035 因縁の再開
支部の事務担当さんとやらに事情を説明すると、食事にありつくことができた。宿舎とやらも貸してもらえたので、今後はそこで寝泊まりすることができそうだ。服は買いに行けばいいし(膨大な額の報酬がまだ残っている)、とりあえず衣食住はそろったと言っていいだろう。
「うーん、安心」
やはり居場所ができると落ち着くものだ。
社長は僕の方向音痴をわかっていたみたいで、それを聞いたという支部の人が地図を用意してくれていた。まあ読めないのだけれど、ないよりはましだろう、ということでポケットに突っ込んである。
「ここはどこかなー」
宿舎はここですよ、と教えてもらったものの、すんなりそこにたどり着くはずもなく。僕はどこかよくわからない場所で迷っていた。
「また誰かに道を訊かなくちゃ、かな」
道を訊くことに良い思い出はないんだけれど。
と、辺りを見回したところで、
「あなたを呼んでいます、幸谷殺羅」
と不躾に声がかかった。
「ん?」
「あなたを呼びました、僕が」
そう言って随分低い位置から僕を見上げるのは、見覚えのある少年だった。皇都で僕に道を教えてくれた少年で——僕が親を殺した少年だった。
「や、少年! ちょうどいいや、僕に道を教えてくれないかな?」
割とフランクに声をかけてみる。突っぱねられることも予想していた。
「いいですよ」
少年が簡単に諾と言ったので、驚いて口を滑らせてしまった。
「わあ! ありがとう! その代償に、僕が何かできることはあるかな?」
思えば、この提案が間違いだった。二度も道を教えてくれた彼に恩を返そうなんて思わなければよかったのだ。
僕がそんなことを思うのも、恩を返そうと発案したのも、すべてが幻だったなら。
現在は変わっていたかもしれない。
「僕も、あなたに訊きたいことがあるんです」
「僕に答えられることなら、何でも答えるよ」
「じゃあ、教えてください。僕に、——人の殺し方」
瞳の死んだ色を全く動かさないまま、少年はそう言った。そこになんの意思もなく、ただ言うべきことだから、というように言った。
「どういうこと」
事務的に義務的に問いかけた僕に対して、少年はわかっているでしょう、というように首を傾げた。
「リーリェがあなたを殺そうとしたはずです」
「リーリェって、あの盲目の?」
「《《僕たちの》》トップです」
「僕たち?」
「はい。捨てられた子供たちの中の、トップです」
どうやら僕が思っていたよりも、盲目の少女——リーリェみたいな子供は多いみたいだった。そう思ったのを読み取られたように、少年に訂正される。
「思っていたよりも、じゃありません。数にして小隊程度はいると思ってください」
「で、その中で君は成り上りたいんだ。強くなりたいんだね。……何のために?」
「妹を守るためです」
ああ。カーテンの傍で震えていた少女を思い出す。少女というにも少し余るような、まるで幼女というのがちょうどいいくらいの子供だった。なかなか可愛かったはずだ。
「へー。妹ちんね」
妹とやらに興味はない。
「どうして、僕に頼むんだ」
「あなたが、《《僕の親を殺したから》》ですよ」
「?」
「断りづらいでしょう? だって、僕らはあなたの所為で孤児になったんですよ」
少年は、見かけによらずなかなかの策士なようだった。