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069 調べもの

「お嬢ちゃん——リサと言ったか」

「何でしょうか」

「もしもお嬢ちゃんが本当に皇様になったらさあ」


 ——僕みたいなどうしようもない奴も救ってくれるかな?


「あたしにできることであれば、今すぐにでも」


 少女は迷わなかった。


「そっか」


 多分皇女のできることは、僕を救うには足らないだろうけど。


「手を貸してあげよっか」


 いざという時のよりどころは、多い方が良い。

 それにこの娘は、


「ありがとうございます、エリー」


 僕のことをそう呼ぶ。


「僕は何をすればいい、リサちゃん。皇子様には『ただその力がこちらの陣営についていることを示せばいい』と言われているんだけど」

「それで大丈夫です。助かります」


 んー。

 意気込んでみたところだけれど、今と実態はあまり変わらないみたいだ。


「じゃあ、しばらくコリンにでもくっついていようかな」

「やめて下さい。こちらで何か仕事を探してください」

「……何か隠しごとでもあるのかい」

「ありません」

「想い人でもいるんだろ」


 ああ嫌だね、と目を伏せる。

 僕には相変わらず愛も恋もわからないって言うのにも拘らず、弟子は思春期らしく恋物語を紡いでいるんだとさ。


 嫌んなっちゃうぜ。


***


 本当にすることがないので、何と皇宮の図書館とやらに来ている。

 こういった知的活動は僕の得意とすることではないのだが、何せまだ腹の傷が痛むものであまり活動的に出回ることはできず、仕事をもらうこともできないのだ。

 よって、柄にもなく本でも読んでみようか、とコリンに案内を頼んだわけである。


「何の本を読みに来たんです?」

「何も目的はない」

「この図書館、広いですけど」


 そりゃあそうだろなあ。


 皇宮の図書館、といっても図書館自体が皇宮の中にあるわけではない。皇宮の建物の横に、下手をしたら皇宮の建物よりも重厚な存在感を放って建っているのが図書館と言う奴だ。

 図書館の建物は、建物と言うよりも塔と言った方が良いくらいの高さをしている。丁寧に煉瓦で組まれた壁にはぽつりぽつりと明り取りの窓があるくらいで、遠くから見たら牢獄と勘違いしそうだ。僕の背の二倍はありそうな重厚なドアには特大の閂が付けられ、糸を使ってもどうにも壊せそうにないくらいの堅牢さを誇っている。


「いろいろと説明は受けたんだけどな」

「何についてですか」

「皇国と王国の争いってやつだよ。今起こってる戦い。今まで何にも音沙汰がなかったのに、最近になって王女様だとか皇女様だとかがドンパチやってるだろ。あれがどうして起こってるのか、歴史書とか読めばわかるのかなって」

「……そうしたら、皇国自体の歴史書を読んでみるといいかもしれませんね。感心しました」

「何に」

「師匠もいろいろと考えていらっしゃったんですね。てっきり何も考えていないのかと」


 失礼な弟子だ。

 じゃあ行きましょうか、とさっきの狼藉をすっかり忘れた口ぶりで言いながら、コリンが閂に手をかけた。


 金属の触れ合う音が響いて、薄く開いた二枚の扉の隙間をひゅるりと音を立てながら風が通った。

 薄暗い図書館内に光が舞い込んでいく。

 人が通れるくらいの隙間が開いたところで、コリンが体を滑り込ませながら合図した。慌てて扉をくぐると、重そうな扉が力尽きたように再び閉じる。獣の首を絞めた時のようなどす黒い声が響いて、その後は静かになった。


 中央を螺旋の形に貫く階段にまず目が行く。どこまで続いているのか、と思わず見上げるほどの長さが続き、先はよく見えない。上を見るのを諦めて周りを見渡すと、すぐそばに人が立っていた。


「ようこそ」


 生まれてから一度もここを出たことがないのです、などと言いたげな表情をして立つその人は、肩に深緑のマントを羽織って、片眼鏡の下の銀色の瞳でこちらを見つめている。


「ユキナさん、こんにちは」


 顔見知りのようで、親しげにコリンが挨拶する。


 なかなか美しい女の人だ。


「お前、その人と話してろ。僕は周りを歩いてくる。後で迎えに来い」

「承知しました、あまり遠くに行かないでください」


 長く見つめていると思わず糸を振るってしまうかもしれなかったので、逃げた。

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