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082 大いなる意志

 舞い散る砂埃の匂い。やや遠めに香る硝煙。たびたび響く怒号や悲鳴。


 エリス・ティオール、人生二度目の戦場だった。


 さて、先ほどの訓練場の場面からずいぶん場所が移動して度肝を抜かれている方もいると思うが、安心してほしい。

 ちゃんと訓練は終わった。僕は自分の魔術を随分有効に利用できるようになったし、ルカとの仲も良くなった。


 そんな僕が、なぜこんなだだっ広い荒野の真ん中にいるのか、と言うと。

 例の咲家さきけの小僧が何やら失踪したらしいのだ。


「失踪ではなく誘拐です」


 隣に立つコリンが訂正する。そうそう、何でも王国側のお嬢ちゃんの手回しで彼が誘拐されてしまったから、お気に入りの護衛がいなくなって傷心の皇女様のために、小僧を取り戻してこなくちゃならないんだと。王国軍が拠点にしている建物に幽閉されているらしいから、とりあえず二人で斥候をして来い、と当の皇女様に頼まれたのだ。


「言い方が引っ掛かりますね、師匠。ですが一介の信奉者として、彼女の傷はそれっぽっちの言葉で表せていいものではない、と言わせてもらいましょう」

「信奉者じゃなくて狂信者がお似合いだろ」


 そう、信奉者。

 コリンと小僧、ルカを含めて十一人の、『皇女の率いる部隊』の面々は、それぞれ異なりながらも同様に、皇女をどうしようもなく崇拝している人々の集まりだった。


 はっきり言って、生身の人間があそこまでたった一人で崇拝されている状況は、気持ちが悪いと言える。

 生き神様、だとか何とか言ってもてはやされる気分なんて、ロクなもんじゃないだろう。そりゃもちろん、数年の間地球にいて、星が危機に陥った時に神の救いのごとく現れたお世継ぎ様が居たら信じちゃうかもしれないし、妄信しちゃうかもしれないけどさ、言われてる方はたまったものじゃないだろうな。


「突然地球からやって来て祀り上げられて、あそこまで堂々と皇女たれるのは一種の貫禄ですよね」

「貫禄どころじゃないだろう。まるで、もともと皇女であることを定められていたかのような落ち着きだぞ?」

「……もともと皇女であると定められていた、ですか」


 何やら思い当たる節があるらしい。皮手袋を顎に当ててコリンが足を止める。


「僕は、どうしてこんな糸使いになったんです?」

「お前が望んだからだろう」

「そうですよね……これは、僕の意思ですよね」

「そうじゃないのか? 少なくとも、誰かに指図されて僕に教えを請いに来たようには感じなかったぞ」

「――最近、良く思うんです」

「何と」

「僕らは普段、自分で道を選んでいるようで、実は『大いなる意志』みたいなものに、その道を選ぶことを強制されているんじゃないのか、と。実際のところ僕の選択に意思なんて介在していなかったんじゃないのか、と」

「そりゃ怖いな。僕たちが今まで選んできたあれやこれやが、全部まやかしに成っちゃうわけだ」


 コリンの吐いた言葉に適当に返事をしながら、その言葉のリアリティに僕はぞっとしていた。


 僕は、ここのところ自分で何かを選択した覚えがない。回りに依頼されているまま従っていたら、何時の間にやらこうなっていた。あまつさえ少し前には、『神に成れなかった××』とでもいえばいいような存在と言葉を交わしてしまった。今さらながらよくこの眼がつぶれていないものだ。


 そうか、『大いなる意志』か。運命と言ってもいいのかな。


 いつか話す機会があったら、ガツンと言ってやりたいものだ。


「人の人生をもてあそぶな」


 と。

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