043 手錠
——あら。
僕は今、自分の両手に架かった銀のドーナツを見ながら、やや不思議な感覚でいた。
僕の指先を封じなければ、それは僕を封じたことにはなり得ない。そんなことはわかり切っているだろうに、彼らは僕の手首に錠をかけて満足する。
それが何やら面白かった。
さて、ページを開いて見れば捕まっている人間がいて驚いている人も幾人かいるだろうから、弁解と説明をしようと思う。
まず初めに、宇宙船はきちんと飛んだし、脅迫にも成功した。奴ら航海士は、僕よりも先に連行されていった。だから、僕の計画に穴はなかった。ただ、降りた後、問題は起こったのだ。そこまで僕は考えていないから、問題はない。
つまり、ここは王国だ。僕の故郷だ。——そこでなぜ捕まっているのか、という疑問については目を瞑ろう。なぜなら僕もよくわからない。
「特級犯罪者を捕獲! 《《闘争》》意思はない模様!」
警官が闘争と言ったのか、逃走と言ったのか、それはわからなかった。どちらの意志も僕にないのは確かだけれど。
——コリンの奴、逃げたかな。
そんなことを考えて、苦笑する。まさかこの僕に、弟子のことを心配する心なんてものがあったとは。思いやる心さえないと思っていたのに。
「幸谷殺羅だな」
「そうだよ」
顎を持ち上げて、素直にそう答える。
警官は何やら震えているようだった。取って食いやしないってば。
「牢に連行する!」
腰に縄でも付けられるのかな、とやや楽しみにしていたのだが、奴らはとことん僕と接触する気がないらしい。触ったら危険だろうと思うのは、わからないでもない。
ややつまらないのも本当だけれど。
「うん? 僕の部屋はここで良いのかい?」
やけに立派な一室に案内されたので首を傾げる。てっきり、ござでも引いてあって薄暗く、手を通す木の板があるところを想像していたのだけれど。
「特級犯罪者は丁重に扱えとのお達しです」
皇帝は何を考えているのだろう。丁重に扱われたところで扱われなかったところで、僕がこの部屋を抜け出すことなんて容易だし、何ならこの国中の人間を虐殺して回ることさえ可能だというのに。
「ごゆっくり」
僕がそれっぽっちのことを考えている間に、看守らしき警官は出て行ってしまった。少しでも僕と話したくない、と言いたげな態度だったな。
「ちょっとへこむ、なんて」
指を少し動かしてみる。うん、正常。
本当に何がしたかったんだろう。とりあえず手錠の鎖を切って動きやすくした後、部屋の探検に掛かる。
清潔でよく整頓された部屋だった。機能的にはビジネスホテルくらいあるだろう。ここまでもてなされると、何か裏があるんじゃないかと勘繰ってしまうな。
「……殺し合いでもさせる気か?」
案外あり得ない妄想でもない。僕と同じような特級犯罪者を数多く集めて、殺し合いをさせる。犯罪者人口も減らせるし、特級犯罪者たちを疲弊させることもできる。なかなかいい案だ。
「その可能性も考えて、一応偵察でもしよう」
とりあえず壁でもぶち抜いて、隣の部屋とか見てみるかな。