92話 お食事会以前の大騒ぎ?
争いは回避できたうえ、一緒に食事を取ることが決まった。
こうなったら、和睦するのも難しくはない。
私はそんなふうに、順調な一本道を思い描いていたのだけれど、現実はそう簡単にはいかなかった。
「……なんでこうなるの」
数刻の時を経て夕刻、私たちは再び、獣化したウルフヒューマンらに包囲されていた。
変わったのは、その数と場所くらいだ。
中間地点の小屋付近で私たちを包囲していたのは、一部のウルフヒューマンだけだったらしく、集落の総勢は二十名ほどがいた。
その人数分、食事を用意しようと思うと、あの小屋の設備では足りなかった。
だからって、警戒されている以上、彼らの集落に入れてもらえるわけもない。
そこで、全員を引き連れて、麓まで降りてきてもらうことになったのだ。
風呂嫌いなのはギンだけで、他の方々は匂いなどもしなかったから、カーミラさんたちにも受け入れてもらえる。
そう思っていたのだが、逆にウルフヒューマンたちの方から、拒絶されていた。
族長さんを除いて、警戒心ありありだ。
「……なんでこうなるの?」
屋敷の正面玄関前、私が隣であぐらをかいてベンチに座るギンに聞けば、「知らね」とそっけない回答がある。
「普通は魔物を飼ってたりしねぇからじゃねぇの?」
……まぁたしかにそうかも。
トレントが周りを囲んでいて、かつ、キラちゃんがふよふよ飛んで、ミノトーロが牛舎で寝転ぶ環境は警戒してしかるべきかもしれない。
落ち着いてもらうにはどうしたものか。
そう思っていたら、牛舎のほうからひと際激しい唸り声が聞こえてくる。
どうやら数人のウルフヒューマンたちが獣化した状態で、ミノトーロ達に威嚇をしているらしい。
リカルドさんは、ヒョースさんとともにキッチンにいるから、この場にいない。
であれば、私が対応するしかなかった。
とにかく牛舎の前へと向かい、そこで大きく手を広げる。
「この子達は、悪さしませんから!」
「……そうなのですか」
勇気をもって大きな声でもってこう伝えると、獣化をといて引き下がってくれた。
それから、後ろを振り返れば、いつも搾乳をさせてもらっている雌牛のモモちゃんが「モウ……」と弱々しく鳴く。
たぶん、怯えてしまったのだろう。
レリーフ草を食べた彼らは、本当に穏やかな性格なのだ。
私はとりあえず彼女らの毛並みをブラッシングしてやり、その心を落ち着けてやる。
それから畑の方へと戻れば、今度は別のウルフヒューマンの方が、ラプラプ草の音罠を踏んで、驚き跳ね回っている。
「な、なんなんだ、これは!?」
「……はぁ。あなたたち、少しは落ち着きなさい」
それを対応しているカーミラさんの顔の険しいことといったら。
ちなみに、その隣でフィランさんは尻もちをついている。
もはや混沌としてきている……!
とにかく、このままにしていたら、喧嘩が勃発してしまうかもしれない。
私は慌てて牛舎を出て、彼女の元へと向かう。
そんなふうに忙しく対応しているうち、リカルドさんらの料理が完成していた。
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