表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糸使いの一生 ~彼女はまたの名を人形狂戦士~  作者: 古海理香
第一部 8歳 偶然、もしくは必然
12/110

011 スイッチが入る

 あちこちの店で物を買い集めて——その間ソードは喋らなかった。もしかしたら機嫌を損ねたのかもしれなかった——、さっきのところまで戻ってきた。


 ふと、ショーウィンドウを再び覗いてみる。


「?」


 誰もいなかった。どころか、椅子の角度も、窓から差し込む光の当たり具合も、何も変わっていないように見えた。時は随分経ったのに。


「ソード」


 さっきまで喋らなかった彼を振り向く。


「リゼはどこ?」

「店の中だと思うけど」


 もしかしたら口を利かないかもしれない、という危惧は杞憂のうちに終わった。こういうことを安堵と言うらしい。


「でも、中にはいないように見える」

「そりゃそうだろう」

「何故?」

「だって、それはそういう鏡だからな。いつでもどこでも、一定の景色を映し続ける、そういう装置だ」

「店の中が見えているのかと思っていた」


 違ったのか、と登っていた小さな段を降りる。

 ドアの方に近づいた。


 ——ッ!

 思わず後ろに跳ぶ。


「あれ? 居たの」


 何のことはない、ドアが開いただけだった。でも、思わず殺されるかと思った。


「買い物は終わらせておいた」

「わーっ! そりゃ嬉しいな」


 ドアから出てきたリゼは、数十分前とは見違えていた。

 髪を黒く染めて、黒に金色のつる草のような装飾がついた、体にぴったりと合うスーツを着ている。下には何の変哲もない黒のパンツを履いているが、首に巻いた紅いマフラーと、指にはめた、さっきの革の手袋が普通でない空気を醸し出している。


「久しぶりに見たな。リゼの、『仕事着』」

「しばらく依頼が来ていなかったからね」

「また始めるのか?」

「ううん」

「まさか——こいつに教えるのか」


 こいつ、と指で指された。


「さっきも言ったろ。エリーは僕の弟子だよ」

「戯言じゃなかったのか」

「残念でした。やっと、師匠との約束を果たせそうなんだ」

「リゼがそれで良いなら止めないけれど」

「もう決めたことだよ」


 ソードはまだ何か言いたげにしていたけれど、リゼが僕の手を取ったのを見て、何かを諦めたように顔を上に向けた。


「一度、俺の店に戻ろうか」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ