017 月夜
「あれ、ここ」
怪盗や泥棒、その他怪しいあれこれは月夜に行動するものだ、というリゼの弁に従って、真夜中に目的地までやってきていた。
「うん? 知っているところ?」
知っているも何も。
——ここは僕が生まれたところだ。
僕は先日、生まれてから十五年の記念日を迎えた。そろそろ一人前だ、なんてリゼが言うのでそれは否定したが。
だって僕は、まだ何もわかっていない。
感情の美しさ、だとか、そんなまやかしみたいな何かで自分を誤魔化すようにして人を殺すすべを身に付けた。
大きな目的なんかなく、誰かのために動くこともなく、ただ自分のために、自分の快楽を得るためにこの腕を振るう。
この小さな両手をすっぽりと覆う血に濡れた革手袋と、手袋の指先に繋がった極細の糸を、巻き付けて滑らせて締め付けて斬り付けてはち切らす。
そう、僕は糸使い。人呼んで、土蜘蛛。またの名を、——裁縫糸。
「ここ、僕が昔いた修道院だ」
修道院という呼称があっているのかさえ分からない。みんなそう呼んでいた、それだけのことだ。
「へえ。里帰り?」
リゼは七年前から何も変わっていない。あれ以来、髪も染めていないし、フリルのついた服を着ることなんてなかった。
それに比べて、僕は随分変わってしまった。背丈も随分伸びてリゼと同じくらいになったし、声も低くなった。
「僕の知っている人はほとんど残っていないだろうけど」
修道院では、十五歳になるかならないかぐらいの時に出て行き、自分で生計を立てるのが一般的だった。
「それは子供でしょ」
「まあ。院長は、確かにいるかもしれない」
というか、間違いなくいる。三代目の院長で、着任十年目であることを自慢していたくらいだ。死んでいなければいるだろう。
「懐かしくなってきた?」
「全然」
そういうわけではないんだけれど。
もしも僕みたいな子供がここの中にいたのなら。
僕はその未来を潰すことになるのかな。
そう思っただけ。
今夜、リゼと僕は、ある依頼人から指図を受けて動いている。
裁縫糸こと僕らは、宇宙最高レベルの殺し屋だ。金も随分積んだことだろう。
指図の内容は、
『丘の上の修道院を潰せ』
潰すっていうのは別に爆破でも何でもいいんだけれど、爆薬を買うお金もそれを仕掛けることも僕らは得手でないから、もっと単純な方法を使う。
皆殺しにするだけ。
しかし、依頼人の目的は何なのだろう。依頼された仕事において、相手を異常なまでに殺し尽くすことがモットーな僕らに頼んだということは、並々でない怒り・憎しみをあの修道院に抱いているということか。
最も依頼人の指示には、『子供は殺すな』とも書いてあったから、中の子供を解放したい慈善者なのかもしれない。
「エリー?」
「ん……もう行く?」
「うん。出陣だよ。——幸谷殺羅」
「わかっているよ。——幸谷双糸」