060 会社の方針
まさか、皇国側として祖国に渡ることになるとは思わなかった。
「師匠! ばれないようにしてくださいってば!」
僕もこれで危ない橋を渡っているんですよ、なんてコリンが騒ぐ。
「わかったわかった。出るったら」
皇女一行の船にこっそり乗らせてもらって航海してきたので、これがばれるとかなりまずいらしい。
「かなりじゃすみません。死罪です」
「そしたら助けてやるよ」
「冗談じゃないですよ……」
ばれないように付いてきてくださいね、なんて再度念を押される。
「わかったよ」
その頼みを承諾して、コリンが皇女様たちの方に追いつくのを見守る。
僕の今日の仕事は、王国側に戻って社長に仕事の成功を報告することだ。
詩沖兄妹はコリンに捕獲してもらい、僕がとどめを刺した。死ぬ時も三人で何やらぶつぶつ言っていたので、あれは職業病だと思う。
多分殺すところまでは依頼に含まれていなかったのではないか、ということには殺した後に思い付いたので気づかなかったことにした。それより気になることもあるし。
コリンに買ってもらった液晶タイプの携帯端末を使う。テレビに驚いていた身としては、手で触ることで操作ができる端末があるなんてまるでファンタジーのようだ。
「もしもし」
どこに向かってしゃべっていいのやらわからないな、これは。
[幸谷殺羅]
電話がつながった瞬間名前を無遠慮に呼ばれる。
「何だよ」
[皇帝に会ったというのは本当か]
「あれ、どっから聞いたの? 本当だけど。そうそう、それで訊きたいことが——」
[幸谷斡旋社は皇帝と手を結ぶ]
マジで?
「それはどういうこと? 僕に幸谷を抜けろって言ってる?」
[逆だ]
「あ、それはそれで嫌かも」
[皇帝との渉外を経験したことがあるお前に、これからは彼の意志のための任務を多く振ることになる]
「うわあ……」
要は牢獄にいた時に言われたようなのを言われるってことでしょ……。
「わかったよ。そうだ、詩沖は始末しといたから」
[そうか]
反応薄い。
[では。また何か用があれば]
斡旋社の方も忙しいようだ。やや焦ったように電話が切られた。
「どなたとお話しなさっていたんです」
真後ろから声がかかる。
「牢から出られたんだな」
「お陰様で」
いつかの皇子様が、こちらに話しかけていた。
「本社だよ」
「ああ、コリン君の親玉ですね」
「……そんなことまで知っているんだな」
「なめないでください、僕ですよ?」
可愛げのない子供だ。
「失礼ながら、僕はニ十歳ほどあなたより年上です」
「じじいって呼ぶぞ」
「それはおやめください」
一体何の用があってきたんだ、と問う。もうとっくに皇女様たちの隊は見えない。割と長い間離れているようだし、怪しまれるのではないだろうか。
「優しいですね。大丈夫ですよ。実はあなたに訊きたいことがありまして」
「ん? 皇子様なら何でも分かりそうなものだけどな」
牢屋で見せてくれたあの才覚を、忘れてはいない。どんな質問が飛んでくるのだろうと待っていると、
「あなた、どちらの味方ですか?」