050 叱責と展望
「何をやっているんですか」
皇子様の房に相談しに行くと、開口一番怒られた。
「そうは言ってもむかついたんだよ」
「あなたは子供ですか、まったく」
すっかり呆れた顔をされる。
「まあ過ぎてしまったことは仕様がありません、作戦を変更いたしましょう」
「どんなふうにだ?」
「強襲作戦です」
「ほう」
王女様の訓練場所へ忍び込んでもらいます、と皇子様は言う。
「どういうことだ?」
「この牢の上に王国軍直属の訓練場があるのは知っていますね?」
「知ってるよ。四階建てのあれだろ?」
「いえ、五階建てです」
え?
階段は四階までしかなかったぞ。
「隠し扉があるのですよ。王族の居城ではよくつかわれる手口です」
「それをどうしろって言うんだ」
「そこに入り込んで突き付ければいいでしょう、彼女の現状を」
「ふぅん。要は格の違いを見せつけろって言いたいわけか」
「いえ、そこまで好意的ではありません。僕の計画を破綻させるような人に好意的に接する必要がありますか」
結構ご立腹らしい。これだからプライドの高い奴は。
「ご自慢の『糸』とやらで天井でも何でもぶっ壊せばよろしいでしょう」
そういう言い方をされるとむかつくな。
「まあわかったよ。――それをやったら、僕はもう逃げてもいいのか」
「お好きになさってください」
ぷい、と顔を背けられる。これが四十歳のすることかよ。記憶が蓄積しねえとか言っても、そう考えると気持ち悪いな。
自分の房に戻って考える。
王女様の後ろ、溝色の瞳の男の正体。
「ルーくん、ねえ」
あれは強いな。
人を殺すことをなんとも思っていない顔をしている。
かつての僕のようだった。
「あの子は、あれが何かわかっているんだろうか」
王女様。もしかして、あの従者のことを愛したりなんかしちゃわないだろうか。
無駄なのに。
ああいうものには恋とか愛とかわからないのにな。
「まあ放っておくか。とりあえずここを出られれば僕は十分だ」
あのお嬢ちゃんは死ぬほどむかつくけれど、皇子様に恩を売っておいて損はないし。
牢を出たらソードのところにでも行こう。コリンにやったせいで手袋は無くなってしまったし。