Ⅱ:said
玲奈は前を見ながら淡々と語る。
自嘲にも似た笑みを浮かべながら――。
「相手さ……奥さんも子供もいるんだ……。私、最低だよね……」
「ちょっと待ってよ。悪いのは相手じゃないの?
奥さんも子供もいるのに玲奈と付き合うなんてさ。
ちゃんとした大人なら、そういうの絶対にしないと思うけど?
なにそいつ、なにしてるやつなの? ろくなやつじゃないって。どこで知り合ったの? そいつの仕事は?」
これは大学に戻る前に、その男をなんとかしていかないといけない。二度と玲奈に近づかないように、釘を刺しておかなければなるまい。
「私の主治医なんだよね、その人。
なんかね、奥さんとはもう仲良くないんだってさ」
言葉が出なかった。
玲奈が高校時代に体調を崩して以降、大学病院に定期的に通院していたことは知っていた。
病気のことは詳しく言わないから聞かなかったけれど、完治する病気ではなく、この先もずっと病と付き合いながら生きていく必要があることも――。
「なにそれ……最低……。
そんなの絶対に嘘に決まってるじゃん!」
怒りで声が震えた。
「玲奈は悪くないよ! 最低なのはその医者だよ!
病気の人の弱みにつけこんでさ! そんなの迫られたら断れないじゃん! こっちはまだ10代だよ! 犯罪者じゃんそいつ! 奥さんとうまくいってないなんて嘘に決まってんじゃん! 不倫するやつがすぐに言うやつじゃん! 信じちゃダメだよ! しっかりしてよ!
最低……なにそいつ……そいつが全部悪いんじゃん! いつから!? いつからなの? もしかして高校の時から? もうそいつ犯罪者だよ! 医者なんかじゃないよ!」
気がついたら、私は泣いていた