Ⅳ:am
車の免許を取得した翌日、地元に居づらくてすぐに大学のアパートに戻ってきてしまった。
自分の大学にも軽音サークルはあるにはあるが、設備が貧弱なこともあり、まともに楽器を弾くメンバーは皆無で、実質ほとんど飲みサークルだった。
結局、設備が充実している近隣の私立大学の軽音サークルを探して交渉し、そこに所属させてもらっている。
そこは私立大のマンモス校だけあってサークルの人数はとても多い。さらに自分のような他校生もいる。
そこそこ高価な機材も揃っているので、盗難防止のために上級生メンバーが部室の鍵を管理している。もちろん自分のような他校生は誰かに鍵を開けてもらわないと利用できない。
そんな事情もあり、私大サークルメンバーへメッセージを送ってみた。
【ギター弾きたいんですけど、今日の午後って誰かいます?】
出かける準備をしているうちに、『章人』という人から返事が来た。顔は思い浮かばない。
【俺開けるよ。2時でどう?】
【ありがとうございます。では2時で】
軽く昼食をとって家を出た。途中で行きつけの楽器屋に寄ってピックを買う。顔も思い浮かばないアキトだかアキヒトだか分からない先輩への鍵開けのお礼だ。
もちろんギターを弾く人かは不明なので、違ったら自分で使うつもりで購入した。
他校のキャンパスに足を踏み入れるのも最初は緊張したけれど、一年も経つと何も感じなくなる。
マンモス校だけあって、誰か生徒か生徒じゃないかなんて誰も気にしていない。そもそも学生が多すぎるのだ。
防音完備の部室はすでに鍵が開いていた。
先輩の姿を見て、ようやく顔と名前が一致した。
医学部の3年生――無事に進級してればこの春から4年の――國澤先輩だ。
下の名前は章人というらしい。
「ああ、返事くれたの、先輩だったんですね」
「うわ、ひどいな。俺だって分からなかったの?」
「すいません。下の名前は今日初めて知りました」
「ひどいな」
「メンバーが多くて覚えきれないんですよね」
「俺は由紀乃のことちゃんと覚えてるけどね」
「先輩は記憶力がいいんですよ、ただ単に。
鍵ありがとうございます。ヘッドホンして弾くんで、勉強とかしてていいですよ」
私はすぐにマルチエフェクターとヘッドホンを接続し、ギターに集中する。
音を歪ませられるだけ歪ませて、大音量で弾きまくった。頭が割れるような残響音。
このまま頭が砕けてしまえばいいと思いながら、私はギターをめちゃくちゃに弾きまくった。