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040 弟子の上達

「おいコリン」


 僕がそう奴を呼ぶのも日常茶飯事になった。


「何ですか、師匠」


 コリンの糸の扱いも随分上手くなってきて、もし本当に〖いと〗以外の技術をもコリンが身に付けられるというのなら、コリンは世界最強になれるんだろうな、と僕は思い始めていた。


「リーリェだっけ? 目の見えない」

「ああ。《《先代の》》」


 そう、先代の。

 コリンは昨日、『勝ち抜き戦』とやらで最上位に立った。らしい。


「弟子のことなんですから、もう少ししっかり把握してくださいよ、師匠。『我らが幸谷斡旋社ゆきやあっせんしゃの〈戦闘力養成集団〉において、僕の弟子が最も優位に立った』だとか、まあそんな風に。僕がいくら説明しても聞きやしないんですから」

「わからねえものは聞いてもわからねえだろ? 要はお前が幸谷の仲間入りを正式にできる日が近づいたってことでいいんじゃねーのか?」


 やれやれ、というように肩をすくめた金髪の小僧は苦笑いを浮かべる。


「それでいいですよ、師匠。あなたと並んで立てる日も、近いということです」

「その頃にはお前が僕を抜かすだろうよ」

「そんなことはありません。僕は決して非情なわけではないのですから」


 コリンはその齢を二桁まで重ねた。僕はリゼよりも年上になった。

 時は不可逆。けれど想いは逆行する。


 リゼも僕を見ながらこんな気持ちだったのか。

 僕らしくもない感傷だ。


「師匠。『入社試験』って聞いたことありますか?」

「あるよ。受けた」

「ですよね。僕、その言に従いますと、どうやら異郷の地へ行かなければいけないようなのです」

「異郷の地?」

「ええ。《《イリス》》、というところです」


 支部の者などにいろいろ話を聞いて、皇国についても様々な知識を仕入れた。

 イリスという名を冠する都市は、確か極北のみやこだったはずだ。冬には外に出ることも構わないほどの大雪に見舞われ、世間が夏を迎えるほどになってようやく雪がほどける。そんな場所らしい。


「僕に出されたのは、その都の頭首の娘の殺害命令です」

「頭首の子息ってことか? それとも頭首が娘か?」

「後者です。——わずか齢十五。信じられない話でしょう?」

「そうだな」


 頭首がわずか十五の娘なことか、それともその娘の殺害命令が十一の少年に出されたことか。どちらを信じられないと言ったのかはわからなかった。しかし僕は後者の意味でうなずいた。


「どうするんだ?」

「師匠に提案があります」

「危険な話は遠慮したいな」

「僕と一緒に逃げてくれませんか?」


 僕を見つめる胡桃染くるみぞめの瞳。日光を反射する金のマッシュヘア。


「妹を連れて行くんだろ。どうせ僕なんかと手を取り合ったりなんかしやしない」


 とんだほら吹きの小僧だ。


「師匠は僕のことをわかっているんですね」

「逃げろよ。行方をくらませろ。あるいはイリスに定住してしまえ。《《任務を失敗しろ》》。妹を幸せにしたいなら、それが正しい道だ」


 お前はそう言われたかったんだろ。


「ありがとうございます、師匠。僕も元よりそのつもりでしたよ。ですからお願いしたんです。——《《僕と逃げてください》》、と」

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