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90話 お前らが思ってるような奴じゃない。




翌日は、本当に雨が降った。


しかもそれは、しとしとと降り続けて、なかなか上がらないから、私たちは中間地点へと上る準備を進めたり、本を読んだりしながらまったりと過ごす。


そして一夜、綺麗に晴れ上がった空の元、私たちは再び中間地点へと向けて出発していた。



そのメンバーは、私とリカルドさん、それからギンの三人だ。

マウロさんはまだやることが残っているらしく、後日、合流することとなった。


今日はウルフヒューマンたちに渡す食料も積んでいるから前に上ったときよりも荷物量が多い。


さすがのトレント達にも負担になるだろうから、ゆっくりと道中を進む。

かなり長い時間の移動で、本来なら足腰が凝るところだが、乗っていてもまるで苦にならないのがトレントのすごいところだ。


二人やトレントたちと雑談をしながら快適に過ごしていると、昼前には中間地点までたどり着く。


が、しかし。

待ち受けていたのは、悲惨な光景だった。


なんと、小屋の周りに、野草やら肉やらが打ち捨てられていたのだ。


「……なんだ、これは」


それ以上は、言葉にならないらしい。

リカルドさんは、小屋の前で立ち尽くす。


……いったいなにがあったのだろう。

私は茫然としつつも、落ちていた野草を見回してみて、はっと気づく。


「これ、ウルフヒューマンの群れのところに置いて来たものですよ」

「……そういうことか。どうやら、見立てが甘かったらしいね」

「いらない、ってことですよね、これ。ここまでするなんて……」


私はそこまで言ってしまってから、はっとしてギンのほうを見る。

すると彼は頭を抱えて、大きくため息をついた。


「お前ら、俺に隠れてそんなことまでしてたのかよ」

「だ、だってあの時のギンに言ったって、やめとけって言うだけでしょ。だから……」

「今も同じだっての。あいつらは、凝り固まってるんだ。他人からの施しなんざ、自分たちがどれだけ困ってようが、受けやしねぇ。むしろこれだ。どうかしてるだろ」


ギンは吐き捨てるように言ってから、舌打ちをする。


怒りの感情が高ぶったせいだろう。

かつてないほど、眉間にしわが寄っていた。強い歯ぎしりも鳴らされ、その頬にはぴきぴきと血管が浮かび上がる。


獣化する一歩手前という雰囲気だったから、私はとりあえずそっとその手の甲に触れて、


「分かったから落ち着いてね、ギン」


落ち着くように諭す。


すると、呼吸を荒くしながらも、ギンの獣化は一応止まってくれて、私はほっと一つ息をつきかけるのだが……、それはほんの束の間のことに終わった。


「ずいぶんと飼いならされたらしいな、ギン」


こんな声が、背後にある森の中から聞こえてきたのだ。


私たちがぱっとその方向を振り向けば、木陰からすっと姿を現したのは、一匹の狼だ。

それも、ギンより大きく、立派なたてがみと髭を蓄えている。


「……ジジイ、てめぇ」


ギンがそう呼ぶのは、たしか族長だ。


そしてそれだけに放つ威厳も、また別格だった。

威嚇されているわけでもないのに、ただそこにいるだけで心の底が震える感覚がある。


単純に、恐ろしかった。背筋を駆けあがる恐怖に、私が思わず息を呑んでいたら、今度は周囲一帯からぞろぞろと、狼たちが姿を現す。


その数、計十匹ほど。

どうやら、いつのまにか囲まれていたらしい。


「突然逃げ出したと思えば、あれほど、近づくなと言った人間に近づく。お前は我らの定めを破った」


その真ん中、最初に出てきた狼が続ける。

問われたギンを見れば、かなり険しい目つきをしていた。


明白な怒りを孕んだそれは、相手を射殺さんばかりに鋭い。今に暴発してしまいそうな雰囲気に、私はとっさに彼の手を握る。


「ギン、落ち着くの。だめだよ、感情的になったら」


その拳の震えを抑えこむように、力をこめた。


「ギンくん、僕からもお願いするよ。このまま戦いになったら、まずいんだ。今後の友好関係は絶望的になるし、僕らもただじゃ済まない」


リカルドさんの言う通りだ。


戦いになったら、すべてが終わってしまう。

だが、このままなにもしないでいたところで、戦は避けられない。


どうしようかと思っていたら、


『おれたちがどうにかしようか?』


ミニちゃんが上からこう申し出てくれる。

確かにトレント達なら、ウルフヒューマンらを捕えてくれるかもしれない。


だが、相手はかなりの強さを誇る。彼らもただでは済まないかもしれないと思うと、判断しきれない。


かといって、魔力を放出する飴玉を投げたところで、ギンのようには飛びついてくれないし……


と、そうこう思い悩んでいたら、


「忘れたか、ギン。あれほど説いただろう。人間は残虐非道、すぐに裏切る、最低な種族だ。。そいつらもいつか必ずお前を――」

「ふざけるんじゃねぇ!!」


ギンの我慢が限界点に達してしまったらしい。

彼はそう叫びあげると、私の手を振り払い、その場で獣化してしまう。


族長の前へと出て行くと、怒り剥き出しの戦闘態勢で、前脚を屈みこませる。


「マーガレットくん! 飴を!」

「は、はい!!」


まったく思わぬ事態というわけじゃない。きちんとこの事態には備えていた。

私は焦りながらも、飴玉を腰巻のポケットから探り出す。


が、それをまさに投げようとしたその時。


「……マーガレットは、リカルドは、お前らが思ってるような奴じゃねぇ」


ギンが、こう言葉を発した。


それも、狼姿のままで。


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322411000126_01.webp 【ついで告知】 新連載はじめました!
大変面白い作品になりましたので、併せてよろしくお願いいたします。
焼き捨てられた元王妃は、隣国王子に拾われて、幸せ薬師ライフを送る〜母国が崩壊? どうぞご勝手に。〜

― 新着の感想 ―
[良い点] ギンさん、狼になっても理性を保ってる!それに、真っ向から意見してくれて。二人への信頼を伝えてくれてるし!でも、この後の展開にハラハラしますね…。 [気になる点] ここまで頑なに人を信じず、…
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