、また這い上がってやる。
「おじさん。アメひとつな」
「おじさんじゃない。お兄さんだ!」
と思ったが、任されたのは下町のキャンディストアだ。
「こら、そこ汚い手で触るな!」
「買わないなら出て行け!」
やってられないと思ったが、売り上げがその日に入る。
日銭が入るってこのことか。この商法も結構確実だな。
「でも、売り上げ大銅貨五枚(五千円)じゃねえか。やってられねえ!ちきしょー!」
どんな境遇でも努力をすれば女神様は見てくれる。
私は努力をした。
くじ引きを考えたのだ。
商品は男の子には勇者セット、女の子にはお姫様セットだ。
一つ銅貨一枚(100円)だが、飛ぶように売れた。
「うわ。勇者セットだ。欲し~!」
「キャア、お姫様みたいになれるの~」
「「「「下さい!」」」」
「はい、並んで、並んで」
日の売り上げが銀貨一枚(一万円)を超えた。
よし、よいペースだ。次は商品をもっと豪華にして大人にも応用できないか?
と思ったら、あの幼女メアリーがメイドと一緒に来た。
「監査なの~、クジを全部メアリーに売るの~」
「ちょっと、待て、それだと子供達が買えなくなる!」
「大丈夫なの~、もう一つ用意しているの~」
詰んだ。
このクジには当たりがない・・・・
「当たりがないの~」
当たりがないと分かったら
野次馬の子供ぶぜいが私を罵った。
「ヒデェ!当たり無しかよ」
「お手伝いをして貯めたお金だったのに」
「とんだ悪党だ。泥団子をぶつけてやる!」
「みなしゃん!クジを買って頂いたお友達には良い子ランドの1日遊び放題券をあげるの~、常設の遊園地なの~、この地区一帯に配るの~、親と来て下しゃいなの~」
「「「ワーイ!」」」
い、今のうちに売上金をもって逃げられないか?しかし、メアリーとメイドに行く手を遮られた。
幼女は私に問う。
「スメル君にとっての『欲しがりの心』とは何ぞやなの~」
「はあ?私は欲しがりではない。欲しがり義妹と一緒にしないで頂きたい」
「つまらないアンサーなの、スメル君はクビなの~、これ今までのお給金なの~」
銅貨数枚を渡しやがった。
私はどこで間違った。今日からまた一平民だ。寝るところもない。
☆メアリー視点
欲しがりの心か・・・私にも分からない。
転生者だと思い出してからからずぅと考えている。
私の母は公爵の庶子、お父様は元王太子だ。
お母様は欲しがって欲しがってついに現王妃の婚約者を欲しがって婚約破棄をして父とともに追放された。
物欲の欲しがりは身を滅ぼす。考えながら商会に戻った。
「メアリー様、お帰りなのです」
「ロゼッタちゃんただいまなの~」
「イザベル様が計画を進めているのです」
「ありがとなの~」
前世、株式会社に勤めていた。おそらく九十九パーセントは株式会社だろう。
人に株の話をしたら、十中八九、売買の話になる。
しかし、そうではない。株式会社がなければ雇用も生まれない先端技術も開発されない。
謂わば文明は株式会社がなければ維持できないのだ。
その根底にあるのは、株で配当をもらいたい。売却益で儲けたい。欲しがりの心だ。
今は、お義姉様の領地の織物を王女殿下に進めているところだ。
王宮役人の子、ロゼッタちゃんはその方向性の情報が入ってくる。
王女殿下はファッションリーダだ。
クラウディア王女殿下が気に入った物は社交界で流行り出す。
お義姉様から頂いた金貨一までここまでこれた。
情報を制する物が商業を制す。
「ククク、圧倒的ではないか?」
メアリーは征く。欲しがりの心が分かるまで欲望の大海を突っ走るつもりだ。
最後までお読み頂き有難うございました。




