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糸使いの一生 ~彼女はまたの名を人形狂戦士~  作者: 古海理香
第六部 未然大戦 —一章 六大臣筆頭ウィラー⦅貴⦆
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053 師匠と弟子

「シンゾウって、サンドイッチの店名だよな」

「ええそうですよ。僕もたまに利用します」


 並んで屋根の上に腰かけて、穏やかな会話を交わす。


「師匠は何をしにいらっしゃったんですか?」

「ちょっと仕事でな。丁度お前を捜してたんだよ」

「奇遇ですね。僕も師匠を捜していました」


 ああ嫌だ。こいつに捜していたとか言われたら寒気しかしない。


雪谷さちや詩沖しおき兄妹、と言えばわかりますか」


 思わず横顔を数十秒ほど見つめた。途中でコリンは表情を変えて見せた。


「クリスを人質に取られまして。どうにもできない状態なのです」


 最愛の妹、とやらか。いまだに生きていたとは驚きだ。死んでいてもおかしくないとさえ思っていたが。


「僕の任務は、そいつを阻止することだ」

「そうなんですか。利害が一致しましたね」

「案外完璧に一致してはいないのかもしれないんだよ——お前以外に、雪谷に狙われている者はいるか?」


 例えば、齢十六くらいの男児とか。


「いますよ。ユーリ・クライツと言います」


 ビンゴ。名前は聞いた通りだ。


「そいつを守れだと。殺されないようにしろ、というのが向こうのお達しだ」

「……」


 僕の任務の内容を聞いて、コリンは少し考えるようだった。

 それにしても、普通に奴がここにいたとは。数か所を盥回しにされる覚悟はしていたのだが、僕は意外と運がいいらしい。

 しかし、その少年を守ることに何か意味があるのだろうか。僕にとっては守るどころか殺したい対象なのだけれどなあ。


「師匠」


 真面目なトーンで呼ばれる。


幸谷斡旋社ゆきやあっせんしゃって王国とつながっていますか? より詳しく言うと、皇帝とのパイプは」

「ある」


 僕が牢に入っている間にアトラスの方がうちのことを手籠めにしやがったらしい。非営利で非道徳にして国の暗部と言われてきた斡旋社がこの様かよって話だ。今の斡旋社は暗殺屋というよりもむしろ国の番犬と言った方が近いのかもしれない。


「そうですか。じゃあ、アトラスさんとやらはこちらの国の皇女様を随分高く買っていらっしゃるんですね」

「アトラスさんってお前、皇帝だぞ。皇女様を高く買ってるってなあどういうことだ」

「咲家のその子、皇女の護衛なんですよ。護衛がなければ皇女なんてただの小娘に過ぎないでしょう? 護衛を守ろうという動きが王国に存在するというのならば、つまりそうなのではないか、と推測しました」


 要は、皇帝が皇女様を守ろうと図っているのでは、と言いたいわけだ。


「皇女様を守ることが何につながるんだ?」

「国家機密を師匠に話せるわけがないじゃないですか。破壊者クラッシャーは黙っていてくださいな」

「じゃあ何でお前は知ってるんだ」

「皇宮直属部隊の一員でして。『()()()()()()』の参加者でもあります」

「王国陥落? 何を企画しているんだ?」

「一人も犠牲者を出さないで世界を平和にする方法です。強いて言うのならば、大戦を未然に防ぐための方法ですね。師匠、一枚噛んでみる気はありませんか?」


 歴史を変える一戦。はたまた、歴史に残る一戦。そんな重要な戦いへの参加を、我が馬鹿弟子は軽い言葉で誘って見せたのだ。


「はア……」


 馬鹿げた話だ。一人も犠牲者を出さないで世界を平和しようだなんて。そんなの今まで誰も成し遂げたことのない偉業なのに。

 それでも、弟子の我が儘に付き合うのが師匠ってものなんだろう。


「僕は何をすればいいんだい」


 どうせ捨てる命だ。酔狂なことに散らすのも一興だろう。

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