025 雪谷詩沖——兄妹
やがて、木の間から、黒いローブを身にまとった集団が顔を出す。
数は三人。
「どうやら——」
「——我らを——」
「——待ち構えていたようだな」
三人がいっぺんに喋った。ただし、一言を三つに分けて。
「やあ、雪谷の詩沖さん」
「貴様は——」
「——幸谷斡旋社の——」
「——裁縫糸だな」
聞き取りづらいったらない。ローブの下の顔はろくに見えないし、マスクをしているかのように声はくぐもって聞こえる。
「我らは——」
「——先ほど研究室を——」
「——潰してきたところだ」
どこで切るのか、をどうやって意思疎通しているんだろう。
「へえ。やっぱりそうなんだ。で、僕らに殺されるつもりは?」
「あると——」
「——言うとでも——」
「——思ったか」
先手必勝、が詩沖の信条ででもあるらしい。
どこから取り出したのか、それぞれの身長くらいはあるのではないか、というほどの大剣をそれぞれ脇に抱えている。
「えー? そう来るぅ?」
はっきり言って、雪谷の連中を殺すことなんて造作もなかった。
ただ、僕の敗因は一つだけ。
駆けてくる雪谷を、飛んで避けたこと。
戦いを楽しもうとなんてしないで、殺していたのなら。
僕はまだ、幸せだったのかもしれないのに。
「ふむ——」
「——飛んで、避けるか——」
「——ならば」
方向転換。積もった雪が舞った。
「——!」
雪谷の動きは想定内。何なら、好都合。
想定外は、規格外。
戦場の外から走ってくる、体の小さな狂戦士。
「何——」
「——研究室の残党か——」
「——先に蹴散らしてやろう」
雪谷が背中を向いた。
殺せる、と思った。
しかし、身体が動かなかった。
それほどに、早かった。
彼女が、小さな声で唱えた。
「裁縫絶技、第六番、真実一路、一意専心」