表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糸使いの一生 ~彼女はまたの名を人形狂戦士~  作者: 古海理香
第一部 8歳 偶然、もしくは必然
4/164

003 必然的な対話

「ねえ」

「……」

「楽しいって何って、聞いたよね」

「うん」

「君、笑える?」

 言われたとおり笑顔を作った。

「ああ。やっぱり」

「?」

「笑うってさ。笑顔じゃないんだ。もっと、いいことさ」

 君は、人形みたいだね。

 僕には、ずっと笑顔のその人の方が妖しく見えたから、口をつぐんでいた。

「ねえ、名前は?」

「……エリス」

「ねえ、エリー。教えてほしい?」

「何を」

「殺し方」


 やっぱりそれは運命だったのかもしれない。ずっと、師匠たちに拒絶されてきた僕が、偶然にして必然の末に、僕にぴったりのその人に出会ったことは。


「あは。嘘嘘。教えてほしい、なんて訊き方じゃないよね」

 ――聞かねえわけじゃねえよな。

 突然の凄みだった。下唇を軽く開いて、こちらを見下す目つき。上がった眉に、やや吊り上がった目。

「教えて」

 別に怖がったわけじゃない。それは言い訳でもない。ただ。

 その顔がひどく、魅力的に、蠱惑的に映ったから。


「エリーさ、初めにどうやって殺した?」

「その辺の、ロープで。絞め殺した」

「どうせ、縄使い ――ああ違うや、鞭使いに就けられたんだろ?」

「うん」

「そりゃ違うよねえ。どうせ殺したろ? エリーより弱いから」

「そうかどうかは知らないけど、殺した」

「じゃあ、僕のことを殺す?」

「無理」

「賢明な判断だね」

 どうせ殺しっこない。殺せないんだから。

 そう、僕はこの人よりも圧倒的に弱い。だから殺せない。


「弱いよねえ? 僕よりも。僕は強いから」

 強いことがわかっているからゆえの、余裕の笑み。片口端をあげて、こちらを皮肉るような顔。

「でも、その師匠さんとかは殺せたんだね。回りから見れば、『彼らの方が強い』のに」

 何故だかわかる?

「知らない」

「君の方が、殺すことに対する才能があるから、だよ。生まれつき、人を殺しやすい人間と、人を殺しにくい人間はわかれているから。

「僕は、殺しやすい方の人間だって」

「とびぬけて、ね。ずっと、殺して来ただろ? そうだ、エリーは何歳?」

「多分、生まれてから八年ぐらい」

「僕はね、生まれてから二十年ぐらい」

 それほど年上には見えなかった。そうなのか、と見つめると、くすりと笑われた。

「若く見えるかい?」

「うん」

「どうもそうらしいね。僕はほら、背が低いんだよ。だから、本来殺戮には向かないらしい」

 とん、と彼女が自分の頭を叩く。確かに、彼女と同じ齢だったはずのシスターに比べて、かなり小さく見えた。

「エリーも、そうだね。同じ年の子たちと比べると、いくらか小さく見えるかな?」

「多分」

 院にいた時は、周りの事なんて気にしていなかったから、わからない。

「でも、小さくっても、殺せるよね」

「そんなの、関係ないってこと」

「そうだね。『殺す者か、殺されるものか』ただそれだけでしょ」

「でも、僕らも殺される」

「殺す者は殺される。当たり前のことだよ」

「でも、僕らは殺さないものも殺す」

「殺す者は殺されるんだよ」

「殺しているの?」

「生きているということは」

「僕には、わからない」

 生きていることが殺すことなら、生きていることは――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ