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086 愛と恋と

 コリンに好きにしていいと言われたので、男はとりあえず切り刻んでみる。血で汚れるのが嫌だったので、遠くに放り投げておいた。


「馬鹿だなあ……」


 あんなにぺらぺら喋っちまうなんてよ。コリンの拷問なんて、まだ手ぬるい方だぜ。リゼなんて、もっと怖かった。見てるこっちが死にそうだったもの。


 拷問されたところで吐かなければよかったのになあ。おかげで、咲家さきけの小僧があそこに捕らわれている、という王国にとっての最重要機密が明らかになってしまった。可哀そうだねえ、王国も。あれほど無能な人間を兵士として雇ったせいで、皇女様を追いつめられる切り札を失うなんてさ。


 そこで、さっき『作戦』とやらを教えてくれた皇女様の姿を思い出す。男物らしいややぶかついたコートを羽織って、普段よりも傲慢な口調で命令を下してきた。病院で会った時よりもかなり高慢な態度になっているのは間違いなく、おそらく小僧を失ったことがその変化の原因なのだろうな、と推察すると面白くなかった。


「一人にそれほど執心するというのは、どうなのかな」


 もちろん皇女様の愛が世界に向けられているのも知っている。しかし、そうだとしてもあまりにも歪で不均等だ。もしも皇国の民一人一人に10ずつ均等に愛が分け与えられているのだとしたら、咲家の小僧にだけは100程度が与えられているに違いない。


 恋じゃあないよなあ。

 愛じゃないだろなあ。


 気持ちの悪く歪でどうしようもない物だろうなあ。


 僕がリゼに抱いていたような、靄ついた掴みどころのない物だ。


 取り逃がしてしまう前にしっかり捕まえておくといい。


 僕は咲家の小僧は嫌いだが、皇女様のことはまあ好きだ。

 彼女が愛を失うのは、好ましくない。


「師匠」


 いつの間にか戻ってきたコリンが声をかける。


「あの男だけを殺して、その後はきちんと大人しくしていたのですね。偉いです」

「子ども扱いするな」

「それより、師匠は何を考えていらっしゃったんですか」

「いや……皇女様は小僧のことをどう思っているか、が知りたかったんだ」

「考えてわかるものでもないでしょうに」

「あれは恋なのかな、愛なのかな」

「わからないなら愛でいいでしょう」

「そうかなあ」


 そうやって、一つの物を大きな言葉でくくってしまう風潮にはあまり共感できないが。しかしコリンがそう言うのなら、それで良いだろう。


「どうする? 先に入ってみるか?」

「そうですね……どうせ先に行かされるのはクリスでしょう。彼女が危険にさらされるのは僕にとってあまり好ましくありません。先に少し掃討しておきますか」

「良いね。掃除は大好きだよ」


 後片付けは嫌いだけどね。

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