073 注射
何やら難しい話だ。王位継承だとか、六つの宝だとか。しかもたった一人が居なければ成り立たない計画だとか。
皇女様はすごい人なんだなあ。
「じゃあ、お前らは先に六つを集めて、それを王国の方に持っていくつもりなんだな」
「ええ」
「向こうに一個でも取られれば計画が頓挫しちまうんだろ? 集まって無くても交渉を持ち掛ければいいだろ」
「そうはいきません」
「何でだい」
「国力が違うのです」
「国力?」
「王国の方は、圧倒的な武力を持ち合わせているのです。こちらが全力で戦っても、軽くあしらえるほどの」
「そりゃあすごい」
やっぱりあの皇帝がやったことなんだろうねえ。賢帝なんだか愚帝なんだか。
「それが最近、やっとイーブンなんです」
「そりゃ何でだ?」
「皇女様です」
「またかよ」
「そうですねえ……僕の持っている魔力を一とすると、皇女様の持つ魔力は一五ですからねえ」
ううん。その例えだとわからないなあ。平均で例えろよ。
「そりゃすごいのか」
「信じられない程にすごいですよ」
「ふうん。僕、それで思い出したんだけど」
「何ですか」
「僕、魔法を習いたかったんだよ」
「魔法ではなく魔術ですが。どういうことですか?」
「僕、生まれてこの方魔術とやらを使ったことがなくてね。習ってみたかったんだ」
「へえ……頼んでみましょうか」
「ん? 教えてくれないのか」
「え? 僕がですか」
「教えてくれるのかと思ったんだが」
「いえ、皇女様に頼みますよ」
わお。そりゃすごい。
「では、まず検査ですかねえ。血液検査でも致しましょうか」
「注射は嫌だぜ」
「師匠は血を流しまくるくせに、自分が流すのは嫌なのですか。我が儘ですねえ」
「お前は注射好きなのかよ」
「されるのは嫌いですが、するのは好きですよ」
「一緒だろ!」
ふふ、と笑うコリン。やっぱり狂った奴だ。
それを言うと僕も狂った奴になるのかな。
***
病院というのは白いところだ。
白すぎるくらいに白くて、あの王女を彷彿とする。
色が反転すれば、彼の皇女様。
「では、刺しますね。ちくっとしますよ」
「……」
紫の髪をした女の人が注射器を構える。なんだか殺されでもしそうな雰囲気だ。
ちゅうううううううううう
「はい、終わりです」
しゅ、とアルコールの含まれたティッシュで腕を拭かれる。
自分の血を見た後なのでくらくらする。
待合室で待っている金髪――コリンの隣に座ると、一枚の紙を睨んでいた奴は僕に向かってにやついて見せる。
「師匠、実は結果なのですが……」