表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糸使いの一生 ~彼女はまたの名を人形狂戦士~  作者: 古海理香
第二部 15歳 月夜の犯行
21/110

020 院長先生

「あ、居た」


 寝ている。

 院長って何か武道をやっていたりしないのか。

 てか、僕がいた時と同一人物なことがもうドン引きなんだよな。


「院長先生。教え子ですよ」

 左手を一気に握りしめた。

 指先についた糸が複雑に絡まり合って動く。

裁縫形態さいほうけいたい、第五番。啐啄同時そったくどうじ百発百中ひゃっぱつひゃくちゅう

 ただしまだ発動待ち。


「だっ、誰だ」

 慌てているのを見ると笑えるなあ。

 枕元に置いてあったカンテラを右手の親指で僕のそばまで持って行く。


「エリス・ティオール。久しぶりだね、院長」

 驚いてほしいとか思い出してほしいとか、そういう気持ちはないよ。そんなことよりも、ただ——早く殺したい。


「エリス? 気味の悪い子供か」

 久しぶりに再会したのにそれはなくないか。

「ふん、立派になったな」

 当時も思ってたけど、やっぱりヤな奴だなこいつ。

「で、今日は何の用だ」

「ん」

 その辺にあった奇麗な机の上に上がる。磨きこまれた机の表面に、携帯していた針で傷をつけてやった。

「喋れ」

 傲慢だな。

「面倒だって言ったら?」

「人を呼ぶぞ」

「面倒」

 ちなみに、院長はまだベッドに寝たまま。横着なの? 何なの?


 院長を机の上から見ていると、奴は左腕を伸ばした。

「裁縫形態、第五番。啐啄同時、百発百中」

 左手オンリーバージョン。

 本来は、全身を肉の燻製みたいに拘束して弾けさせる技だけれど、今回は部分を絞って掛けているので、若干しょぼい感じ。要はただ切断されるだけだ。

「え?」

 左にボタンみたいな出っ張りがあったので、それでベルが鳴ったりするんだろう。人を呼べるような装置なんだろう。

 噴水みたいに血が手首から噴き出る。結構勢いが強い。重厚な家具ぞろいの広い部屋を噴き出した血が鮮烈に染めていくのはなかなか壮観だった。


「いんちょー。僕と戦わないのぉ?」

 戦うなんて選択肢を選んだら嘲笑いながら殺してやるつもりだった。

「無理だ。貴様は強すぎる」

「お」

 僕の強さがわかるくらいには馬鹿だったんだなあ。

「せっかく私が人の強さに矯正してやろうとしたのに……わざわざ人でなしの道を選ぶとは。愚か」

 ベッドに寝たままで何を喋るんだこの男は。

「ふーん。僕のこと憶えているの?」

「憶えている。忘れたくても忘れられん」

 さては、会話を続けて命拾いしようという魂胆か。

「あれほどまでに、殺しに向いた子供は見たことがなかった」

 昔話でもするつもりらしい。暇だし聞いてやろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ