プロローグ 始まりにして終わりの一幕
殺す者は殺される ――なんていうのは、彼女の口癖だった。そんな言葉が、現実になる日がくるなんて思わなかった。
「エリス」
名前を呼ばれて、
この短い人生でどれだけ見ただろう、彼女の笑顔が目の前で光った。
その手が伸びて、突き飛ばされる。
「さよなら」
どうやら。
自分が死ぬときじゃなくっても、走馬灯って言うのは見えるらしい。
くそったれ。死んでほしくなんかないのに。
「――!」
僕が名前を叫んでも、もう彼女には聞こえないようだった。
もう、あれじゃあ助からないよな。
白い雪に散った、花びらのような血が目に痛い。
聞こえていない、そうわかっても、名前を呼び続けるのをやめられなかった。彼女が逃げろ、と何度も焦点の合っていない目で言うのを、目に焼き付けて、やっとそこを離れることができた。
どれだけ離れたくなくても、どれだけすがって居たくても、生きたいっていう気持ちは正直だった。
気づけばかなり離れた場所まで走ってきていた。冬だから、雪が白かった。
「ああ」
白い雪と、紅い血のコントラスト。美しいというよりも毒々しすぎて。
人が死ぬことなんて見慣れていたはずなのに。彼女が死んだことは、悲しくて悲しくと仕方がなかった。そんな感情さえも、足元の雪が、雨が降るように融けたことで知った。
ああ、多分。
僕は彼女のことが、好きだった。